(得)けんこう教室/「ロコモ」のお話/健康寿命をのばそう
大川 匡 北海道・勤医協中央病院 整形外科
骨や関節、筋肉など身体を動かす器官や、そこに指令を伝える神経などを運動器と呼びます。それが衰え、転びやすくなる状態をロコモティブシンドローム(運動器症候群)、通称「ロコモ」といいます。
転倒・骨折、寝たきりを防げ!
「メタボ」(メタボリックシンドローム)は動脈硬化を招き、脳卒中などの脳血管の病気や心筋梗塞などの心臓の病気を引き起こします。一方、「ロコモ」は変形性膝関節症など関節の病気や、転倒・骨折がきっかけで、寝たきりや外出困難を招き、介護の必要性が高まります。
2007年国民生活基礎調査によると、要支援になった原因は、「メタボ系」が22・3%(脳血管疾患14・9%、心疾患7・4%)に対し、「ロコモ系」 は32・7%(関節疾患20・2%、 転倒・骨折12・5%)と、いっそう高い比率を占めています。メタボとロコモ、そして認知症は、要介護状態の三大原因になっています。
また昨年、股関節周辺の骨折受傷者は17万人で、そのうち約1割は受傷から1年以内に亡くなっています。寝たきりどころではありません。「たかが骨折」ではないのです。
骨折は予防できる ―欧米での実績
「でも、そう簡単に骨折なんて防げないと思うけど?」―いえいえ、そんなことはありませ ん。適切な運動と薬で防ぐことができます。事実、欧米では骨折の発生率が近年下がってきています。毎年上昇していた日本でも、昨年は特定の年代・グループ だけですが、発生率が低下しました。
「ロコモ」は転びやすい足腰の弱さを指し、転んだら骨の折れやすい体質を「骨粗鬆症」と呼びます。骨折予防の二本柱は、「転倒予防運動」と「骨吸収抑制剤」(骨の破壊を抑える薬)です。足腰を強化し、体質を改善すれば骨折は防げます。
もしや、あなたもロコモ?
さっそく「ロコチェック」(表)をしてみましょう。心当たりはありませんか?
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一つでも心当たりがあれば、ロコモの疑いがあります。足腰が弱っていて転倒・骨折をしやすくなっています。お近くの整形外科医(なかでも日本整形外科学会認定の運動器リハビリテーション医)に相談しましょう。
たとえば変形性膝関節症(膝関節が変形する)や腰部脊柱管狭窄症(脊髄が圧迫されて足がしびれたり動かせなくなる)など原因となる疾患があれば、適切に治療・管理をし、足腰強化の「ロコトレ」に励みましょう。
「ロコトレ」で足腰を鍛えよう
足腰を鍛える運動で転倒は減ります。ラジオ体操やウオーキングなど日常的な運動習慣がある人は、運動していない人に比べ、骨折の危険性が平均20~40%、最大50%も減らせます。また、近年では太極拳で転倒が半減するとの報告もあります。
しかし、いきなり激しい運動をして、転んだり故障しては逆効果です。これまで運動習慣のない人には、安全第一のロコモーショントレーニング(ロコトレ)をオススメします(図)。
体質改善はどうやって?
「骨粗鬆症」=骨折しやすい体質の改善には薬を使います。骨といえばカルシウムやビタミンDなどの摂取が古くから用いられていますが、それだけでは骨折は減りませんでした。
現在の主力は「骨吸収抑制剤」です。2000人弱に3年間服用していただいたところ、危険性は53%も減りました。その他の研究や服用実績でも骨折確率はおおむね半減することがわかっています。
これまでに手首や背骨を骨折したことのある人は、すぐ体質改善にとりくみましょう。また骨密度が低い人や、ステロイドを服用中の人も骨折予防が必要です。
自立して、いきいきと暮らそう
日本の人口は減少に転じ、団塊世代もリタイアする年齢となりました。今後、高齢者の数も比 率もますます増えていきます。寝たきりでなくても、人のお世話がなければ暮らせないのが「要支援」の状態です。長生きするだけではなく、自立していきいき と暮らす「健康寿命をのばす」ことが大切です。
参考
■『NHKここが聞きたい! 名医にQ ロコモティブシンドローム』( 日本放送出版協会)
■「ロコモパンフレット」(日本整形外科学会)
http://www.joa.or.jp/jp/public/locomo/locomo_pamphlet.pdf
イラスト・井上ひいろ
いつでも元気2010年4月号