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いつでも元気

いつでも元気

特集1 人をモノみたいに使い捨てないで!

北 健一(ジャーナリスト)

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左から3人目が高橋さん、その右屋代さん。弁護団、支援の組合と(2008年11月14日、さいたま地裁熊谷支部前)

 「一〇月二五日で辞めていただきます」
 トヨタ系の自動車部品メーカー・ジェコーで働いてきた高橋美和さん(29)は、昨年一〇月二三日、同社のH取締役らにそう告げられた。「長期の欠勤」を 理由に期間従業員としての契約を更新しない、「あさってでクビ」というのだ。
 「長年働いてきたのに、許せない」
 高橋さんは、屋代和彦さん(42)、船木陽子さん(40)と、雇い止め撤回を求める裁判を起こした。

夜勤を強要したあげく

 高橋さんは二〇〇一年五月、大手派遣・請負会社日研総業からジェコー行田工場に派遣され、自動車計器類の製造ラインで働いてきた。派遣先のジェコーから指揮命令を受ける高橋さんたちの働かされ方は偽装請負。しかも高橋さんは七年近く夜間勤務を強いられてきた。
 辞めた同僚も多い。だが高橋さんは、正社員になって一〇万円でもいいからボーナスが欲しい、それを貯金してトヨタ車を買いたいとがんばってきた。
 JAM神奈川ジェコー労働組合に入ったのも、そのためだ。会社との交渉で正社員化を求めても埒があかなかったので、高橋さんらは〇七年六月、埼玉労働局に偽装請負を告発した。
 労働局の指導を受けたジェコーは〇七年九月、高橋さんら七〇人余の「派遣」を期間工として直接雇用。当初の四カ月契約を〇八年一月に更新し、四月からは雇用期間六カ月の期間従業員になった。
 一歩ずつ、正社員という夢に近づいたように見えた。だが、毎日の夜勤は心身を傷つけていく。生理が不順になり、頭がしめつけられるように痛い。未明に帰 宅しても眠れない。「継続夜勤が原因の睡眠障害」と診断され、うつ病も患った。会社が雇い止めの理由にあげた「欠勤」は、業務上の病気を治すために、診断 書を添え会社の許可をとったものだった。

日本を代表する企業で

 深夜勤務を強要してこき使い、体を壊したら使い捨て。ジェコーは半年で二億九〇〇〇万円ももうけている(〇八年九月期中間決算・経常利益)というのに。
 日本を代表するトヨタ、いすゞなど自動車産業や、キヤノンなど電機産業を中心に、派遣切り、期間工切りは数十万人規模に及ぶ。彼らは職を失うと同時に寮を追い出され、文字通り路頭に迷う。こんなに安易に人を切って、ものづくりにどんな明日があるのだろうか。
 昨年一一月一四日の提訴の後、高橋さんは「全国で苦しんでいる人を代表して裁判を起こした」と声を振り絞った。高橋さんらの代理人、猪俣正弁護士は「偽装請負の告発者を狙った可能性があり、裁判で明らかにしていく」と語った。

安心して働けるルールがほしい

派遣法は抜本改正を

 

派遣の労災9倍に増加

 手元に「死亡災害報告」という書類がある。二〇〇六年に労働災害で死亡した派遣労働者についての報告で、厚生労働省から情報公開請求によって取り寄せたものだ。
 五月一〇日には、建造中の船の中でガス溶断作業中、作業服に火花が降りかかって発火、大やけどし、後日死に至った。
 六月一五日には、プラスチック製品を搬送する機械から工具を取ろうとし、硫酸などの混合液が入ったプールに落ちて三七時間後に亡くなった。
 九月二九日には、トラックについたクレーンを使って鋼板を荷台に積み込んでいたところ、フックから外れて落ちた鋼板の下敷きになって死亡した。
 報告書には墨塗り部分が多いが、開示された情報だけでも、労災を防ぐための安全対策や教育訓練が不十分だったのではないかと疑われる惨事が目につく。
 厚労省の調べでは〇七年に労災で被災した派遣労働者(休業四日以上の死傷者数)は五八八五人(うち死者三六人)に上り、製造業への派遣が解禁された〇四年に比べ約九倍に増加した(グラフ)。
genki208_01_02  派遣労働者の数も増えているが、派遣労災の増加はそれ以上で、この数字自体氷山の一角だ。『おしえて、ボクらが持ってる働く権利』(合同出版)などの著書 があるフリーター全般労組の清水直子委員長は、「派遣の人が現場で大けがをしても会社が救急車を呼ばないのは日常茶飯事です」と話す。
 建設・港湾など禁止業務への派遣や偽装請負などの違法がバレないように、労災も隠されることが多いのだ。
 直接雇っていないから。どうせ短期で替わるから。経営者にそんな意識がある限り、労災はなくせない。労働者を使う企業が雇用責任を取らない派遣制度の欠陥が、ここにも表れている。

