緊急報告 「非正規」切り 仕事も家も失った労働者が助け求め
大量の「非正規」切りの影響が、医療現場にあらわれています。札幌からはトヨタをクビになった派遣の兄弟が野宿生活に耐えかね駆 け込んできた、という報告が(別項)。長野でも、仕事と住む場を同時に失っていた派遣の青年が入院する事例が発生しています。 (木下直子記者)
長野・松本協立病院に入院中のAさん(28)を訪ねました。足を引きずりながらあらわれたのは、人なつっこい笑顔の若者でした。一二月一日、動けなくなっていたところを救急車で運びこまれました。当時はホームレス状態。
腰痛でクビになる
Aさんは元派遣労働者でした。これまで数年間、各地の工場で働いてきました。忙しい時で一二~一三時間、一日中止まらないラインで重量のある機器を扱ううちに、腰痛を発症。それを知った派遣会社から解雇されました。
「会社は『腰が治ったらまた来い』と。国保証も期限切れで、治療はできませんでした。軽作業を探して松本に来たのですが、今度は立ったり座ったりが激し い仕事で、腰は痛くなるばかり。仕事に出られない日が多くなって…」結局、一カ月働いてここも解雇、寮も出されました。 「ぼくら派遣がいないと工場はま わらないのに、一人前扱いはされませんでした。年収は二〇〇万円程度。寮費の四万五〇〇〇~五万円に加えて管理費、水道光熱費が引かれました」
体重20kg減り
Aさんには頼れる身内がありません。ネットカフェなどに泊まり、貯金があるうちになんとかしようと、ハローワークに。しかし、身分を証明するものがなかったため、仕事は見つかりませんでした。
市役所にもいきましたが、どうしていいかわからず、相談せずに帰りました。ハローワーク前にワゴン車を停め、その場で人を集めて現場に連れていくような日払い仕事をしながらすごすうち、膝も腫れあがり、歩くのもたいへんに。やがて所持金は底をつき…。
「寒さもキツかった」とAさん。「ファストフード店にもそう長時間はいられません。雪になって、どうしようと思いながら歩きつづけるしかなかった夜も。そういう時は過去の自分の行動を『あの時』と、後悔するんです。『腰の痛みに耐えて働けていたら』なんて」
そして、ひと休みしていたデパートで倒れ、松本協立病院に。体重は二〇キロ減っていました。何も持たないAさんをソーシャルワーカーの赤坂律子さん(写真)はじめ、職員がそっとささえました。
「何年かぶりに人間の温かさにふれた感じ。ドクターがとりあえず、と貸してくれたお金で看護師さんが下着を買ってきてくれた。いまは退院後の心配までしてくれて」とAさん。
訪ねた日ちょうど、生活保護の受給が決まりました。「実は病室にいても退院後が不安で胃が痛かった。今度は正規の仕事につきたい。恩返しに、人助けできる側になりたい」と話しました。
赤坂さんはいいます。「Aさんは努力したんです。けれど派遣労働者の彼には選択肢がなかった。また困った時にあるはずの雇用保険や医療保険など、セーフ ティネットにもなかなか救われない境遇です。仕事を失えばすぐに命に関わる問題になる。同じような人が全国にたくさんいるはずです」
行政への対応や企業の責任を問いつつ、民医連や共同組織にも「地域の最後のよりどころ」として役割が待たれています。
野宿生活の兄弟が待合室で横たわり…「トヨタで切られた」 【北海道発】一二月七日の夜、札幌西区病院の待合室で男性二人が横になっていました。当直の事務職員が声をかけると、住む家もなく二週間、路頭に迷っているというのです。三二歳と二六歳の兄弟でした。 |
いつでも元気 2009.2 No.208