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いつでも元気

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特集2 長生きの秘けつ探ろう 100歳インタビュー

いるだけでまわりも豊かに

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伊藤浩一
東京・中野共立診療所所長

 健友会では08年、東京都中野区と杉並区に住む100歳以上の方に「状態調査」(100歳インタビュー)をおこないました。

姥捨て制度に対抗しようと

 状態調査のきっかけは、08年4月に始まった後期高齢者医療制度です。100歳になると、首相から銀杯が贈られ、中野区長からも賞状が贈られ、お祝いされます。
 しかし後期高齢者医療制度は、100歳以上の人からも保険料を徴収します。私は「100歳以上の人からも医療保険料を徴収をするなんて、そんな制度が あっていいんだろうか」と感じました。そして姥捨山と批判された制度ですから、「この制度への一番の対抗は、長生きすることなのではないか」と考えまし た。
 そこで長生きの象徴である100歳を超えた人たちの物語を聞いてみようと思い、職員有志で調査にとりくむことにしました。

状態調査とは

 状態調査とは、一人ひとりの生きてきた物語を語っていただく調査の手法です。聞き手は2人程度 で訪問し、2時間を目安に、話し手に自由に語っていただきます。話される内容は個々人の経験や思いですが、個々人の歴史もその時代の社会や文化を色濃く反 映しており、20~30人の物語を聞いていけば、普遍的なものがたくさん含まれているものです。
 この調査は、アンケート調査のように状態を数値で把握するものではありません。話し手がいちばんいいたいことを聞きとる調査です。こうすることであまり表に出にくい要求や本質的な問題を浮き彫りにすることをねらっています。
 英国のオックスフォード大学では、患者個々の経験を語ってもらった映像や音声をデータベースとして蓄積して、教育や研究の資料にしようというとりくみがされています。このとりくみでは、数十名の同じ病気の患者さんの物語に普遍性があると考えられています。

実行委員会をつくって

 職員有志で実行委員会をつくり、医師・看護師・事務のほか、医学生・看護学生にも参加してもらいました。
 はじめ問題意識を出し合い、調査の目標を相談しました。また100歳以上の高齢者に関する学習会をおこないました。そして聞きとる柱立てを検討しまし た。語りたいことを話していただく調査ですが、聞きとりの柱立ては決めておきます。私たちは、生い立ち、どんな人生を送ってきたのか、家族構成、収入、現 在の要介護度、誰がご本人を介護しているのかなど、聞きとる柱を打ち合わせ、調査に臨みました。
 話し手は、当法人の事業所を利用している100歳以上の方で、ご本人またはご家族が同意してくれた方です。介護者にも話し手になってもらいました。当初15人ほどを目標にしましたが、結果的にお話をうかがえたのは7人でした。語り手の方々の年齢、家族構成などは表1の通りです。
 その後、まとめの報告会をおこない、聞きとってきた内容を実行委員会のメンバーで共有しました。
 聞きとりの中で共通していたこと、スタッフが感じたり心に残ったことなどを紹介しましょう。

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介護負担感が軽い

 共通していたことは、まず、いっしょに住んでいる介護者がいることです。同居しているご家族がいない方は1人でした。
 そして介護者に対する感謝の気持ちを持っていたり、介護する側も100歳を超えた方を大切に思っていることが印象的でした。介護負担をあまり感じない、介護をむしろ楽しんでいる、という方もおられました。
 日本ではこんな研究報告があります。100歳以上の人を介護している人と、100歳未満の人を介護している人を比べると、「100歳以上を介護している人の方が介護負担感は軽い」というのです(図1)。
 介護度は100歳以上の方が重いにもかかわらず、100歳以上の高齢者を介護している人の方がストレスが少ない。やはり100歳ということには特別の意味合いがあって、100歳を超えた人を大切に思う気持ちが、介護者のストレス感を軽くしているのかもしれません。
 私たちの調査でも、次のような言葉が聞かれました。
 ▽「負担がないといえばウソになるが、強がりではない。母には悪いが楽しんでいる。他に変えられない宝物」と娘さん。
 ▽「負担とは思わない。今日があるのはワイフのおかげ。105歳くらいまで生きてほしい」と介護者である年下の夫。
 ▽「介護は疲れない。1日でも長く生きていてほしい」と娘さん。

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座位を保つことができる

 次は、座位(座った姿勢)をとっている人が多かったことです。私はかねてから長生きしている方 を診ていて、「座位が長生きの秘けつでは」と感じてきました。今回調査した中でも、7人全員が座位を保つことができました。要介護度は自立で、100歳に なるまでお風呂場でご自分の洗濯物を全部洗っていたという人もいましたが、胃ろう(胃に栄養剤を入れる管をつなぐための穴)の方も日中、座位を何時間も とって過ごしていました。
 肺炎は、高齢者が具合を悪くする大きな原因の一つですが、寝ていないで、座位をとることで肺炎も起きにくくなります。こうしたことも、長生きに役立っているかもしれません。
 宇宙では、無重力状態のため体に負担がかからず、骨が弱くなったり、循環する血液の量が減ることなどがわかっています。
 これに似た現象は、寝たきりでほとんど動けない人に起きてきます。私は、重力に逆らう姿勢を保つことは、長生きする上でも大切なことだと考えています。ですから、高齢で横になっていることが多い患者さんにも、日中、体を起こす時間を持つようにすすめています。

