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いつでも元気

いつでも元気

元気スペシャル 「品格のある国」 キューバ

長瀬文雄
全日本民医連事務局長

革命から50年「人間中心の社会」が財産

 全日本民医連は、平和と人権とが花開く「もう一つの日本」探求の一環として、一月一七~二四日、キューバ視察をおこないました。総勢三九人、うち医師一二人。長瀬文雄事務局長のリポートです。

注目される「キューバ医療」

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おばあちゃんに抱かれて乳児健診に。右がお母さん。ポリクリニコで

 「キューバ医療」が注目されている。
 マイケル・ムーア監督の映画「シッコ」では、9・11事件で救援に当たったボランティアの救命士や元消防士たちが、キューバに渡るシーンがあった。彼ら はあの救助の際に障害を負い、治療が必要にもかかわらず保障が不十分で、アメリカではまともな医療が受けられなかった。
 苦しんでいた彼らに、キューバは無料で医療を実施。同業の消防士は彼らの救助活動に敬意を表し、激励する。
 この映画は、医療費負担に苦しむ日本でも大きな反響を呼んだ。吉田太郎著『世界がキューバ医療を手本にするわけ』(菊池書館)もベストセラーになっている。

ハリケーンの爪痕が残る

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世界遺産のカテドラル(ハバナ市旧市街)

 カリブ海に浮かぶ小国キューバは、アメリカからわずか一四五キロメートル。日本からはカナダ経由で丸二日かかる。
 ハバナ空港に降り立ち、移動のバスからハバナ市内を眺める。世界遺産に登録されたスペイン領時代の面影を残す旧市街。昨年は三度も大型ハリケーンが襲 い、その爪痕はいまだ残る。食料品や日用品の配給を待つ市民たち。車は五〇年代のアメリカ車が目立つ。お世辞にも「豊か」とはいえない。しかし街には物乞 いをする人たちはほとんどなく、ホームレスも一人も見かけなかった。
 今年は、軍事独裁政権を倒したキューバ革命から五〇周年になる。しかし街にはカストロやゲバラの銅像がまったくなかった。市民にとって彼らは英雄のはずではないか。キューバ人に聞くと「どうして銅像など必要なのか」「彼らは仲間だ」という答えが返ってきた。

医師数は人口比日本の2倍

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眼科の検査風景。検査機器がずらりと並ぶ

 視察は正味四日間。キューバ保健省による講義、キューバ友好協会訪問、二つのファミリードクターとポリクリニコ見学、感染症とワクチン開発を目的とする二つの国立研究所、眼科病院と大規模病院、ラテンアメリカ医科大学訪問と、充実(超過密?)したものだった。
 キューバの面積は本州の約半分、人口は一一二四万人で東京都とほぼ同じ。しかし医師数は七万二〇〇〇人と、人口比で日本の三・二倍である。うち二万六五 〇〇人が海外に派遣されている。災害支援や、第三世界の貧困克服・健康管理支援、それに外貨獲得の意味もあるようだ。それでも人口比日本の二倍である。

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ラモンパンドフェレル眼科病院

 どんな片田舎でも医師が配置されており、健康管理台帳で全住民の健康を管理し、保健予防活動を徹底していた。平均、住民七五〇人に一人のファミリードクターがいて、いつでも健康相談にのる。
 キューバには医科大学が二四ある。卒後三年間は地域医療に従事し、その後、専門医療や研究に進むか地域医療を担うか、分かれていくということだった。
 現在四八・六%が地域医療を担い、医師の約九〇%は女性である。
 通常の検査や簡単な手術をおこなうのはポリクリニコで、人口一~二万人に一カ所程度ある。さらに専門性が必要な場合は眼科や心臓の専門病院が数十カ所と、移植医療もおこなう大規模病院もある。
 眼科ではベネズエラとの共同で「奇跡計画」が進行中だ。中南米の白内障をゼロにしようと始められ、アフリカも対象になった。見学した眼科病院には人が溢 れ、近代的な施設と技術を活用していた。手術の待機期間は長くて五日という。

ヒブワクチンも大量生産可能

 半世紀近くにわたるアメリカの経済封鎖に加え、ソ連崩壊で物資の供給はいっそう困難になったが、サトウキビなど国産の材料を研究し医薬品やワクチンを開発。少なくない国で特許を得ている。

