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いつでも元気

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特集2 多いのに“見えない障害” 高次脳機能障害

周囲の理解とサポートが大切

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堀口 信
北海道・函館稜北病院リハビリ科

 脳卒中や交通事故による脳外傷、心肺停止による低酸素脳症から一命をとりとめ、身体にも障害はほとんど残っていない。「よかった」と思っていたら、退院後、本人のようすが病前(外傷前)とはずいぶん違う、ということがあります。
 たとえば―
 昔のことはよくおぼえているのに、ついさっきのことを忘れてしまう。そのために周りの人は同じことを何度も説明しなければならない。
 情緒が不安定で、すぐ怒ったり、逆に上機嫌になったりする。
 予定を立てて行動することができない。
 物事をこなす速度が遅く、いくつかのことを同時におこなうことができない。
 これらは脳に傷が残ったために起こることです。交通事故や心肺停止による低酸素脳症なども原因になるため、若い人にも多く見られます。これを高次脳機能 障害といいます。注意、判断、決定、記憶などにさまざまな認知障害が現れるため、就学や就労が困難になります。適切な診断と治療、リハビリ、就学・就労支 援が必要です。本来は、脳損傷による認知障害全般のことを指し、言語障害の一種である失語症(言葉の読み書き、考えたことをうまく言葉にできない)や、認 知症も含まれています。
  これに対して、国(厚生労働省)が2001年度から本格的に研究にとりくんでいる「高次脳機能障害」は、行政として定義したもので、失語症や認知症は含まれていません。
 今回お話しするのは、後者の狭い意味での高次脳機能障害です。

表1 高次脳機能障害の主な原因

脳血管疾患
 脳出血、くも膜下出血、脳梗塞など

脳外傷(頭部外傷)
 交通事故、高いところからの転落、スポーツ中の転倒など

その他
 脳炎、低酸素脳症、アルコール依存症など

 

全国に27万人も

 脳卒中や交通事故による脳外傷では、身体の障害と高次脳機能障害を合併することがあります。時間の経過とともに身体の障害は軽くなり、高次脳機能障害だけが残るケースもあります。
 最近の調査によれば、高次脳機能障害を持つ人は全国に約27万人もいるようです。65歳以上の認知症が約190万人、失語症は30万~50万人といわれていますから、決して少なくない数です。  
 失語症でも認知症でもない高次脳機能障害で、日常生活・社会生活に困難をかかえる人がこれだけいるにもかかわらず、診断、リハビリテーション、社会復帰支援などのシステムが確立していません。早急な対策、環境整備が必要になっています。
 こうしたことから国も、高次脳機能障害をとりあげて、独自の支援体制を検討することになったのです。

代替手段も使ってリハビリ

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何度も同じことを聞いたり…

 高次脳機能障害には大きくいって記憶障害、注意障害、遂行機能障害、病識欠如、社会的行動障害があります(表2)。
  これらの症状は身体障害と異なり、「見えない障害」といわれています。日常動作や日常会話程度では周囲から障害がわかりにくく、社会生活を営んではじめ て、病前と違うことに周りが気づくこともあるからです。また言動の変化に気づいても、「人が変わったようだ」「ノイローゼでは」「怠けている」などのよう に受け取り、障害だと正確にとらえていないこともあります。
 発症・受傷から1年くらいまでは認知機能の改善が期待できるため、リハビリを実施します。記憶障害や注意障害など、個々の症状にあった訓練を作業療法士、言語聴覚士、臨床心理士がおこないます。
 代替手段、たとえば記憶障害であれば、メモやチェックリストを活用する練習もします。さらに日常生活や就学、就労に対する援助もリハビリには含まれます。

表2 高次脳機能障害の主な症状

● 記憶障害
 物の置き場所を忘れたり、新しいできごとを覚えていられない。同じことを何度も繰り返し質問したりする。

● 注意障害
 ぼんやりしていて、ミスが多い。複数のことを同時にしようとすると混乱する。

● 遂行機能障害
 自分で計画を立ててものごとを実行することができない。人に指示してもらわないと何もできない。

● 病識欠如
 自分が障害をもっていることをうまく認識できない。障害がないようにふるまったり、いったりする。

● 社会的行動障害
 すぐ他人を頼る、子どもっぽくなる(依存、退行)。  
 無制限に食べたり、お金を使う(欲求コントロール低下)。
 すぐに怒ったり笑ったり、感情を爆発させる(感情コントロール低下)。
 相手の立場や気持ちを思いやれず、よい人間関係がつくれない(対人技能稚拙)。
 ひとつのことにこだわって他のことができない(固執性)。
 その他、意欲の低下、抑うつなど。