はじめて組合を結成して

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派遣法の抜本改正をめざす12・4日比谷集会。各地からの訴えが次々と(下の2枚も)

 労災隠しに使い捨て。そんな無法を正す動きも、着実に広がっている。
 〇八年一二月四日、東京・霞が関の日比谷公園野外音楽堂は、派遣切りへの怒り、「人を使い捨てる法律」への憤りであふれた。
 前日、JMIU(全日本金属情報機器労働組合)いすゞ自動車支部という組合を結成したばかりの松本浩利さん(46)が「不当な解雇に対して断固闘います」と表明すると、大きな拍手が起きた。
 大分キヤノンでクビになった青年は、「寮から追い出さないで」「ぼくたちにも二〇〇九年を迎えさせてください!」と叫び、聞く者の胸を打った。

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 会場にはナショナルセンターの違いを超えた組合旗が林立し、四野党や日本弁護士連合会の代表らがあいさつ。ホワイトカラーエグゼンプション(残業代ゼロ法案)をつぶした運動と並ぶ盛り上がりとなった。
 政府が〇八年一一月に閣議決定し臨時国会に提出した派遣法改正案は、一カ月未満の派遣契約を禁止するなどというもので、「一カ月+一日」単位の派遣切りには何の歯止めにもならない。

正規も非正規も力あわせ

 参加者が求めたのは、安心して働けるルールづくりだ。呼びかけ人を代表して、作家の鎌田慧さんが「派遣法は解体すべきだが、まずは抜本改正だ」とあいさつ。
 集会の最後に、JMIUの三木陵一書記長が「正規も非正規も、すべての労働者が力を合わせるときがきた」と提起。国会に向かうデモの列が長く続いた。
 集会に参加した首都圏青年ユニオンの河添誠書記長は、「何度もクビになることで、若者たちは自尊心さえ奪われる。登録した派遣会社が仕事のある日だけ雇う形の登録型派遣は、人を毎日切るようなもの。やめさせなくては」と力を込めた。
 派遣法改正は〇九年通常国会の最大の焦点だ。人の使い捨てを許さない現場からの反撃と、立法をめざす国会内外の運動が重なり合って、列島を揺るがそうとしている。
写真・五味明憲

告発者解雇に“待った”

「派遣先企業の責任」を高裁が指摘

 〇八年四月二五日、大阪高裁(若林諒裁判長)は、パナソニック(元松下電器産業)の子会社・松下プラズマディスプレイ(松下PDP、現パナソニックプラズマディスプレイ)の偽装請負を断罪し、内部告発した吉岡力さん(33)の解雇撤回を命じる画期的判決を言い渡した。

職安法の復権がポイント

 吉岡さんは〇四年一月から、松下PDPの茨木工場で働き始めた。吉岡さんは請負・派遣会社パスコの社員で、パスコが松下プラズマから業務を請け負う契約になっていたが、実態は松下PDPの社員が指揮命令する偽装請負だった。
 吉岡さんが大阪労働局に偽装請負を告発すると、松下PDPは吉岡さんを期間工として直接雇用したが、一人隔離部屋に閉じ込めていじめたあげく、〇六年一月、「期間満了」を理由にクビにした。
 だが若林裁判長は判決で、松下PDPと吉岡さんの雇用関係を認めた。ポイントは職業安定法(職安法)の復権にある。
 職安法が定める労働者供給事業禁止=直接雇用原則は、八時間労働制と並ぶ戦後労働法の柱だ。建設、港湾、炭鉱を中心に暴力団が人出しに介入し、中間搾取 (ピンハネ)や強制労働が横行した戦前の反省から、労働者を使う者が雇用責任を負うと定めたのである。
 ところが一九八五年に労働者派遣法が制定されて以降、例外的に合法化された「派遣」の範囲がどんどん拡大。大企業がどんなに無法なことをしても、野放しになった。

「直接雇用みなし規定」を

 それに対し大阪高裁は、偽装請負は職安法と労働基準法六条(中間搾取の排除)に照らし、「公の秩序に違反し無効」と判断。松下PDPと吉岡さんの間には「黙示の労働契約の成立が認められる」とし、隔離部屋でのいじめも「告発への報復」と認定し賠償を命じた。
 吉岡さん側弁護団の依頼で大阪高裁に鑑定意見書を出した関西大学大学院法務研究科の川口美貴教授は、「判決は画期的ですが、裁判を起こすのは労働者に負 担です。違法な派遣がおこなわれた場合には、受け入れた企業が正社員として雇ったとみなす、『直接雇用みなし規定』を派遣法に書き込む必要があります」と 説く。
 この判決にもとづけば、高橋さんらも、偽装請負だったときからジェコーとの間に黙示(暗黙)の労働契約が成立していたと考えられる()。

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いつでも元気 2009.2 No.208