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いつでも元気

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特集1 介護保険レポート 4月改定で影響は? 強まる“利用者置き去り”

 介護保険は四月、制度スタートから一〇年目に入りました。同時に、介護保険の各サービスに対して決められた事業者への支払い額 「介護報酬」が改定され、介護保険を利用する人の介護度のレベル「要介護度」を決める認定制度も新しくなりました。しかし、その内容は「介護崩壊」を食い 止める一助になるどころではありません。とくに、介護の受け手への影響は深刻。全国から寄せられた緊急報告をもとに、取材しました。 (木下直子記者)

介護報酬アップ。でも利用者さんが…

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Kさんは天井を見つめた

 四月を前に、介護現場からは懸念の声があがっていました。ひとつは、「介護サービスを手控えたり、中止する人が出るのではないか?」というものです。
 介護報酬は三%引き上げられましたが、これは利用料のアップにも直結します。さらに深刻なのは、支給限度額(=一カ月に介護保険内で使えるサービスの 枠)が上がらなかったことによる影響。三月と同じ介護サービスを受けていても、限度額をオーバーする人の場合です。保険からはみ出した分の介護サービスは 一〇〇%、利用者負担になります。
 「利用料が払えない」という理由で介護サービスを減らす事例は、これまでも多くありました。「年金が入る月だけ介護サービスを受ける」、「ヘルパーを 断ったぶん、仕事から戻った家族が睡眠時間を削り、介護する」など。今回の改定でその傾向がますます強まるのでは? とみられていました。民医連の事業所 でいまも緊急調査にとりくんでいますが、五月末時点で二〇三人が介護サービスを削ったと…やはり、心配したとおりでした。

利用料アップ・限度額オーバー 4月からどう影響?  緊急調査より

◆認知症対応のデイサービスを月2、3回削った。デイの間、介護者の娘さんがパートに行っていたが、サービスを減らした分、仕事も休むことに。(88歳・要介護1)
◆独居で限度額の2万円オーバーで介護を受けていたが、今回7万円分オーバーに。10万円の負担は重すぎるため、サービス減を相談中。(73歳・要介護3)
◆月12回だった訪問介護を9回に。減らした分は、妹が介護に入る。しかし、これ以上介護の負担が増えると、たった1人の介護協力者の体調も心配。(73歳・要介護4)
◆限度額オーバー分が7万7000円になり、週5回の昼の訪問介護をすべてやめ、ボランティアの協力となった。それでもオーバー分は1万5000円。(81歳・要介護4)
◆目が離せない認知症、限度額を超えサービスを減らす。その分50代の息子が介護するが、息子も病気療養中でいつ倒れてもおかしくない。(87歳・要介護4)
◆介護スタッフが2人で入浴介助していたが、限度額におさまらない。利用者にしわよせできないと、時間オーバーでも、事業者のもちだしで対応。(86歳・要介護5)
◆おむつ交換や体位交換の身体介護の回数を減らしたため、清潔保持や褥そう予防に影響が。(81歳・要介護5)

(全日本民医連介護福祉部 09年5月末)

 

「生きてるだけ」Kさんの声が震えた

 では、利用限度額の「天井」につきあたった人は、四月を境にどうなったのか。
 居宅支援事業所「ほりきり」(東京・葛飾医療生協)がかかわっている八五歳のKさん(写真)を訪ねました。去年の夏に転倒、入院してから、ほぼ寝たきり です。要介護4のひとり暮らし。四月になるまでは一日三度の訪問介護と、週に一度の訪問入浴サービスを受けていました。
 足が立たないだけで、意識ははっきりしているKさん、枕元の手の届く範囲に電話や水分、食事などを置き、自力でしのいでいますが、つらいのはトイレの問題。おむつに用を足さなければならず、またそのおむつが交換されるのは、訪問が入る一日三回だけだからです。
 「これまでも二週に一度、離れ住む娘さんが週末泊まりこんで、金曜夜、土曜の朝と午後、計月六回分の訪問介護を『節約』し、その上で支給限度額いっぱい 介護サービスを組んでいました。でも、一日五回おむつを換えたいというKさんの希望には応えられていませんでした」と、担当ケアマネジャーの萩原佐知子さ ん。
 Kさんが生活保護のため、萩原さんは限度額を超えた分のサービスを削って対応するしかありませんでした(図)。
 訪問入浴を通所サービスに切り替え、ヘルパーの訪問時間も削りました。就寝前の訪問介護は、加算をつけない安いヘルパー事業所を探して依頼、かわりに訪 問時間が早まり、朝のヘルパーが来るまで一二時間、長くて一三時間、おむつ換えのない状態で耐えることになりました。
 「最近、『点数』と聞くとドキっとするの。ヘルパーさんやお風呂は、点数がないとダメなの」とKさん。天井を見つめ「もう、(生きるのを)よしにしたい。いまの状態はただ生きてるだけ。それじゃァね…」と、語尾が震えました。
 「濡れたおむつを換えてほしい、というのはわがままですか? せめて人間らしい生活をさせてあげたい」と、萩原さん。
 「『介護は社会でみる』と介護保険が始まったこと、私たちは忘れていません」

