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いつでも元気

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特集2 関節リウマチ 早期からの治療がカギ

進行くいとめ、関節の破壊防ぐ

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向井明彦
コープおおさか病院院長(内科)

 龍真知子さん(仮名)は50歳主婦で、2人の子どもがいます。子育ての忙しい時期は過ぎたものの、ことしは2人が同時に受験となり、いろいろ気を遣う毎日だったそうです。

検査では陰性だったが

 5月のある日、右手の人差指のつけ根が痛み、腫れているなと思っていました。朝起きた時、布団を押し入れに上げようと手に力を入れてもこわばった感じで、思うように動きません。半月後には左手の中指のつけ根も痛み出し、腫れてきました。
 1カ月以上たってもよくならないので、かかりつけの診療所の先生に相談しました。「リウマチが心配なんです。母親もリウマチで、『手が痛い痛い』といってそのままにしていたら、ついには手が曲がってしまったんです」と真知子さん。
 先生は「それは心配ですね。確かに両手の指のつけ根が腫れて、朝、手のこわばりがあるので、リウマチの可能性があります。血液検査と手のレントゲンを撮りましょう」と。
 しかし血液検査ではリウマチ反応はなく、レントゲンでも異常はありませんでした。しばらくようすを見ることになりましたが、手の症状はだんだんひどくなるし、歩く時に足指のつけ根が痛むようになってきたため、8月に当院を受診されました。
 私はお話を聞き、手足を見せてもらいました。そして「リウマチでしょう。本日からお薬を始めましょう」と説明し、治療を始めました。

初期の対応が大事

 関節リウマチ(RA)は、慢性的に関節が腫れたり痛んだりして、骨や軟骨が破壊されていき、関節の変形をきたす全身の病気です。原因はほぼ自己免疫疾患(本来自分の体を守る免疫の働きが、自分の体の関節を外敵だと勘違いして攻撃してしまう病気)だと考えられています。
 わが国の関節リウマチ患者は約70万人と推測されています。発症は40~50歳代がピークですが、若年者から高齢者までにみられ、1対3~5の割合で女性に多い病気です。年間1万人が新たに発症しているといわれ、私たち民医連の病院・診療所でもよく出会う病気です。
 関節リウマチは放置すると多数の関節の変形がすすみ、日常生活動作(ADL)を障害するようになります。かかった関節数が多く、ADLの悪い関節リウマチは寿命が10年短くなるといわれています。
 治療で大切な点は、発症初期に関節障害の進行が早いため、早期に診断してこの病気を極力抑えることです。関節痛を軽減し、できればまったく症状をなくして、骨・軟骨の破壊を防ぎます。関節の変形が進行した場合には手術療法があります。

朝、手がこわばる

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【写真1】早期の段階。関節が腫れたり痛んだりする
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【写真2】進行すると、関節が変形していく

 特徴的な症状は、朝、手がこわばることです。寒い日に手がかじかむと手に力が入らないのと同じような感じです。ほとんどの方は起きてから1時間くらい、重症者では昼すぎまで続く方もいます。朝のこわばりは診断上、重要なのですが、検査で確認することができません。
 関節の症状はいちばん目立ちます。手足の指を中心とした小さな関節のいくつかが、左右同時に腫れたり痛んだりします(写真1)。これが少なくとも1カ月以上続くなら、それだけでリウマチの可能性が高いのです。
 先ほどの真知子さんのように、早期であればあるほど、血液検査をしてもリウマチ反応が出る率は低く、レントゲンでも異常がわからないことがよくありま す。朝のこわばりがあるという患者さんの訴えと、手を見て関節が腫れているという2つの手がかりだけでリウマチと診断できることはときどきあります。この あたりは、リウマチ専門医の仕事です。
 さらに進行すると関節の変形が明らかとなってきます(写真2)。まれに関節の伸ばす側に皮下結節という小さなこぶができる場合があります。これもリウマチ特有の症状です。
 関節だけでなく、全身にもいろんな症状が現われます(表1)。

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遺伝の影響は30%

 関節リウマチの血縁者に関節リウマチの方が多いということは、昔から経験的に知られていました。自分の親や兄弟に関節リウマチの方がいる人が将来、関節リウマチにかかる確率はそうでない人に比べて約4倍高いという報告があります。
 しかし一卵性双生児の一方が関節リウマチとなった場合、他方が発病する確率は15~30%で、二卵性双生児の場合にはその確率は2~7%と報告されています。
 このように関節リウマチの発症に関しては遺伝因子の影響は絶対的ではなく、約30%と見られ、残りの約70%は何らかの環境因子が関係していると考えられています。

検査と診断

 主に2つの検査をおこないます。
■リウマチ反応(血液検査)
 関節に症状があり、この血液検査が陽性なら、関節リウマチだと診断されます。しかしこの検査が陰性でも早期のリウマチの可能性があります。発症1年未満の陽性率は5割を切るからです。
 かわって最近、抗CCP抗体検査が流行しています。リウマチ反応と同じような血液検査ですが、早期診断における有効性が確認されています。抗CCP抗体検査は2007年から保険適応となっています。
■手足のレントゲン
 早期の段階では、症状のある関節の近くの骨が薄くなったり、小さな穴が空くなどの変化が起きます。しかし症状が起こってから半年くらいしないと、変化ははっきりわかりません。進行したリウマチでは関節の変形が認められるようになります。
 このような症状を手掛かりに、世界中の医療機関は、表2の診断基準をもとに診断しています。リウマチ診断の羅針盤とも呼ばれるもので7項目からなり、4項目以上を満たすと、関節リウマチと診断されます。