根絶した伝染病とその年

ポリオ(小児マヒ)

1962

マラリア

1967

新生児破傷風

1972

ジフテリア

1979

耳下腺炎後髄膜脳炎

1989

先天性風疹症候群

1989

麻疹(はしか)

1993

風疹

1995

百日咳

1997

 ワクチンはキューバの得意分野で、すべての子どもに一三種類のワクチンを接種し、一九六二年の小児マヒ根絶以来、九つの伝染病を過去の病気にした(右表)。
 細菌性髄膜炎も、ヒブワクチンをすべての子どもに接種し、根絶に近い。日本では昨年一二月にようやく発売されたばかりで、自己負担が三万円。しかも供給量が少なく、医療機関に月三本までしか届かない。
 キューバでは、ヒブワクチンの生産が年間二〇〇〇万本可能で、日本政府の承認があればいつでも供給できるとのことだった。半世紀前、全国で小児マヒワク チン輸入にとりくんだように「ヒブワクチン緊急輸入運動」が求められているのかもしれない。

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ハリケーンで壊された建物。だが避難を徹底し死者は1人も出さなかった

 エイズ感染率も低い。学校で性教育を徹底し、一三歳までには性感染の危険性が教えられている。エイズワクチンの開発も進めていた。
 妊婦健診は最低一二回、保障している。
これらの結果、国民一人当たりの所得は日本やアメリカの三五~四〇分の一という「貧しい国」だが、乳幼児死亡率、五歳までの死亡率、平均寿命はアメリカをしのぐ高水準である(下表)。

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28カ国の医学生に無料で教育

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ラテンアメリカ医科大学の学生たち

 一九九九年に設立されたラテンアメリカ医科大学も訪問した。真っ青なカリブ海に面し、明るい日差しのなかで陽気な若い人たちが熱心に学んでいた。女子学 生が多い。この大学は、中南米やアフリカなど医師が足りない国々での保健・予防の向上をめざし、医師を育てている。毎年一五〇〇人が入学し、これまでに二 八カ国、六五〇〇人が卒業した。
 学費や滞在費はすべてキューバ政府の負担で、卒業後母国に帰ってもインターネットなどを通じ指導やサポートをしているという。キューバは「第三世界への 貢献」を使命としているが、アメリカからの学生もいる。貧しくて国内では医学部にいけない学生も受け入れているのだ。

「貧しさとは」「豊かさとは」

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救急車で退院する患者。入院のときは近所の人が連れてくるのであまり救急車は使われないという

 今回の視察は、キューバ大使館、キューバ友好協会の協力でおこなわれた。出発前の懇談のとき、フェルナンデス在日大使はこう語っていた。
 「みなさんが我が国を訪問されると、その貧しさに驚くでしょう。国民生活は、経済封鎖などのため大変苦しい。けれども、どこにも負けない『財産』がある。それは『人間中心の社会』だ。私たちはどんなときにも、国民に対し医療と教育だけは無料で提供してきました」
 わずか四日間の訪問だったが、参加者が共通して感じたことは、「貧しさとは」「豊かさとは」ということだ。たしかに生活向上にむけての国民の不満も少な くない。経済力をどのようにつけていくか、大きな課題だ。第一世代から次世代に、「建国の精神」をどのようにつなぐのか、新たな課題にも直面している。
しかしいま、対米従属を拒否する中南米の連帯は大きく広がり、来年二月には、「中南米・カリブ海諸国機構」が、アメリカとカナダ以外の全米大陸三三カ国の参加で発足する。大いに注目したい。

人間の命は何より価値がある

 一九六〇年、医師であったチェ・ゲバラはこんな演説をした。「ただ一人の人間の命は、この地球上で一番豊かな人間の全財産よりも一〇〇万倍の価値があ る、隣人のために尽くす誇りは、高い所得を得るよりもはるかに大切だ」。民医連運動がめざしているものと同じではないか。
 キューバは「品格のある国」である。――ある参加者の言葉。まったく同感だ。
写真・廣田憲威(全日本民医連事務局次長)

いつでも元気 2009.5 No.211