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いつでも元気

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保険証取り上げは「命取り上げ」 民医連・国保死亡事例調査から考える 後期高齢者医療制度

批判受け、「杓子定規にしない」 厚労相

 後期高齢者医療制度には、保険料を一年以上滞納すると、保険証を取り上げるきまりがあります。七五歳以上の保険証取り上げを禁止してきた国民健康保険法から一八〇度の転換です。
 制度開始から四月で一年。保険証を取り上げられる高齢者が生まれないか、危惧されています。すでに国民健康保険では、保険証取り上げが「命の取り上げ」につながっているからです。

国保死亡事例、31人

国保死亡事例調査31事例の内訳
(2008年1月~12月)

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 全日本民医連は三月三日、三年目となる国保死亡事例調査の結果を発表。国保が短期保険証や、資格証明書(注)、または無保険だったため受診できず、手遅 れで死亡した人が、一六道府県の報告だけで少なくとも三一人いたと明らかにしました(二〇〇八年一月~一二月、民医連加盟事業所の報告)。いずれも保険料 を払える生活状況ではありませんでした。
 ▽五一歳男性、資格証明書。内装工事の仕事をしていたが、年収一五〇万円~二〇〇万円。国保料を払えず、七~八年分滞納。一〇月に自費で救急受診したが、肝細胞がんで一月に死亡。
 ▽七一歳女性、資格証明書。本人は無年金で、内縁の夫の障害年金(月八万円)だけで生活。救急車で運ばれ、その日のうちに肺炎で亡くなった。
 本来、国保では保険料の滞納があっても自治体は相談をおこない、病気やけが、生活がたいへんなどの事情があれば資格証明書は発行しないことになっています。しかし調査からは、機械的な取り上げが横行していることがわかります。
 ▽六六歳女性、資格証明書。二カ月で一五万円の年金しかなく、保険料を滞納。膵臓がんにより、入院後七日で死亡。資格証明書は郵送されただけで、自治体からの電話や訪問は一度もなかった。
 ▽脳梗塞で死亡した六二歳男性。月一~二万円ずつ保険料を納めていたが、市職員に「そんなに少ない額では」といわれて納付を中断、資格証明書に。受診後、生活保護を申請したが、承認前に死亡。
 このほか、無保険の六一歳男性が自治体窓口を訪れたところ、保険料二年分(五〇万円)をさかのぼって納めるようにいわれて国保加入をあきらめ、その後亡 くなった例も。短期保険証を持っていたものの医療費が心配で、痛みを市販薬で紛らわしていた六六歳男性が、肺がんで手遅れになった例や、七五歳以上には禁 止されていた資格証明書が八一歳、八九歳に発行されていた例まであります。
 全日本民医連の長瀬文雄事務局長は「保険料も窓口負担も高い。保険料の滞納で保険証も取り上げる。これでは社会保障とはいえない。救える命はあるはず。命を救うのは、政治の責任です」と。

世論の批判受け

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国保死亡事例調査の記者会見。右から2番目が長瀬さん

 後期高齢者医療制度で保険料を滞納するのはどんな人でしょうか。年金から天引きされる人からは滞納は生まれません。滞納者が生まれるのは、主に年金が天引きされないほど収入の低い層(月一万五〇〇〇円未満)です。
 後期高齢者医療制度の創設者の一人、厚労省の土佐和男国保課課長補佐(当時)は昨年一月、「後期高齢者で保険料滞納として残るのは悪質な人」と述べてい ます。しかし月一万五〇〇〇円という低収入の人が滞納したら「悪質」でしょうか。収入がどんなに低くても保険料を取り立て、滞納すれば保険証を取り上げる 制度こそ「悪質」です。四月からは申請で年金天引きを銀行引き落としにできる制度も始まるため、滞納者が増える可能性も(導入は広域連合の選択)。
 世論の批判を受け、政府は「保険証を機械的に取り上げない」とする動きを強めています。ことし一月、医療が必要で経済的に困難であることを自治体窓口で申し出れば、どの世帯にも短期保険証を発行する方針が閣議決定されました。
 後期高齢者医療制度でも三月、「杓子定規に資格証明書を出すような冷たい扱いをしてはならない」と舛添厚労相(参議院厚生労働委員会)。厚労省は同制度について資格証明書発行は「相当な収入があるにもかかわらず保険料を納めない悪質な者」に限ると通知しています。
 しかし、どの程度を「相当な収入」とするかは各都道府県の広域連合任せです。広域連合や自治体に厚労相の答弁や通知を守らせるとりくみが必要です。

制度廃止の財源はある

 舛添厚労相は昨年九月に「高齢者医療制度の検討会」を発足。「大胆な見直し」をおこなうとしたものの、三月の検討会最終報告は「後期高齢者」などの名称 が「高齢者の尊厳を損なう」ということしかいえず、保険証取り上げはしないという当然の結論さえ導き出せませんでした。
 「後期高齢者医療制度を廃止し、制度実施前に戻すのに必要な財源は、年間二七〇〇億円です。国は定額給付金に二兆円も出した。制度を廃止するお金は十分ある」と長瀬さん。
 内閣支持率が低迷しても、制度存続にしがみつく自公政権。しかし刻一刻と総選挙は近づいています。制度に固執する政治家は国会から去ってもらうしかありません。 文・多田重正記者

(注)短期保険証は、通常より有効期間が短い保険証。資格証明書は、保険加入を証明するだけで、医療費をいったん全額払わなければならない。いずれも保険料滞納に対する罰則。

いつでも元気 2009.5 No.211