やれることは、まだまだある 大阪・豊中医療生協
患者増、仲間増やし、経営改善を同時に
患者増、仲間増やしを同時に達成し、経営改善に向けて奮闘を続けている大阪・豊中医療生協。どんな工夫をしているのか、訪ねてみました。
「無料個別送迎サービス」は患者さんに好評です |
「豊中医療生協」は、大阪府北西部に位置する豊中市(人口約三九万人)と近隣のまちを診療圏とし、保健・医療、介護事業、健康づくり事業にとりくんでいる小さな法人です。
電話一本で迎えにいきます
阪急豊中駅から歩いて一分。豊中診療所の玄関では送迎スタッフが患者さまの手をとって、車から降ろしているところでした。しばらくすると一台、また一台、ひっきりなしに車が玄関前に横づけされます。豊中医療生協が独自にはじめた「無料個別送迎サービス」です。組合員になれば誰でも利用でき、午前中の診療時間なら電話一本で利用者の家まで迎えにいきます。
もともと市内でも診療所から遠い南部地域で要望があり、循環バス方式ではじまりました。ところが待ち時間が長いなどで、利用者は増えませんでした。そこ で必要な人が使いやすい送迎サービスにと、デイケアの送迎に組み込むかたちで二〇〇五年一〇月より、直接自宅まで訪問することにしたそうです。この一〇月 で丸三年になります。
送迎スタッフの礒合健さんは、「現在、非常勤職員三人で担当しています。一日あたり平均六人、多いと一〇人くらい送迎します。タクシーのように便利に使 えて、しかも無料なので最近とくに利用者が増えています。具合の悪いとき、自力で診療所までくるのは大変ですからね。一人暮らしのお年寄り、子育て中のお 母さんなど、診察に来たくても来られない方も多いですから、私たちの役割を強く感じます。送迎の時間調整に苦労していますが、必ず『ありがとう』と感謝さ れるのがうれしいですね」。
一年ほど前から利用しているという坂本道子さんは、「母の診察のとき、毎回お願いしています。スタッフの方が優しく手を貸してくれますし、本当に助かります。介助者がいないお年寄りはもっと大変でしょうから、こういうサービスはありがたいです」と語りました。
「豊中医療生協」組合員数6136人 |
(8月31日現在) ■豊中診療所(1953~) |
思い切ったサービスで独自性を
思いきったサービスですが、どうして始めようと思ったのでしょう。
「相次ぐ医療改悪で負担が増え、患者さんが診療所にかかりづらくなってしまいました。待っていてはダメだ、私たちが地域に出ていって、一人ひとりの患者 さんに、ていねいに対応しようと決めたのです。その具体策の一つが『無料個別送迎サービス』だったのです」と山本美彦専務。
江口幸代理事長は「送迎車が走っていると、けっこう目立つんですよ。便利なものは口コミで広がりますし。『街でよく見かけますよ』と、声をかけられることもしばしば。私たちの『宣伝(ウリ)』にもなりますし」と、話します。
健診もずいぶん増えています。そのわけは?
「地道に街頭や商店街で健康チェックをつづけてきたからではないでしょうか。それに今春から導入された『特定健診』により、いままで受けていた健診が受 けにくくなったり、同じ内容を希望すると自己負担が増えたりしています。でも当診療所の健診項目は四一と大阪府下で最多。厚労省の特定健診・最低基準一 五、豊中市国保健診の三三を大きく上回っています。地域住民の健康を守るのは私たちの大事な役目ですから」と江口理事長は胸をはります。
「国民の健康度が明らかに落ちているのに、国は健診項目を減らし社会保障費削減をしようとしている。逆に健診内容を充実して独自性を出すことで、われわれの『健康づくり健診』が市民に注目されることになると考えています」と山本専務。
地域で私たちの「顔」がみえてきた
江口理事長は「理事・組合員さんたちのガンバリ、多彩な班会開催などの積み重ねが大きいですね。そして職員の奮闘」と話します。健康チェックで「健診受けてますか?」と声をかけ、新しい仲間が増えるという、いい流れができつつあると。
「さらに自治体への『国保料値下げ』のとりくみ、何といっても『後期高齢者医療制度』廃止署名の運動をねばり強くやってきたこともいい経験になりました ね。街ゆく人から『期待してるでぇ~』と声をかけられ、『打てば響く!』と自信につながった。この地域で医療生協・民医連の『顔』がみえてきたと感じま す。地域・患者・経営を一体のものとしてとらえることが大事ですね。『健康チェック』から仲間増やし、健診、事業所(診療所など)利用へとつながり、結果 的に経営改善にもつながる。私たちがやれることはまだまだありますよ」とにっこり。
文・井ノ口創記者/写真・若橋一三
いつでも元気 2008.11 No.205