地球温暖化を止めよう(11)<最終回> 持続可能な社会のために
筆者:和田武(わだ・たけし) 1941年和歌山生まれ。立命館大学産業社会学部元教授。専門は環境保全論、再生可能エネルギー論。「自然エネルギー市民の会」代表、自治体の環境アド バイザーなど。著書に『新・地球環境論』『地球環境問題入門』『市民・地域が進める地球温暖化防止』『飛躍するドイツの再生可能エネルギー』(世界思想 社)など多数。 |
耳慣れない言葉もありましたが、1年間おつきあい、ありがとうございました。これでもお話しきれなかったことは多いのです。その中でも、原子力発電については、触れておかねばなりません。
■世界でも突出・日本の原発依存
温暖化防止に必要なCO2の大幅削減、日本はこの課題で遅れていると、世界からも指摘されています。先日ボンで設立会合が開かれた「国際再生可能エネルギー機関」へも加入しませんでした。
そんな日本政府が、温暖化対策で強く表明していることがあります。それは、原発の拡大計画。原発を「CO2を出さないクリーンエネルギー」と呼び、 「2030年までに最大で発電電力量の49%を原子力でまかなう」というのです(「長期エネルギー需給見通し」経済産業省資源エネルギー調査会2008 年)。さらに、世界中に原発を広める「原子力立国計画」まで。
そもそも日本は、世界でも異常なほど原発重視の国。原子炉55基、総設備容量4958万W、ア メリカ、フランスについで世界3位です。世界全体の原発数は90年426基から06年429基と微増ですが、この期間、日本は15基増やしています(建設 中3基、計画中11基でフランスと肩を並べるのも時間の問題)。設備容量も突出して伸びています(図)。
でも、おかしい。原発を増やしているのに、日本のCO2排出量は大幅増。一方、原発を大幅に減らしてきたドイツやイギリスはCO2を減らしています。こ れでは「原発を増やしてCO2を削減する」という政策にも「?」がつきます。
温暖化防止対策に、原発を見直し導入しようという声は確かにありますが、欧米では市民の批判が根強く、今後も大量建設が急速に進むとは考えられません。
■原発はクリーンエネルギーか?
チェルノブイリの事故(1986年)のように、いちど重大な原発事故が起きるとそこから数百㎞に及んで、人間が長期間住むことも通ることもできないエリアが発生します。日本で同じような事故が起これば、国土ごと滅びかねません。
「日本の原発は安全」だと宣伝されたこともありましたが、美浜原発の事故(91年)を皮切りに、国際評価尺度レベル1~4までの事故が起き、死者やけが人、被爆者が出ています。報告義務のある事故は毎年十数件から二十数件にも。
そのうえ最近、隠されていた事故やデータの改ざんも明らかになりました。07年3月に国に出された報告で、原発関連で7社97項目458件。中には 1978年のものや臨界事故という深刻なものも。電力会社が利益を優先するあまり、安全を無視してきたことを思い知らされます。
日本の場合、人的ミスのほか、大地震による事故の危険性も見逃せません。最近の大地震の最大の揺れは原発の耐震基準を上回っています。東海大地震の震源域にある浜岡では、古い原発を2基廃棄する代わりに、新たな大規模原発建設まで計画しようとしています。
また原発は事故以外にも、社会や環境に大きな不安を与えます。施設の老朽化、核燃料の再処理工場周辺の健康被害、高レベル放射性廃棄物の永久処分地問題など、みなさんも一度ならず耳にし、あるいは地元の当事者として、不安を抱いているのではないでしょうか。
原子力はクリーンでもなく、持続可能なエネルギーでもないのです。温暖化は避けねばなりませんが、同時に放射能汚染という別の危機も招けません。
■自然エネルギーへの転換で雇用も
深刻な原発事故がひとたび世界のどこかで起きれば、原子力利用は急速に停滞し、原子力産業は大打撃を受けるでしょう。燃料のウランは有限ですから、世界 中に原発を拡大すれば価格高騰も起きるでしょう。日本は「原子力立国計画」に固執せず、自然(再生可能)エネルギー重視に切り替えていくべきです。
それは雇用不安にも希望を与えます。自然エネルギーへの転換を積極的に進めるドイツでは、関連産業が発達し、25万人もの雇用を創出しました(07年)。
原発反対の運動と自然エネルギーの普及促進運動を結びつけ、発展させてゆくことも重要です。原子力の代替として、自然エネルギーの普及がすすんでこそ、原発をなくす条件が生まれます。
■まちづくりにかかわる皆さんへ
自然エネルギー資源は非常に豊富で枯渇しません。連載で述べてきたように、自然エネルギー生産設備は市民が導入できるし、そうすることで地域に配慮され るので、普及も進みます。しかも、いま世界に拡大しつつある自然エネルギー電力買取制度を採用すれば、導入によって地域に利益が還元されるようになりま す。
自然エネルギー資源の多い農村地域は、健全な発展が可能になり、食糧自給率の向上にもつながるでしょう。環境保全産業も発展し、雇用拡大も進みます。エ ネルギー自給率も向上します。地域内の協力、協同が進み、より民主的な社会になるでしょう。自然エネルギーの普及で、資源紛争・戦争も減らせます。
防衛費、道路予算、定額給付金、こんな無駄な税金の使い方をやめれば、そのための資金は十分にあります。未来世代のためにも地球環境保全は不可欠で、平和で民主的で地域も元気になる、よりよい社会づくりにつながります。力を合わせて明るい未来を目指しましょう。
ミニ解説国際再生可能エネルギー機関(IRENA)…再 生可能エネルギーの普及を目指す国際機関。CO2を出さない再生可能エネルギーは、温暖化対策の切り札として注目されている。同国際機関では普及促進のた めの政策を各国で共有するほか、途上国に技術を広めたり人材育成、資金の調達なども進め、世界的普及に向けた基礎を作る。1月26日、設立準備委員会が発 足し、欧州諸国や途上国など75カ国が設立協定に署名。日本政府は当面加盟しないと表明した。 原発施設の老朽化…原発の耐用年数は通常30~40年とされている。それが日本では、「検査の充実で60年の運転が可能」と他国でなら廃炉にされる期間を過ぎても運転し続けようとしている。電気事業連合会や原子力安全機構のホームページなどに顕著に表れている。 再処理工場周辺住民の健康被害…使用済み核燃料の再処理工程では、必ず少量の放射線物質が放出され、周辺環境の放射線強度は自然レベルよりも高くなる。再処理工場があるイギリスのセラフィールドやフランスのラアーグ周辺で白血病患者の増加が問題になっている。 高レベル放射性廃棄物…きわめて危険なた め、深さ300メートル以上の深層地下に処分し、10万年以上、地表に出さないようにしなければならない。しかし、放射性廃棄物を詰めた数万本のステンレ ス容器を密閉して何万年も耐用できる金属容器はない。ましてや地震を想定すれば、数百年、数千年の期間でさえ、安全に保管できる場所があるかどうか疑わし い。 |
いつでも元気 2009.4 No.210