(得)けんこう教室/インフルエンザワクチン/必要なワクチンは国の責任で
鈴木 隆 群馬・高崎中央病院小児科
新型インフルエンザが世界中に広がっています。このような大流行にあたっては、個々人が「かかったらどうなるか」ということはもちろん、流行の規模や速さなどが社会にあたえる影響も大事な問題になります。社会全体でより良い対策を立てなくてはなりません。
今回の新型インフルエンザについては、ひとシーズン終わらないと正確な評価はできないと思 いますが、インフルエンザA型ということから、日本でも、ある程度の検査、治療、予防の方針はすでに立てられています。しかし、検査キットも治療薬も万能 ではなく、数も限られています。抗ウイルス薬については、副作用にも注意が必要です。課題は多いですが、今回は予防の中心になる「インフルエンザワクチ ン」についてお話します。
新型は2回接種が基本だが…
日本でつくられているインフルエンザワクチンはA香港型、Aソ連型、B型の3種混合です。ウイルスを鶏の卵に注入して増やし、その後増殖できないように処理、さらに副作用をおこす成分をできるだけ取り除いた安全性の高いものです。
新型インフルエンザのワクチンも、もとになるウイルスが違うだけで、作り方は同じです。生きているウイルスを使う生ワクチン(麻疹など)に比べ、免疫をつける力は小さく、何回か接種を繰り返す必要があります。
季節性インフルエンザの場合、予防接種は基本的に1回(成人)です。多くの人がすでにかかっているため、1.2年たって弱くなりかけた免疫を再強化すれば間にあっていたからです。
今回の新型インフルエンザは誰もが初めて出会うウイルスですから、当初は2回の接種が必要と考えられていました。しかし、その後の検討で、20~50代の健康な医療従事者については、いまのところ1回の接種で大丈夫という判断になっています(10月20日現在)。
国民全員分が用意できない
今回のような、誰も免疫を持っていない新型インフルエンザの場合、全員に予防接種をするの が最善の方法です。しかし、日本では国民全員分が用意できません。日本は、前年度の実績などをもとに需要予測をたててワクチンを生産するという政策をとっ てきたため、増産が追いつかないのです。
日本政府は最大限のワクチン生産の努力を続けるとともに、「限られたワクチンを誰に使うの か」明確な方針を出さなくてはなりません。専門家の意見を聞くとともに、情報を公開して国民に納得のいく説明をする必要があります。一方、国民も自分さえ 受けられれば良いということでなく、最も必要としている人に順番を譲ることが求められます。
医師や看護師が一度にインフルエンザにかかり、医療機関がマヒしないように、今回はまず、 医療機関の職員に接種します。続いて、重症化しやすい人や抵抗力の弱い人を優先することになりました。妊婦、1歳~入学前の幼児、小学校低学年、慢性疾患 があり重症化の恐れのある患者が該当します。1歳未満の子どもの親も対象になりました。
健康な青少年や成人でもインフルエンザ肺炎にかかることが少なくないという報告も増えていますが、インフルエンザという病気を全般的に見れば、やはりここにあげた人たちを優先するのは納得のいく方針だと思います。
接種料金、自己負担は問題
日本の予防接種には、費用を国や自治体が負担する「定期接種」と、個人の希望で費用を自己負担する「任意接種」があります。
インフルエンザワクチンは1962年から学童への集団接種が始まり、1976年からは接種が義務化されました。しかし、副作用の報告が続き、効果についても疑問が出されたため、1994年から任意接種となりました。
その結果、接種者が激減。一方でこの頃からインフルエンザが高齢者施設で流行したり、死亡例の報告などが増えました。やはり、児童・生徒への集団接種が社会的な流行を抑えていたのではないかという専門家の指摘もあります(図)。
乳児以外ではワクチンの効果が一定認められているため、現在では多くの国で予防接種が積極的に進められています。米国やカナダでは5歳未満の子どもには無料で接種し、米国ではその家族への接種もすすめています。
今回の新型インフルエンザワクチンについても、欧米主要国では「原則無料」の国が多いよう です。ところが日本では先日、このワクチンの2回接種の場合の料金として計約6000円を自己負担にすると発表しました。国として重要性を認め、さらに大 量の外国産ワクチンの輸入を決めておきながら、これは問題です。
命にかかわる大事なワクチン
インフルエンザに限らず、日本は予防接種に対して消極的で、世界的にも大きく遅れています。世界の流れから10年遅れてようやく昨年末認可されたヒブワク チンも有料で、まだ定期接種になっていません。はしか・風疹の2回接種も3年前にようやく実現。日本脳炎の新ワクチンの扱いも中途半端です。
小児科学会などがこれらの問題に対しずっと意見をあげ続けていますが、行政の反応はきわめて鈍いものでした。国は予防接種で防げる病気から、子どもだけでなく、すべての国民を守るという大方針をしっかり持つことが、いま求められています。
そして当然ですが、命にかかわる大事なワクチンが、お金がないために受けられないようなことは絶対にしてはいけません。
イラスト・いわまみどり
いつでも元気2009年12月号