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いつでも元気

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特集2 若い人の認知症 支援制度の改善が急務 脳SPECT検査で早期発見を

脳SPECT検査で早期発見を

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伊古田俊夫
北海道・勤医協中央病院
(認知症サポート医、脳神経外科専門医)

 65歳未満で発症した認知症を「若年認知症」と呼びます。現役で社会的活動をされていることが多いこの年代が認知症に陥ると、本人はもちろん、周りの人たちにも混乱や深い苦しみを招きます。
 ある習い事の先生は、認知症がきっかけで教室が急速に崩壊し、本人、子どもとその家族に不信感と苦しみを残しました。町長さんの場合は、議会は騒然とな り、正しい診断を得て、やっと正常化への道をたどりました。以上は一例ですが、もし医療に携わる私たち医師や看護師が若年認知症になったら…背筋が凍りま す。
 若年認知症は、若い人の認知症ということにとどまらず、当事者の苦悩・困難は、私たちの想像を超えるほど過酷なものがあります。認知症といえば高齢者の 病気とのイメージが強く、社会的にも若年認知症は十分に理解されているとはいえません。
 私は2007年度から、札幌市若年認知症支援事業の推進委員長を務めさせていただいています。その経験をもとに、若年認知症とはどんな病気なのか、解説していきたいと思います。

若年認知症とは

表1 若年認知症の主な原因

代表的な病気
  ●アルツハイマー型認知症
  ●血管性認知症
  ●頭部外傷後遺症
  ●前頭側頭葉変性症
   前頭側頭型認知症、
   意味性認知症など
  ●アルコール性認知症
  ●レビー小体型認知症
回復可能な病気
  ●甲状腺機能低下症
  ●正常圧水頭症
  ●ビタミン欠乏症

 認知症とは、いったん正常に発達した知的機能が持続的に低下し、記憶力や理解力、判断力などに障害が起き、社会生活に支障をきたすようになった状態と定義されています。
 若年認知症の発症率は60代前半0・1%、50代0・02~0・04%で、患者数は全国に約4万人と推定されています。認知症患者全体(約200万人)の2%ほどです。
 札幌市(人口190万人)では実態調査から450~500人と推計されています。発症する年齢は、平均51・3歳(±9・8歳)で、6対4の割合で男性に多くみられます。
 主な原因は表の通りで、全国調査(2008年)では、血管性認知症39・8%、アルツハイマー病25・4%、頭部外傷後遺症7・7%、前頭側頭葉変性症 3・7%、アルコール性認知症3・5%、レビー小体型認知症3・0%でした。札幌市調査(2007年)では、(1)アルツハイマー型認知症50・2%、 (2)血管性認知症24・6%、(3)前頭側頭型認知症8・5%、(4)レビー小体型認知症0・9%という結果でした。
 ここでは、若年認知症の代表的で特徴的なものについてご紹介します。

アルツハイマー型認知症

 アルツハイマー病は若年認知症の原因となる代表的なもので、初期症状は記銘力障害と見当識障害です。
 記銘力とは、毎日のできごとや考えたことなどを記憶する力です。これが失われると、物事を覚えられなくなり、買い物でも家事でも目的をはたせなくなります。
 見当識とは、自分がいる場所や時間など、自分の置かれた状況を正確に認識する力です。この力が低下すると、生活が混乱していきます。
 アルツハイマー型認知症で必ず現れる症状が、視空間失認です。空間を立体的につかむ力が失われます。若年認知症では、視空間失認が早い段階から目立つこ とがあり、診断上重要です。「図形がうまく描けない」「車に乗ろうとしたが、ドアがわからない」「家の前で玄関が認識できない」「よく知っているはずの場 所なのに、どこを歩いているのかわからなくなる」などの症状が現れます。
 若年のアルツハイマー型認知症は、速い人で5~10年、遅い人でも10~15年で重度へと進行します。もっとも重度の状態では物事を認識する力がほとん ど失われ、言葉も話せなくなり、意思疎通も難しくなります。食事をしたり、服を着たり、トイレに行くなどの、自分の身の回りのこともできなくなります。
 20~30代で発症する例では、遺伝子異常が多い傾向にあります。50歳代以降で発症する例では遺伝子異常は明確ではありません。診断には「脳 SPECT」といって、血流や脳のはたらきがよい部分を見分ける検査が有効です(図1)。根治療法はまだありませんが、アリセプトという薬が症状改善に有 効です。アルツハイマー病では、脳内で情報を伝達する物質(アセチルコリン)が不足しますが、アリセプトはこれを防ぐ働きがあります。とくに若年性アルツ ハイマー病で効果が期待されています。
 図2はアリセプトを1年間使用したことで、症状が改善した64歳男性の脳SPECT画像です。脳内の血流が回復しているのがわかります。

