9条をもつ国として ソマリア沖 海賊対策 武力行使でなく警備強化で
海上保安庁はマラッカ海峡で大きな貢献
千坂 純 日本平和委員会事務局長
アフリカ・ソマリア沖での海賊対策のため、三月に海上自衛隊の護衛艦「さざなみ」と「さみだ れ」が出動した。日本沿岸での警備活動を定めた自衛隊法82条の「海上警備行動」を発令し、派兵を強行してしまったのだ。一万二〇〇〇キロ離れたソマリア 沖での行動に適用するなど、脱法行為そのものである。
四月一四日に審議入りした「海賊対処」法案も、無限定な派兵に道を開く危険極まりないものとなっている。
当事者が「自衛隊は必要ない」
海賊対処のために、自衛隊の派兵が本当に求められているのだろうか?
海賊が多いとされるアデン湾を、二隻の護衛艦が数隻の船団の前後について護送するのに往復四日かかる。二往復ごとに補給も必要だ。ところがこの航路を通 る日本関係船舶は、年間約二〇〇〇隻、一日平均六隻だ。護衛艦が数隻を護送している間、ほかの船舶はどうするのか? まったく間尺にあわない。しかも海賊 はアデン湾以外でも発生している。
本当に必要な対処法は、周辺諸国の海上警察能力、協力体制を高めること。そのために国際的な協力を強めることだ。
このことは国連安保理決議でも、再三強調されている。当事者であるソマリアの対岸国イエメンのアルマフディ沿岸警備隊作戦局長も、こう明言している。
「(海上自衛隊派遣は)高い効果は期待できず、必要ない。むしろ我々の警備活動強化に支援をしてほしい」「日本から自衛艦を派遣すれば費用がかかるは ず。現場をよく知る我々が高性能の警備艇で取り締まった方が効果が上がる」(08年11月15日「朝日」)。
海賊情報共有センター設立へ
じつは日本は、東南アジアの海上警備体制強化に献身的な貢献をし、世界で高く評価されているのである。
かつてマラッカ海峡は海賊天国といわれたが、日本の提唱で〇四年一一月に「アジア海賊対策地域協力協定」が結ばれ、アジア一四カ国が締結。〇五年合同パトロールが開始され、〇六年シンガポールに「情報共有センター」が設立された。
海上保安庁は、東南アジア各国との共同訓練を重ね、研修生受け入れや最新巡視艇の供与など、関係国の警備能力強化に大いに寄与した。その結果、この地域で〇三年に一七〇件発生した海賊事件は、〇八年は五四件と激減している。
ソマリア周辺地域でもこうした動きは始まっている。今年一月、国際海事機関が「ソマリア周辺海域海賊対策地域会合」を開き、二四カ国が参加。周辺九カ国 が「最大限可能な協力」を明記した「行動指針」に署名し、「海賊情報共有センター」と「訓練センター」の設立へと動き始めているのだ。
憲法九条を持つ日本がやるべきは、海上保安庁の実績も活用した、こうした動きへの支援ではないだろうか。
平和を取り戻してこそ
もう一つ、海賊発生の根本的背景となっているのは、ソマリアが二〇年にわたる内戦と無政府状態により、極度の混乱と貧困に直面していることだ。
あの米ブッシュ政権時のライス国務長官でさえこう述べていた。「平和と正常な状態がソマリアに戻れば、ソマリア人は真に経済発展の道に踏み出すことがで きると確信する。海賊と犯罪行為の代わりとなるものをソマリア人に提供することが、結局は、海賊とたたかう最も持続的な戦略である」(08年12月16 日)
護衛艦には「死体安置所」が
ソマリア沖に向け出港する護衛艦「さみだれ」(手前)と「さざなみ」(奥左)=広島・呉市で3月14日午後2時6分(毎日新聞提供) |
「海賊対処」法案は、自衛隊の派兵海域や活動期間には何の制約もない。派兵命令は、国会承認の必要はなく、総理の承認だけで防衛大臣がおこなえるのだ。
これまでの海外派兵法では、自衛官は「生命・身体の保護」のためにしか武器は使用できないことになっていた。ところが新法案では、任務遂行のために必要な武器の使用(武力行使)を認めている。
他国の船舶に「著しく接近」「つきまとい」「進行を妨げる」者に、「武器を使用できる」としている。また、抵抗または逃亡しようとする海賊船に向け、武 器を使い、人に危害を与えてもよい(殺傷しても罪にならない)としているのだ。
「人道支援」や「補給」を目的としたこれまでと違い、「海賊対処」のために、必要な場合は武器使用を当然の前提として“出撃”するのである。自衛隊が海 外で初めて武力行使し、他国民を殺傷する危険がある。だからこそ、派遣された護衛艦には「死体安置所」も設置されているのだ。
ウクライナ商船襲撃後、ソマリア沿岸に向かう海賊船(米海軍発表) |
ねらいは「海外派兵恒久法」
この法案は、アメリカの要求に応え、自衛隊をいつでもどこにでも派兵できるようにする、「海外派兵恒久法」制定につながるものだ。海賊問題を口実に、海外派兵の危険な拡大に熱中するのではなく、憲法九条を生かした貢献に力を注ぐことこそ、日本に求められている。
いつでも元気 2009.6 No.212