特集2 そこが知りたい! 新型インフルエンザQ&A
症状、治療、予防のポイント
金谷邦夫 大阪・うえに生協診療所内科 |
新型インフルエンザ(A/H1N1型)が日本中を席巻しています。新型インフルエンザ関連の死亡者も、世界で3000人を超えました(9月11日)。新型インフルエンザをどう考え、対応したらいいのでしょうか? ご質問にお答えしましょう。
Q1.新型インフルエンザの感染者は夏~秋にも広がっています。冬に多い季節性インフルエンザと比べて感染力は強いのですか? |
説はいろいろありますが、いまのところ、感染力、病原性ともほぼ同じで、致死率は0・1~0・4%程度と考えられています。しかし「新型」なので免疫がない人がほとんどで、1~2年は、季節性に比べて感染者数は格段に多くなります。
Q2.新型インフルエンザを疑ったら、どこに相談すればいいのでしょうか? |
ことし春まで受診は「発熱外来」に限られていましたが、いまでは季節性と同じく、一般の医療機関でも受診できます。内科、小児科のある医療機関に相談してください。
Q3.新型インフルエンザの「高熱」とは、どんな熱? |
突発的に38度以上~40度くらいの高熱が出ます。人によっては37度5分程度の後、急に高熱になることもあるので、37度5分以上あれば医療機関に電話で相談してください。
相談するとき大事なのは、周囲の状況を伝えることです。自分の職場、学校、家族などに発熱者・感染発病者がいるかどうかは、医療機関にとっても受診時、 一般患者と接触させないようにする必要があるか判断したり、診断する上でも重要です。
Q4.高熱は、市販の解熱剤などで下げてもよいのですか? |
危険です。市販の薬でも、強い鎮痛解熱作用のあるものは特に幼小児で危険な合併症(脳症など)を引き起こす可能性が大きくなります。
発熱したらまず医療機関に相談して受診し、安全な薬を使うようにしてください。受診までは水分を補給し、氷のうなどで体を冷やすようにしてください。
Q5.自宅療養の際の注意点などはありますか? |
次のような点に注意してください。
(1)安静と水分補給、バランスのとれた食事をとり、規則正しい生活を送ることです。
(2)他の家族に感染を広げないことです。患者さんと接触する人を限定し、飛沫(咳・くしゃみなどで出る、唾液・鼻水などのしぶき)による感染を減らすため、自宅でもなるべく家族全員がマスクをします。
(3)飛沫が付着したものに触れた手で目や鼻をこすったりしても、粘膜から感染する可能性があります(接触感染)。接触感染予防のために、手洗い(手の全体を15秒以上かけ、よく洗うなど)を徹底してください。
(4)飛沫がテーブルなどに付いた時は、ふきんなどでよくふきとって乾燥させます。このとき、ゴム手袋を使ってください。作業後にふきんや手袋を洗った後、手洗いもおこなってください。
(5)患者さんの家族は、発熱していなくてもウイルスに感染している可能性があります。新型インフルエンザの潜伏期間は1~5日といわれています。症状 がなくても外出時、特に人の混みあう場所に出かけるときは、マスクをしてください。
Q6.薬はタミフルやリレンザが効くと聞きましたが、必ず服用しなければいけないのですか? |
タミフルやリレンザは、必ず服用しなければならない薬ではありません。ウイルスの増殖を抑えて症状を軽くする薬ですから、軽症の場合、大半は使わなくても治ります。
タミフルやリレンザは、発症2日以内から使い、高熱の状態を1~2日以内に短縮させる薬です。5日分処方されますが、きちんと服用しきらなければなりま せん。途中でやめるとウイルスが耐性を持ち、薬が効かなくなることがあるためです。
副作用はあります。特に10代で異常行動が多く発生していますが、タミフルとの関係が指摘されています。患者が10代の場合、服用開始から2日間は一人にせず、周囲の人がよく観察することが大切です。
0歳児と妊婦への使用も副作用が強めに出ることが多いため、慎重におこなうべきです。薬の効果と副作用を勘案して医師は使用を決定しますので、よく相談してください。
また、新型インフルエンザでは、すでにタミフル耐性ウイルスが発生し、人に感染した例も確認されています。耐性ウイルスが蔓延しだすと効果はありませ ん。ただし心臓病、糖尿病など重症化しやすい病気や状態にあるハイリスクの方(表1)は、積極的に使用すべきです。
Q7.ハイリスクの人が気をつける点は? |
これまで亡くなった方の大半は、表1のような慢性疾患(基礎疾患)を持っていました。新型インフルエンザの予防接種を受ける優先順位も高いため、まず主治医と相談して予防接種を積極的に受けてください。
同時に基礎疾患のコントロールをよくしておくことも大事です。さらに、一般の人以上に手洗い・うがい、外出時の予防を徹底してください。
また、表1のような基礎疾患があって高齢の方は、インフルエンザの合併症に多い肺炎予防のために「肺炎球菌ワクチン」(日本では一生に1回のみ接種。5年有効)を接種した方がよいでしょう。
Q8.検査でインフルエンザと判定されず、後で新型とわかった人もいたそうですが、なぜですか? |
一般医療機関で新型インフルエンザの診断に使っている簡易検査キットは本来、季節型インフルエンザを診断するものですが、もともとこの検査は、感染していても100%陽性になるわけではありません。
