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いつでも元気

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特集1 医療 介護 年金 何でも消費税増税っておかしくない?

 社会保障の危機が叫ばれる中、同時に聞こえてくるのが「社会保障の財源に消費税増税を」という声。自民党にかわって政権につい た民主党も「四年間は上げない」というものの、“いずれは消費税増税が必要”という立場です。テレビや新聞でも、医療崩壊の解決策といえば消費税、年金と いえば消費税、何でも消費税増税に話がおよぶ始末。
 でも、ちょっと待って。それしか解決策がないようにいわれては、庶民はたまりません。 (多田重正記者)

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米倉さん

 「消費税増税はやめてほしい」と話す、東京・足立区の米倉妙子さん(77、足立区健康友の会会長)。米倉さんは、いまは一人暮らし。「夫の遺族年金で、貯金を崩しながら生活しています」
 八年前に夫を亡くし、遺族年金か自分の年金か、どちらかを選ばなければならず、「自分の年金が少なかったので遺族年金を選ぶしかなかった」という米倉さ ん。支給額は生前の夫と自身が受け取っていた年金を合計した半分余りにしかなりません。
 「私だって掛け金を払ってきたのに、もらえるはずの年金が半分になるなんて人をバカにしていますよね」と憤ります。
 「新聞もとっていますし、電話だって固定電話に携帯電話が必要。お風呂も毎日沸かさないわけにはいきませんよね。でも、一人暮らしだからってこれらの費 用が半分になりますか? 持ち家ですから家賃はかかりませんが、固定資産税は年一〇万円もとられる。親戚や近所のおつきあいにもお金がかかります」
 さらにこの夏は、冷蔵庫にガスレンジ、網戸も壊れて、買い替えや補修で約三〇万円の手痛い出費。だからといって離れて暮らす息子さんに頼るわけにもいき ません。住宅ローンを抱え、大学生と高校生の子どもをかかえて家計がたいへんなことを知っているからです。
 「いまでもたいへんなのに、これで消費税を上げるなんてとんでもない!」 

消費税はどこに消えた?

 消費税は「福祉のため」といって八九年に導入され、九七年に三%から五%に増税されました。「福祉のため」が本当なら、消費税導入で国の財政は豊かになり、社会保障制度も充実してよさそうなものですが、国民の負担は増えるばかり。充実どころではありません。
 それもそのはず。消費税導入の張本人の一人、政府税制調査会の元会長・加藤寛氏は、次のように“証言”しています。
 「消費税を導入したとき、高齢化社会に備えるためと言われ、我々税調もそう説明しましたが、本当はあれは、ああ言えば一般の人に分かりやすいから、ということでした。消費税の本来の意義はそういうものではないんです」(『週刊新潮』九二年九月三日号)
 では、消費税はどこへ消えたのか? 消費税導入後の二一年間で国庫に入った消費税は二一三兆円。一方で導入前と比べて減った法人三税は一八二兆円。実に消費税の税収の八~九割が、法人三税の減税にあてられた計算です(図1)。
 一方、社会保障予算はどうか。高齢化にともない年金や医療費は増えていきます。その自然増分を小泉内閣誕生後、毎年二二〇〇億円(〇二年度は三〇〇〇億円)も削っています(図2)。削減総額は累計八兆五六〇〇億円(〇二年度~〇九年度)。これでは社会保障がよくなるはずがありません。

図1 法人税減税などに消えた消費税
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図2 高齢化により増える社会保障費を毎年削減
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「福祉のため」は最初っからウソ!