図1 脳SPECT検査画像の例

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 61歳女性。脳の血流が悪くなっているとわかり、アルツハイマー型認知症と診断された。黒青→黄緑→黄…の順で血流低下がひどくなる。血流低下は、脳のはたらきの低下を意味する。

図2 アリセプトで血流改善(上面)

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 青の部分が大幅に消え、血流が改善していることがわかる

 

血管性認知症

 血管性認知症は、脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)などの後遺症として起きます。大脳に大きな梗塞(組織が壊死を起こす)ができたり、小さな梗塞がたくさんある場合に起きやすく、脳卒中の発作を繰り返すことで悪化します。
 私の経験では、脳の前交通動脈という血管の動脈瘤が破裂して起きたくも膜下出血、心臓の血栓が脳へ飛んで起きた脳梗塞、閉塞性動脈硬化症(動脈硬化で脚 などの動脈が細くなる)が原因で繰り返し起きた脳梗塞などで、認知症を併発した患者さんがおられました。脳血管障害の患者さんが加齢とともに認知症を示す 場合は「血管性+アルツハイマー合併型」認知症と診断すべき場合もあります。記憶・見当識障害があるものの部分的には的確な“まだら型”が多く、すぐ怒っ たり泣いたり、集中力低下などを起こしやすいのが血管性認知症の特徴といわれています。
 血管性認知症はリハビリテーションで一定改善します。脳卒中の再発予防が大切で、高血圧や糖尿病の治療、血液が固まるのを防ぐ抗血小板剤、抗凝固剤の服 用などが有効です。アルツハイマー型が合併している場合はアリセプトも併用します。

前頭側頭型認知症(ピック病)

図3 脳の全体図

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 脳はおおまかにいって、図3のようにわけられます。このうち、脳の前頭葉と側頭葉が変化を起こし、萎縮してしまう病気を前頭側頭葉変性症といいます。その一種で、従来ピック病といわれていた病気を最近では前頭側頭型認知症と呼んでいます。
 性格の変化が顕著で、短気になり、イライラしたり、だらしなくなったり、態度が粗暴になったりします。家庭や職場、地域のルールや慣習を平然と無視する こともあり、人と会話している最中に急に立ち去ったり、同じことを繰り返したりします。
 自発性がなくなり、抑うつ症状が目立つことも少なくありません。病状がすすむにつれて記憶障害、見当識障害も目立ってきます。食べ物の好みも変わり、味 の濃いもの、甘いものを好む傾向があります。残念ながら治療薬はまだありません。

アルコール性認知症

 アルコールの長期大量飲酒も脳の萎縮を招き、認知症の原因になります。その症状は主に次の2つです。
 ひとつは、アルコールを大量に飲み続けた結果、ビタミンB1などが欠乏して起こる症状です(コルサコフ症候群)。記憶障害、見当識障害が現れ、欠けた記 憶を補おうとして作り話をしたり、架空の話と現実の区別がつかなくなったりします。
 もうひとつはアルコールによる精神症状です。性格が攻撃的、自己中心的、自虐的になります。お酒を飲んだのに「飲んでいない」と否認したり、自分が病気 だという意識も低下し、嫉妬妄想、幻覚(幻聴が多い)などが現れます。
 先ほど述べた認知症の定義に当てはまる程度に症状がそろったとき、アルコール性認知症と診断されます。
 図4はアルコール性認知症の59歳男性の脳SPECT検査の画像です。両側頭頂葉、小脳、両側後頭葉などで血流低下、機能低下が起きていることがうかが われます。この検査結果から、慢性的なアルコール性認知症では、記憶や理解、感情、意思などをつかさどる中心となる大脳に主な病変が起こるものと判断でき ます。
 飲酒の適正な量は、1日あたり純粋アルコールで20グラム(約25ミリリットル以下)です。日本酒で1合以下、ビールで500ミリリットル以下に相当し ます。これを大きく超えて長期間、ほぼ毎日飲み続けた場合に、アルコール性認知症になる可能性があります。
 ちなみに大量飲酒とは、ほぼ毎日150ミリリットル(日本酒で5・5合、ビールで500ミリリットル缶を6缶)のアルコールを飲むことです。アルコール 依存症になる可能性も高まります。 大量飲酒以下でも数十年続ければ、初老期にはアルコール性の認知症が現れてきます。断酒により、一定の改善が期待でき ます。