4月を境にKさんの介護サービスはますます足りなくなっている
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家族の介護負担は「綱渡り」

 介護する家族は? 「ホンマに毎月、綱渡りです」大阪・堺市の北村和子さんはこう話しました。フルタイムで働き、子育てをしながら、自宅で介護度5のお父さんをみています。
 二度の脳梗塞を起こして寝たきりになったお父さんは、口から食事がとれず、胃ろうを設置してチューブからとる栄養が命綱。北村さんは毎朝の出勤前、おむ つをトレーニングパンツに換え、手をひいてトイレ介助、胃ろうに四〇分かけて栄養剤を入れます。胃ろうは医学的な管理が必要なので、ヘルパーにはタッチで きず、お昼は訪問看護です。しかし毎日訪問看護を利用すると限度額を超えるため通所サービスも利用していました。夜、北村さんの帰宅のめどがたたない時は 妹さんが、また時には姪ごさんの手も借りながら限度額いっぱいサービスを使い、やっと介護をつないでいました。
 当然、四月からは限度額オーバーです。単価の安いショートステイの回数を増やして切り抜けました。本当なら土日にお父さんを預け、日曜に体を休めたいと ころですが、使いたい時にいつも空きがあるとは限りません。休みたい、といっていられなくなりました。「キツい言葉を父にぶつけ、落ち込むことも。私は妹 たちがいて救われていますが、一人で介護しているご家族はどれほどたいへんか」
 介護サービスが受けられなくなった穴は、介護を受ける本人のがまんと、家族の必死の努力で埋められていました。

介護報酬は3%アップしたけれど 介護する側される側、みんなが困って…
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必要な人から介護を削る

 「保険の限度額いっぱい介護サービスを使っていた人ほど、介護の必要な状態だったはず。そういう人たちから介護を削るなんて」と、北村さん。実は民医連 のヘルパーステーションの所長でもあります。介護する立場からも、介護者家族の立場からも、今回の介護報酬改定には怒っています。
 「介護報酬は介護職員のために上げたと厚生労働省はいいますが、限度額を増やさずサービス利用を押さえつけたら、『意味ないやん!』と。限度額を越えれ ばほとんどの利用者さんたちがサービスを減らすしかありません。そうなると事業所の収入は減ります…結局、職員の収入アップにもつながってない」

「アンタら帰ったらまたひとりや」と、ヨシ子さんはいった。
ホンマやなあ、“使える介護保険”に変えたい

 

「新要介護認定制度」への不安

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4月から限度額オーバーで、楽しみにしていたデイサービスの回数を減らしたヨシ子さん(85)。大阪・耳原訪問看護St大浜がかかわっている

 そしてもうひとつ、今回お会いした人たちの多くが気にしていたのは、四月から新しくなった要介護認定制度への不安でした。介護保険を利用するためには、「要介護認定」が必要です。
 訪問調査、コンピューター判定、認定審査会と、すべての審査過程で変わり、介護度がこれまでよりも軽く出ることが懸念されています。
 現場からの強い異論におされて、開始早々「経過措置」がとられています。新認定制度で介護度が軽く出た場合、これまでの介護度を優先してよい、というも の。しかし、厚労省は、新制度ではどんな介護度になったか、利用者に通知していません。影響をなるべく隠してこの「措置期間」を終わらせ、新制度の全面実 施に移ろうという狙いが見え隠れしています。また四月から介護保険を使う人は新しい制度で認定されています。
 「新認定で、父の介護度が一つでも軽くなったら、もう仕事は続けられない」と、北村さんも心配しています。

介護崩壊はなぜ?

 制度がはじまってから介護報酬は三度、介護保険法は一度、改定されています。グラフは利用者一人あたりの介護サービス利用の推移です。改定のたびに、使いにくさが強まっていることがわかります。
 二〇〇〇年に制度がスタートした段階でも、介護保険には多くの問題点が指摘されていました。「問題があっても、走りながら改善する」と厚労省は説明してきました。なのになぜ、利用者から介護をとりあげ、介護事業所を苦しめるのか。
 「小泉構造改革の時代に導入された『抑制路線』です。二二〇〇億円の社会保障費削減方針が、介護分野でもおおもとにある」と、全日本民医連の林泰則事務局次長。
 新認定制度の裏側にも、給付抑制の目的があったことが、最近発覚した厚労省の内部資料でも明らかになりました。

介護サービス、利用は減る
利用者1人あたり費用額(給付費)の推移
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「介護ウエーブ」利用者とともに!

 民医連は、介護崩壊ストップのうねりを日本中で起こす「介護ウエーブ二〇〇九」をことしも呼びかけています。今度、大きなテーマにしているのは「利用者とともにとりくむ」こと。次に予定されている制度見直しは、二〇一〇年、一二年。
 「介護改善が必要だという空気は、いままでになくできています。この流れを『社会保障費増やせ』という運動につなげたい」(林次長)

いつでも元気 2009.7 No.213