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治療で関節破壊を止める

 関節リウマチの治療は、最近10年余りの間に大きく変わってきました。「痛みを軽減」し、関節破壊が進行したら人工関節に置き換える治療法が、20年ほ ど前は主流でした。しかし抗リウマチ薬や、後で述べる生物学的製剤の登場で、関節破壊の進行を遅らせたり止めることが可能になってきています。現在、関節 リウマチ治療の目標は「身体の機能障害を阻止する」「関節破壊を阻止、もしくは寛解(問題がない程度にまで回復する)させる」ものに変化し、治癒も視野に 入りつつあります。
 また、早期の関節リウマチ(発症2年以内)の治療の重要性も強調されています。関節破壊は発症後2年間が最も進行しやすく、約70%の患者さんに起こるといわれています。治療開始が早いほど寛解の率も向上します。どんな病気でも早期診断、早期治療ですね()。

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教育入院で基礎療法学ぶ

 一般療法として、安静と仕事・家事のバランス、睡眠、体操、食事療法、運動療法があります。
 基本は、腫れや熱のある関節は安静にし、それ以外の関節は普通に動かすことです。患者さんには「普通に家事や仕事をしてください。しかし、関節の痛みが ひどくなったら体を休めるようにしてください」とお話ししています。関節の動きを保ち、治療を助ける「リウマチ体操」もあり、「1日数回はするようにしま しょう」と指導しています。
 食事は、魚類やカルシウムがよいとされています。グルコサミンなどのサプリメントについては、効果があるかどうか議論があります。
 温泉療法もよいとされています。ただし熱がある方は、微熱でも湯あたりに注意が必要です。
 水泳はお勧めです。水圧と皮膚の冷感・気分のリフレッシュで痛みが軽減します。水中は浮力があるため、関節にも負担がかからず、関節リウマチの患者さんに最適な運動でしょう。泳がず歩くだけでもOKです。
 ただ、患者さんが一人でこれらの基礎療法を身につけて実践できるようになるのは容易ではありません。これらを体得していただくために、1~4週間の入院で治療に関わる教育を実施している病院があり、当院でも教育入院をおこなっています。

服薬はなるべく早く

 リウマチと診断されたら、できるだけ早く内服薬を開始します。基本はリマチルやアザルフィジンなどの抗リウマチ薬(疾患修飾性抗リウマチ薬)を中心に、鎮痛薬(非ステロイド系消炎鎮痛剤)、場合によって少量のステロイド剤を使用します。
 これらの薬剤を3カ月投与しても効果がない場合はメトトレキセートという薬や次に述べる生物学的製剤が勧められていますが、副作用があり、リウマチ診療の看板を掲げている医療機関で診てもらいましょう。
 炎症を引き起こすサイトカインという火種に作用し、炎症を鎮める薬が、2003年に登場しました。日本でも、2003年に点滴や注射で関節リウマチを改 善するインフリキシマブ(レミケード)が、2005年にエタネルセプト(エンブレル)が保険適応となりました。2008年にはトシリズマブ(アクテムラ) とアダリムマブ(ヒュミラ)も一部の医療機関で使用できるようになりました。これらの薬はたんぱく質の一種で、生物学的製剤と呼ばれています。
 生物学的製剤は、リウマチ治療のパラダイムシフト(革命的に突然進化すること)といわれるくらい有効性は高く、すでに4万人のリウマチ患者に投与されています。
 しかし3割負担で平均月3~4万円と高価です。また使用中は免疫力が低下するために肺炎や結核などの感染症にも注意が必要で、毎日体温を測定し、微熱で も医療機関を受診する必要があります。しかも現在ではまだリウマチを完治させるものではないため、これらの高価な薬をいつまで続けるべきなのか議論されて いるところです。
 いずれにせよ医療が進歩したことは間違いなく、画期的な治療法です。「リウマチの木」を一部の根を残しつつではありますが、引き抜いてしまうような治療 法です。人間が本来持っている自然治癒力とあいまって、とくに初期の患者ではリウマチが完全に治る可能性も出てきました。

人工関節の寿命が延びて

 手術では膝、股、肘関節をはじめ、手指、足関節などを人工関節に置き換えます。痛みを取り除き、関節機能の改善を図ります。一般的に痛みを取り除く効果は期待できますが、関節の動きがどれだけ改善するかは病状や個人によって異なります。
 以前は人工関節の寿命が10年程度と考えられていたため、できるだけ待ってから手術することがよくありました。しかし人工関節も改良が重ねられて耐用年 数が20年以上と伸びたこともあり、現在では年齢に関係なく手術が必要だと判断された場合は「早期に手術をおこない、その後の生活を快適に送れるように」 と考えられるようになってきています。
 関節の曲げ伸ばしの角度が小さくなったり、筋力が落ちていたりすれば、手術後の機能の改善にも影響しますので、手術の時期については主治医と相談して、決めてください。術後には、しっかりとリハビリテーションをおこなうことが必要です。

スタッフと患者で力あわせ

 関節リウマチは、脳卒中などとは違い、症状の悪化と機能障害が同時に進行する病気です。このため、我慢しているうちにいつの間にか生活動作が困難になり、客観的には身体障害者なのに障害者手帳を申請していないということがよくあります。
 肺線維症や間質性肺炎など内臓の障害を併発する悪性関節リウマチなどは特定疾患(難病医療費助成)が申請でき、身障手帳とともに患者さんには福音となります。
 関節リウマチの治療では、私たち医療スタッフが患者と力をあわせて治療にとりくむことが基本で、同時に患者同士が励まし合って治療にとりくむ連帯感も大切です。
 参考までに、記事と関連するホームページを紹介します。

■日本リウマチ友の会
 http://www.nrat.or.jp/
■リウマチ・アレルギー情報センター
 http://www.allergy.go.jp/rheumatism/qa/index.html

いつでも元気 2009.9 No.215