お金の使い方・取り方 あらためれば財源はある


日本の消費税は安くない

 では、社会保障の財源に使うなら、消費税増税もありえるのでしょうか。立正大学法学部教授で税理士の浦野広明さんは、次のように異論を唱えます。
 「日本国憲法は戦争を放棄し、生存権、教育を受ける権利を保障しています。ですから憲法は、すべての税金を平和や社会保障、教育などに使うことを求めているのです。
 消費税で社会保障の財源を確保するのでは、その前に国民生活が破壊され、さらに貧困がすすんで、医療にかかれない国民が増えてしまう。日本国憲法が求め る税金の取り方は、能力に応じて負担する『応能負担』が基本。社会保障の財源も、この応能負担の原則を徹底させれば出てきます」
 導入時と〇六年度の国の税収(予算)を比べると、消費税は四兆五五四〇億円も増えているのに、所得税や法人税はそれぞれ一三兆円以上、五兆円以上も減っています(表1)。法人税などを減税し(表2)、所得税の最高税率もつぎつぎと下げ(表3)、株の売買や配当などで得る利益はどんなにもうけても国税・地方税あわせて一〇%しか課税されないなど、一部の富裕層向けの優遇税制を政府が推進したからです。
 二〇〇八年に発表した「全日本民医連の医療・介護制度再生プラン」(案)は、▽負担能力に応じた税制改革、▽大企業を中心とした法人税引き上げ、▽軍事費や公共事業のムダ削減などで、社会保障の財源は生まれると指摘しています。
 「日本の消費税は安い」という議論にもごまかしがあると浦野さん。税率は低くても、国の税収に占める比率では、イギリスなどと同水準(表4)。こうなってしまうのは、日本の消費税がほとんどの商品にかかる「一般消費税」だからです。イギリスでは食料品や医薬品、書籍、旅客運賃、住宅建設、子ども服など生活必需品に一般消費税は一切かかりません。
 浦野さんは「消費税には『一般消費税』と個別の商品にかかる『個別消費税』があることを知ってほしい」とも強調。
 「一般消費税をなくし、食料品や生活必需品には税金をかけない。そしてぜいたく品、高級品については個別消費税をかけ、お金持ちに応分の負担をしてもらう。こうすればいまの消費税の半分ぐらいの税収にはなります」

表1 1990年度と2006年度の主な国税の比較
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表4 日本の消費税収入はすでに欧州なみ 表2 こんなに下がった法人税
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表3 所得税の最高額税率も下がって
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世界では富裕層に負担の動きも

 世界では、富裕層の負担を引き上げ、社会保障充実や低所得者の税金引き下げにあてる動きも始まっています。
 アメリカのオバマ大統領は二月、予算教書の概要を発表。前ブッシュ政権では年収二五万ドル以上(約二四〇〇万円)の税率は三五%にまで下がりましたが、 オバマ大統領は既婚世帯で二五万ドル、単身で二〇万ドル以上の高額所得者の税率を三九・六%に引き上げると表明。アメリカにはない国民皆保険制度実現の財 源にあてると述べました。
 英国では保守党のキャメロン党首が七月、「高額所得者は公平な(税金の)負担を支払わなければならない」とし、年一五万ポンド(約二三四〇万円)以上の高額所得者の税率を現在の四〇%から五〇%に引き上げるべきと発言。
 ドイツでも連立与党の社会民主党が最低所得税率を一四%から一〇%に引き下げ、高額所得者は四五%から四七%へ引き上げる方針を表明。ナーレス副党首は 「投機バブルでこの数年間に財産を大幅に増やした人々は、経済危機を克服するために大きな負担をすべきだ」といいます。

負担増が消費抑制

 先進国との比較では、日本の総医療費は低く(図3)、企業の社会保障負担も低い(図4)のが実情。
 内閣府が七月に公表した二〇〇九年度経済財政報告(経済財政白書)では、社会保障制度と貯蓄の関係について調査。年金制度では老後に関して「非常に心 配」と回答した人が、そうでない人よりも年金支給時に必要と考える貯蓄額が一九八万円も多く、医療制度でも「医療保険の自己負担増で生活に不安を感じる」 と回答した人の月間消費(二三万三〇〇〇円)は、感じていない人の月間消費(二四万六〇〇〇円)よりも九〇〇〇円低かった(図5)という結果でした。
 「老後の生活不安や年金に対する不安が、老後の必要貯蓄額を引き上げる関係が確認できる」「医療費の負担増への不安が強い家計は、消費が抑制ぎみになる」と白書。社会保障制度の充実、自己負担の軽減が消費刺激にも有効であることを裏付けたかたちです。
 「貧富の格差をなくしてほしい。教育費や医療は無料にしたっていい。子どもを無料で学校に行かせる、それが国づくりというものでしょう」と米倉さん。
 総選挙で大幅に議席を増やした民主党は国民の圧倒的な声に押され、社会保障充実、医師の増員、後期高齢者医療制度廃止など、従来民医連も主張してきたことを公約にかかげました。国民の運動がそうさせたのです。
 しかし自民党・公明党が政権から転落しても、それだけで社会保障が充実するわけではありません。「お金のある人からとる」という当たり前のことをさせ、お金の使い方を改めて軍事費なども聖域にさせずに国の無駄をはき出させる、国民の運動がやはりカギになりそうです。

図3 日本の総医療費支出は低い
   対GDP(国内総生産)比

(OECD2007)

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図4 企業の税・社会保障負担も低い
対GDP比較

(2003年、フランスは2002年)

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図5 医療費負担が心配だと消費も少なくなる

(2009年度経済財政報告から)

   医療保険に対する不安の有無と1か月間の消費支出総額

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いつでも元気 2009.10 No.216