民医連綱領 実践のゲンバを行く!!(3) 「診療に来ないのナゼ?」繰り返し足運ぶ看護師たち 愛媛・新居浜協立病院
いのちと健康、人権を守ろうと民医連ががんばるおおもとには、綱領に掲げられた理念があります。綱領の実践を紹介する連載。三回目は、愛媛・新居浜協立病院の「中断患者訪問」のとりくみを。
地図を見ながら訪問先を探す山内さん(右)と溝浦さん |
「こんにちは。ごめんくださーい」と、玄関先で呼びかけるのは、新居浜協立病院の看護師・山内美香さん。「玄関の扉は開いてるのに…返事がないね」。炎天下のなか額の汗を拭い、家の中のようすをうかがいます。
協立病院の外来看護師集団は、長年「地域に打って出る」訪問活動を掲げ、日常の医療活動にとりくんできました。訪問の対象は、糖尿病、高血圧、呼吸器な ど慢性疾患を抱え、本来は定期的に通院が必要なのに中断している人、また日常診療でスタッフが気づいた、いわゆる「気になる患者さん」です。体制が厳しい のは協立病院も同じですが、患者さんの中断理由や生活状況を知り、治療へと繋ぐためにおこなってきました。
記者が訪れたこの日は、山内さんとSW(ソーシャルワーカー)の溝浦友子さんが患者さん宅を訪問。通常は看護師二人で訪問しますが、経済的な理由で受診 を中断していると思われる場合は、SWや事務職員が一緒に訪問します。
業務の空き時間などに気になる患者さんのカルテを出し、病名や受診状況などから「対象患者リスト」を作成し、患者さん宅へと向かいます。そのときの「必需品」が、血圧計や血糖値を測る器機です。
「その場で血圧や血糖を測り、目に見える『数値』を示すことで、治療の必要性を理解してもらいやすいから」と山内さん。看護師ならではの発想です。
粘り強い訪問で、再来につながる
訪問件数は二〇〇七~〇九年で一二一件、実際に話ができた中断患者は八三件。主な中断理由は、「自覚症状がないから」が四割、「転医・転居によるもの」が三割強、「入院・死亡」が一割でした。
粘り強く訪問を続けるなかで、再び外来受診へ復帰する患者も生まれています。
自宅で販売の仕事をしているAさんもその一人。きっかけは二〇〇五年、協立病院で受けた事業所健診でした。しばらく健診を受けていなかったAさんは、糖尿病の疑いを指摘されたのです。
健診後、数回通院したものの、早々に治療を中断。「食事や運動に気をつければなんとかなる」と考えていたようです。
二〇〇七年七月、さっそく職員が訪問。近況の聞きとり、採血をおこなうと、血糖値はなんと四八六mg/dl。標準的な人で七〇~一〇九mg/dlですか ら、歴然とした高血糖でした。驚いたAさんは、受診を再開。しかし、仕事が忙しくなり、治療は後回し。生活も不規則になり、再び中断してしまいます。
看護師があらためて自宅を訪問。「どうして治療が大事なのか」と、継続的に治療する必要性を説明しました。
「突然訪ねてきて、びっくりしました。目の前で血糖を測ってくれて、『こんなに(数値が)高いの?』って驚いたのを憶えています」とAさん。「私の病気のことを気にかけ、繰り返し足を運んでくれるなんて、他の病院ではないでしょ」。
現在は定期受診をし、治療を続けています。病気の影響なのか以前、歯科で「歯が脆くなったのでは?」といわれ、不安になったこともあったとAさん。そんなとき心の支えになったのが協立病院です。
「協立病院の先生はていねいに話を聞いてくれるし、訪問にきてくれた看護師さんと病院内で会うと、親しみがわきます」と、うれしそうに話してくれました。
中断させない工夫
しかし、「中断患者訪問は、思っていた以上に難しい」と話すのは、看護師の家久美紀さんです。
ご自宅を訪ねても、必ず会えるとは限りません。仕事に出かけていて不在といったケースも最近増えているそうです。
「いまは不況でしょう? 仕事を休んで病院に通うということは、とても大変なことなんですよね。私たちも時間を見つけて訪問していますが、やはり足繁く通って、何度もトライすることが大事なんですよね」と家久さん。
訪問行動後は、会えなかった患者さんを引き続きフォローできるように、必ず「訪問日誌」とカルテに訪問結果を記入し、翌日の朝礼で報告。他のスタッフからも助言をもらい、対応を検討し、必要な場合はすぐに再訪問します。
また、中断させない工夫もしています。診察予約日に来院しなかった人へ連絡することはもちろん、「気になる患者カード」を診察室の「カレンダー」に貼り、次回の診察日にスタッフの誰でも、患者さんを気遣う声かけができるように申し送っています。
中断している患者さんを訪ね、話ができたうち、協立病院の再来につながったのは二割ほど。一人暮らしで送迎の足がない、交通の便が悪く協立病院に来たくても来られない患者さんも多くいます。
「診られるものならウチで診たい。でも中断していた患者さんが、他院であっても治療を続けているのが確認できるだけでも、この訪問に意味があると思います」と家久さん。
最近は近くの病院にかかり、定期的に薬も処方されているという、ある患者さんのエピソードを話してくれました。
「『いまは落ち着いていて何ともないよ。でも何か大きな病気があったときは、協立さんでお願いするよ』といわれたんです。私たちが頼りにされているのだと、うれしかったですね」
独居世帯の増加、不況による生活苦で治療を中断せざるをえない深刻な状況が続いています。この九月から協立病院は、新たに「無料・低額診療事業」を開始。続けて必要な治療が受けられるよう、中断患者訪問とあわせてとりくみを強めます。
文・井ノ口創記者
写真・酒井猛
いつでも元気 2010.10 No.228