図4 アルコール性認知症患者の脳SPECT画像

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早期診断のために

 若年認知症では、正確な診断がされるまで時間がかかることが多く、大きな問題です。異変に気づ いてから医療機関受診まで1年以上かかった方が46%に及びます(札幌市調査)。また、若年認知症の方が初診時に認知症と診断されない率は50%近くに達 します(診断名はうつ、更年期障害、ストレス障害、異常なしなど)。正しい診断に至るまで2~3年かかる方も多数いる現実を私たちは直視しなければなりま せん。
 診断にあたっては記憶や見当識、知能や空間認識を診るテストに加え、脳の状態を撮影する画像診断の導入が望ましいと思われます。現在早期診断に役立つ画 像診断法としては、MRI・VSRAD解析(電磁波を使った脳の断面撮影をおこない、コンピュータで解析)と、脳SPECT検査の2つがあります。私は認 知症の診断では脳SPECT検査がより有効で重要だと考えています。
 若年認知症は精神科、神経内科、脳神経外科などで診ますが、医療機関によっては扱っていない場合もあります。「若年認知症家族会」 【03(3403)9050】、地域包括支援センター、若年性認知症コールセンター【0800(100)2707】などに相談し、受診先を決めるのも良い と思います。

発症で生活困窮におちいる

 札幌市の実態調査(07年)では、就労していた方の80%が発症後に解雇・退職に追い込まれたという結果が出ました。若年認知症は、家族の生活困窮にも直結しています。
 若年認知症における支援制度は欠陥が多く、適用を受けられない事例が少なからずあります。たとえば65歳未満の精神疾患では「自立支援法に基づく通院医 療費助成」があり、通院医療費は1割負担ですみます。ところが若年認知症は「易怒性・気分変動などの情動障害、暴力・衝動行為などの行動障害をともなう認 知症」のみが対象です。つまり若年認知症患者が”感情が不安定で問題行動を起こす”ときは1割負担、治療して改善すると3割負担となるのです。
 認知症は症状の悪化と改善を繰り返す病気です。それなのに若年認知症の支援制度は、症状の変化にあわせて負担が増減するという、不可解で奇妙な制度に なっているのです。厚生労働省の「支給認定判定指針」に原因があり、改正を強く求めます。
 障害年金制度、特別障害者手当、オムツ支給制度など、若年認知症は念頭におかれずに設計されたと思われる制度が多々あります。私は、障害者を支える各制度を若年認知症患者の立場から見直す必要があると感じます。
 若年認知症特有の施策として就労支援事業があります。作業療法として家屋のリフォームに1年間取り組み、有意に認知症症状が改善した、という研究報告が あります。若年認知症では仕事感覚のリハビリテーション、スポーツ感覚の運動療法は有用で必須のものです。現在就労支援事業が一部でモデル事業として進め られていますが、普及が望まれます。
 介護やケアは、文献を紹介しますので参考にしてください。

【若年認知症の介護・ケアに関する文献】

(1)宮永和夫・若年認知症家族会編集:若年認知症―本人・家族が紡ぐ7つの物語(中央法規出版2006年)

(2)宮永和夫:若年認知症の臨床(新興医学出版社、東京、2007年)

(3)小坂、朝田、宮永他:精神医学51 939-987ページ、2009年(若年認知症に関する論文を掲載した特集号、医学書院刊)

(4)伊古田俊夫他:若年認知症(『介護新聞』2008年7月24日-10月9日まで11回、札幌市若年性認知症支援事業推進委員の共同執筆)

(5)伊古田俊夫:若年認知症・介護サービス事業の発展を目指して(『介護新聞』2009年12月3日及び12月10日)

(6)伊古田俊夫:若年認知症(『ベストナース』2010年、7・8月号)
※(4)(5)(6)をご希望の方は、勤医協中央病院医局まで返信用封筒を同封の上、郵送でお申し込みください。
  勤医協中央病院医局
  〒007-8505 札幌市東区伏古10条2-15-1
  電話011-782-9111(代表)

いつでも元気 2010.8 No.226