また、新型インフルエンザにかかっていても陰性になることがある原因に、検査のタイミングがあります。簡易検査キットはウイルスが十分増殖していなけれ ば反応しないため、発熱してすぐに検査しても、早い時期には反応しない場合があります。陽性になるのは約6~7割程度です。また、新型インフルエンザウイ ルスの潜伏期間中(1~5日)は反応しません。
なお、夏場は従来の季節型の流行・発症はほとんどないため、夏に簡易検査キットで陽性だった場合、ほぼ新型と判断できます。
また、新型インフルエンザを厳密に診断するには、遺伝子検査(PCR法)が必要です。しかしこの検査は費用も時間もかかり、たくさんの患者さんを診断す るのは困難です。新型インフルエンザがすでに蔓延している現時点では限られた条件の患者さんにしかおこないません。
Q9.10代の感染が多く、高齢者に少ないのはなぜですか? |
高齢者に新型共通のH1N1型の抗体(免疫の働きをする物質)を持っている人もあるといわれていますが、「日本人は90歳以下は抗体を持っていない」という報告もあります。
これまで高齢者に新型インフルエンザが少なかったのは、抗体の有無より、発病者に接触する密度の問題が考えられます。ラッシュ時の電車、スクールバス、 部活、教室など、成人・高齢者同士の接触よりはるかに密度が濃いのが10代で、実際にこうした環境で集団発生しています。
しかし高齢者に感染者が少ないとはいえ、新型インフルエンザによる日本の死者は高年齢で基礎疾患を持つ方に多いことから、高齢者の感染・発症に注意が必要であることはいうまでもありません。
Q10.感染者の看病で注意すべき点、観察のポイントは? |
乳幼児ではとくに脳症に注意が必要です。10代では、異常行動やインフルエンザ肺炎を早期に発見することです。異常行動は10代に多く、タミフルと異常行動の関連も一部では指摘されているため、一人にしないことが必要です。
各世代とも、発症早期に急速に進展するインフルエンザ肺炎を早く診断し、迅速に対応する必要性があります。
高齢者では細菌性肺炎を起こすことがあり、早期の発見・対応が必要です。さらに基礎疾患がはっきりしない場合でも突然死した例もありますので、一人にせず、頻繁な観察が必要です。
季節性インフルエンザでも、インフルエンザやその合併症などで2000年には約1万4000人、2005年には約1万5000人の方が亡くなっています。異常の兆候(表2)が見られた場合は、すぐに医療機関に相談してください。これは新型に限りません。
Q11.「流行時は外出を控えろ」といわれても難しいのですが、マスクは予防に効果がありますか? |
マスクによる感染予防の効果は、「効果なし」という意見と、「一定の効果は期待できる」という意見に分かれています。
ある程度人出の多いところ(少なくとも1~2神以内に人がいる、狭い室内、電車・バスなどの閉鎖された空間など)では、飛沫感染を防ぐ一定の効果が期待できます。
広い場所でマスクをつける必要はありません。感染を怖がってウオーキングなども止めてしまうのは、健康保持・増進の面からもよくありませんから、人の少ないコースを選んで積極的に続けましょう。
Q12.定期通院患者です。病院(診療所)に行って新型インフルエンザに感染しないかと心配です。 |
医療機関での感染予防のため、感染の疑いがある人のマナーとしては、いきなり受診せず、まず医 療機関に電話などで相談して受診時間を調整し、その指示に従うことです。医療機関はインフルエンザ疑いの方と一般患者さんとの接点をできるだけ減らし、マ スクも装着してもらうなど感染予防に努力していますので、直接飛沫で感染する可能性は低いと考えます。
生活習慣病など慢性疾患で通院している人で状態が安定している場合、新型インフルエンザの流行期には、電話受診で主治医と相談すれば処方せんを発行する ことも認められています。この点も医療機関と相談し、持病の悪化を防いでください。
Q13.今は「弱毒性」ですが、「強毒性」に変化したり、新しく強毒性のインフルエンザが発生する可能性はあるのでしょうか? |
現在までのところ、強毒性に変わったという報告はまだありません。しかし今後さらに広がる中で、他のインフルエンザウイルスと混じり合って変化していくことが予想されています。十分な観察、重症者の精査が引き続き必要です。
強毒性で、ヒトの間に流行することが危惧されているのが、トリ型(A/H5N1型)のインフルエンザです。このタイプはいまも世界中でトリからヒトへ感 染・発症が広がっていて、死亡率は季節型に比べてケタ違いに高いのが特徴です。
このタイプが変化して、ヒトからヒトへの感染を起こし始める可能性は、いつ起こっても不思議ではないといわれており、そうなった場合の対策は極めて困難をともなうと予想されています。
Q14.その他、これから冬に向けて備えるべき予防策、準備などがあれば教えてください。 |
どんな病気にもいえることですが、やはり食事、睡眠などを確保して、体調管理を十分おこなうことにつきます。また、ここまでに述べてきた家庭や外出時の注意点に留意していくことが大切です。
なお、新型インフルエンザにはまだわからないことも多く、毒性の評価や予防・対応法なども変わる可能性があります。情報に耳を傾け、不明な点は医療機関にもご相談ください。
イラスト・いわまみどり
いつでも元気 2009.11 No.217