不安や悩みがない

genki219_05_04 3つ目は、ポジティブな考え方、悩み・不安が少ない性格の人が多いように感じられたことです。
 ▽働き者で愚痴もこぼさず、85歳まで築地で働いていた。
 ▽不安や悩みを聞くと、「あんまりないわね」。長生きの秘けつは「くよくよしない」ことと。
 ▽いまは認知症だが、「ストレスをためない人だった」と夫。
 ある女性は、自分の人生について「迷ったことはない」と。そして「みんなも、理想を高く持って走っていくこと。右か左か前か後ろしかないんだから」とスタッフに話してくれました。これはもう脱帽です。

家族や社会とのつながり

 4つ目は、家族や社会とのつながりが深いことです。
 ▽習字をならい、83歳で習字の師範に。当時の習字仲間がいまもときどき自宅を訪れる。
 ▽月1回、甥が顔を見せ、身の回りの世話や相談に乗る。
 ▽先妻の子どもや孫がときどきお見舞いに来る。1月3日の夫の命日には子どもや孫などが全員集まる。
 ▽いまも自治会役員。カラオケやレクリエーション、囲碁など1週間のスケジュールがいっぱい。

口から食べている

 5つ目は、口から食べていることです。胃ろうの方は2人でした。 
 ▽101歳女性。3食食べるように気をつけている。
 ▽食べ物は「何でも好き」。自分の歯が12本残っている(「いーっ」と歯を見せてくれた)。
 ▽「何でも食べるよ」。「嫌いなものは?」と聞かれて「ないね」。すべて長女の手作りで、できあいのものはまったく口にしていない。
 ▽少しでも、3食必ず食べている。

医療・介護が受けられる

 調査をおこなって改めて感じたのは、やはり医療や介護を受ける条件がしっかりしていないといけない。介護者がいるということはもちろんですが、医療・介護サービスを受けられる経済的基盤がなければなりません。
 100歳というと英語では「サクセスフルエイジング」(上手に老いた人)といわれるぐらいで、元気な高齢者の典型といったイメージがあります。しかし、 実際には介護を受けていたり、認知症がすすんできたり、胃ろうから栄養をとっている人もいます。ですから、介護者がいる、身近で支える人がいる、きちんと 食事がとれ、医療や介護を受け続けることができる、こうした条件があることが必要です。
 現在の医療・介護は、保険の制度ですから、幅広く高齢者からもすべて保険料を徴収しますが、利用するのは一部負担の利用料を払える人だけです。これではお金のない人からある人にお金を分配することになってしまいます。本当は逆でなければ社会保障ではありません。

新たに見えてきた課題も

 調査で新たに感じた課題もあります。多くの方が「喪失」の体験をしていることです。配偶者を失 い、同世代の知り合いや友人を失っています。囲碁やカラオケにいっているという方も、10代のころの思い出を語れる同世代の「友人がいない」と話されてい ました。これは新たな気づきでした。
 また、複数の介護者が「自分が先に倒れるのでは」と心配していました。介護にあたる方も高齢になっています。
 また、今回調査に協力していただいた方は、みんな戦争の時代をくぐり抜けて来た方です。ある男性は20歳のときに入隊検査を受けましたが、幸か不幸か、「扁平足」で不合格となって兵役を経験しませんでした。
 別の女性は、娘さんがまだ3歳のときに夫を戦争で亡くしています。戦争の被害者なのです。娘さんは「戦争はだめ、正しい戦争なんて絶対にない」と強調されていました。
 日本が敗戦した1945年、男性の平均寿命は23・7歳、女性は37・5歳でした。「平和でこそ長生きできると感じた」という聞き手の感想も出されました。平和は長生きの前提であることに疑いはありません。

誰もが大切にされる社会に

 100歳になって中野区から贈られる表彰状は、「長年社会に貢献されたことに対し深甚なる敬意を表する」と書かれています。ただ、「社会に貢献」したかどうかは、働けるかどうかという生産力の視点での評価につながる危険があります。
 そうではなくて、100歳を超えた方は、存在していること自体に意味があります。いてくれるだけで、本人はまわりの人から大切に思われ、まわりの人も豊かに感じる、このことが状態調査からわかったと私たちスタッフは感じています。
 調査を終えて、それぞれの方の物語を聞き、「まるで映画を見ているようだった」「100歳の方がお元気でびっくりした」などの感想が聞き手から出されました。
 ある20代の職員は、「自分も100歳まで生きたい」と話しました。厚労省は09年9月、日本の100歳以上の高齢者がはじめて4万人を超えたと発表し ました。これからも100歳以上の高齢者は増えていくでしょう。彼女が高齢者になるころには、誰もがお金の心配なく安心して医療・介護が受けられる、すべ ての人が大切にされるいい社会にしたいと思います。
イラスト・いわまみどり

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いつでも元気 2010.1 No.219