「民医連綱領」ここに力の秘密あり7 今回のキーワード■医療機関や福祉施設、行政などとの連携をつよめます 「顔の見える連携」で地域医療を守りぬく 鹿児島・国分生協病院
民医連の事業所は現在一七五八カ所、八万人近い職員が全国で医療・介護をおこなっています。地域や規模は違っても、同じ「心」で つながって…それを表すのが「民医連綱領」です。一九六一年に決定されてから半世紀近く経て、さらなるバージョンアップを計画中。読者に知らせたい民医連 の姿を綱領のキーワードから追う連載。七回目は「医療機関や福祉施設、行政などとの連携をつよめます」。
「患者さんを送った側の病院や開業医が、私たちの病院にきて診療の助言をしてくれることも増えてきました。新たな動きに驚いています」
こう話すのは鹿児島・国分生協病院(霧島市)の吉見謙一院長です。「送ったほうも送られたほうも『患者さんのために』と一生懸命なんです」。何がこのようなつながりを生んだのでしょうか。
進む医療崩壊に、たちあがった
吉見院長 |
きっかけのひとつが、医療崩壊にたちむかう医師たちのとりくみ。霧島・姶良地域(霧島市と姶良 郡四町)は、県内で鹿児島市に次ぐ規模にもかかわらず、専門医療や救急医療の多くを三〇キロ離れた鹿児島市に依存しています。急性期医療、とくに救急・小 児・脳卒中などは、入院の必要のない患者でも受け入れに困難をきたす事態に。
二〇〇六年には中核病院である霧島市立医師会医療センターの小児科廃止が発表され、大きな衝撃が。この緊急事態にいち早く立ち上がったのが、地域でもう 一つの小児科病棟をもつ国分生協病院。廃止反対を訴える署名運動にもとりくみましたが、夜間外来を残して小児科病棟は廃止。それでもなお生協病院は「小児 科の苛酷な現状を知って」と市に要請、市長の生協病院視察が実現します。
「医師会や行政と一緒になって、地域医療を守るとりくみが大きく動きはじめたのはこのころからでした」と吉見院長。
〇七年には、生協病院開設二五周年を記念してシンポジウム「霧島市の救急医療をどう守るか」を開催。副市長が市長代理として出席、姶良郡医師会長、医療 センター院長もシンポジストに。医療体制の困難を市民に伝えるとともに、医療機関同士のネットワークづくりをすすめて力をあわせること、医師会や行政も援 助を惜しまないことなどを確認しました。
この合意の背景には、「救急医療が衰退するなかで必死にがんばっているこの地域の医療機関、スタッフを大切にしたいという強い気持ちがあった」と八木幸 夫姶良郡医師会長は語ります。「限られた医療資源のなかで、医療という『地域の財産』をどう守りぬこうかと考えたのです」
「顔の見える連携」を意識して
連携がすすんだ背景にはもうひとつ、日常診療を含めて他の医療機関と協力しあう国分生協病院の「構え」が。〇三年、地域に開かれた病院をめざして策定された「医療連携方針」。「医療連携部」も新設し、本格的に動きはじめます。
〇六年には「今を知り、地域を知ろう」を合い言葉に、病院全職員の参加で「地域医療機関訪問」を実施。
「生協病院が地域ではたす役割をはっきりさせ、『顔の見える連携』を心がけてきました。開業医は紹介先の医師の顔を知って、はじめて安心して紹介できます から」と吉見院長。生協病院は医師会の会合にも積極的に足を運び、病院をこえて合同カンファレンスやセミナーを開催、夏祭りなど地域行事にも職員あげてと りくみ、新たな関係を地域の中に広げてきました。こうしたとりくみが功を奏し、地域からの紹介患者は外来・入院ともにこの五年間で一・九倍に増加しまし た。
〇八年には「姶良地区循環器ネットワーク協議会」を、医師会や自治体、消防、保健所、医療機関などと結成。緊急に治療が必要な急性心筋梗塞など循環器の患 者の『たらい回し』を防ごうと、専門医を効率的に配置し、生協病院や医療センターなど三つの拠点病院が交替で二四時間対応する「循環器救急輪番制」を確 立。〇九年四月からは、三つの循環器ネットワーク輪番病院に、救急医療への交付金も自治体から出るように。
「医師会が中心となり働きかけてくれたおかげです。大変なのはどこも同じ。顔をつきあわせ親身になって話すことで、医師会や近隣の病院が本当に身近な存在になってきた」と、吉見院長。
新たな関係づくり、連携も広がる
八木医師会長 |
つながりを広げるなかで、近隣の脳外科病院理事長の坂元健一医師が生協病院に非常勤医師として加わっています。病院で毎週開催される病棟カンファレンスに参加、月二回当直にも入っています。
長い間救急医療に携わってきたという坂元医師。「それはうちの専門ではない」と疾患で患者を区別せず、まずどんな患者でも受け入れて対応するという生協病院の姿に共感したといいます。
「カンファレンスに参加し、患者さんを通じて地域の医療機関がつながっていると感じます。さまざまな連携を探り、医療崩壊を突破しようと、積極的に地域に働きかけている生協病院の意気込みは心強い。気軽に相談できる良きパートナーです」と坂元医師は笑顔で語ります。
吉見院長も「私たちもお互いの専門を生かして患者さんへの治療や手術に効率よく対応できるようになった」と。
連携のカギは私たちにも
「どこに相談していいかわからず、孤立している開業医も多いと思う。『絆』を大切に、患者さんのために競合ではなく、連携できるようにまとめるのが医師会の役割です。もっと行政にも働きかけていきたい」と八木医師会長は力を込めます。
吉見院長もこう抱負を語りました。
「連携のカギは私たち民医連にもある。日々の診療に埋没せず、もっと外に足を運びたい。医師会や行政とも協力しながら、地域や将来のまちづくりを考える機会にもしていきたいですね」
文・井ノ口創記者/写真・酒井猛
いつでも元気 2010.2 No.220