社会保障制度の活用も

 身体障害がある場合は、社会保障制度も活用しましょう。身体障害者手帳発行の対象になるかどうか、検討すべきです。申請に必要な診断書は、身体障害者福祉法の指定医が書くことになります。
 身体障害とは別に、高次脳機能障害は精神障害者保健福祉手帳の対象になる場合があります。こちらは、診断書が精神保健指定医しか書けない県もあるため、医療機関や市町村区役所などに聞くとよいでしょう。
 障害者手帳以外の社会保障制度としては障害年金、労災保険による障害給付や、自賠責保険による障害給付などがあります。
 しかしながら、活用できる制度は限られているのが現状です。「実際に利用できたのは、身体障害者手帳だけ」ということも多いようです。
 さらに高次脳機能障害があっても身体障害が軽いために障害者手帳がとれないこともあります。そのため、障害者雇用制度(障害者雇用促進のために、障害者 を雇用した企業に補助金が出る)が適用されず、職場復帰や就職が難しくなる、交通事故の障害を軽くみられて十分な補償が受けられない、などの問題がありま す。
 高次脳機能障害に関する社会保障制度は複雑なので、病院のソーシャルワーカーに相談しましょう。

図 日常生活の状態
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患者・家族会も支えに

 高次脳機能障害を持つ方の家族の悩みは経済的問題だけでなく、日常不断の声かけや観察が必要など、介護の大変さがあります。ある調査では、家族が感じる 困難さが強い項目は、「精神的なストレス」「家族の人生への影響」「リハビリの不足」「行政担当者の配慮不足」などでした。
 こういった家族を支える患者・家族会が全国にあります。また、作業所を運営している患者・家族会もあります。患者・家族会の連合体である日本脳外傷友の会のホームページ(注1)に名簿が掲載されています。
 この他に2006年10月からは専門の窓口として高次脳機能障害への支援普及事業が始まっています。まだすべての県には設置されていませんが、最新の情報は国立身体障害者リハビリテーションセンターのホームページ(注2)に掲載されています。全国33都道府県、46の支援拠点機関(病院、福祉施設など)が紹介されています。支援拠点機関には、支援コーディネーターが配置され、高次脳機能障害をもつ本人、家族の相談にものってくれます。

障害への理解広げよう

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患者、家族をささえる会が全国にあります

 リハビリ、社会保障制度の活用、患者・家族会などについて紹介してきました。どこから何を相談していいかわからない場合は、まずは、かかりつけ医、担当のリハビリ訓練士、ソーシャルワーカーなどに聞くのが近道でしょう。
 高次脳機能障害に対する支援体制はまだまだ不十分です。一般市民には、まだよく知られていない障害でもあります。読者のみなさんも高次脳機能障害について理解を深めていただき、「こんな障害がある」ということをまわりの方に広めていただくことが、大切だと思います。

注1http://npo-jtbia.sakura.ne.jp/
電話 0463(31)7676
注2http://www.rehab.go.jp/
電話 04(2995)3100

イラスト・いわまみどり


“本人・家族のよりどころが必要”

脳外傷友の会コロポックル道南支部代表
村上峯子さんにきく

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作業所のみなさん。前列左が村上さん

 北海道では1992年、脳外傷友の会を設立。「コロポックル」(注)と名付けて活動しています。
 道南支部では例会を開き、悩みの交流、学習会・講演会のほか、作業所も運営しています。高次脳機能障害者と家族の悩みを支部代表の村上峯子さんに聞きました。

障害で家を手放す人も

 「高次脳機能障害の症状は、人によりさまざまです」と話す村上さん。「怒りやすくなった人もいれば、無気力のように見える人も。外出先で帰れなくなる人もいます」
 就労が困難になるため、一家の大黒柱が障害を負って、家を手放すケースもあります。「妻が働きに出ても、女性の就職先は限られていて、収入も低い。これ は本当に、社会の問題なんですよ」と村上さん。高次脳機能障害を理解してくれる医師や病院もまだまだ少ないといいます。
 障害を負った本人が若い場合、定職に就けないのを見て周囲から「親は何をしているんだ」「親の育て方が悪い」などといわれたり、障害者が身内にいるということで結婚が破談になることも。
 家族が障害を受け入れられず、元気だったころを思い出して苦しみ、ウツ状態になる場合もあります。
 経済的にも、精神的にも家族の悩みは深刻。自身、息子さんが交通事故で高次脳機能障害になった村上さんは、「作業所のような、本人や家族のよりどころが 本当に必要なんです」と強調。「親が亡くなった後も社会で生活していくためにグループホームを設立するなど、今後の方向性を見いだすことも友の会の課題で す」とも話します。

弱い者にもっと税金を

 コロポックル道南支部は、「悩みごとの交流や学習会だけでは限界がある」と、3年前に作業所をつくり、相談窓口も設けました。しかし資金も人材もない状態からの出発、障害者自立支援法(06年施行)がさらに運営を難しくしています。
 「以前は1年の実績があれば作業所として認可されていましたが、いまでは10人以上の通所者を確保するようにいわれます」
 ことし4月以降、障害者就労支援センターの支援も受けて道南支部から2人が就労した他、作業所からも2人が巣立っていきました。村上さんは「うれしいことですが、通所者が減って、また人を集めなければいけません」と矛盾を語ります。
 昨年から市の補助金が出るようになり、作業所に専門の指導員を置くことができましたが、「生活に十分な給料が払えない」。作業所は家族をはじめ、ボランティアのささえがあって成り立っている現状です。
 村上さんは、「行政は福祉や教育など、もっと弱い立場の者に税金を使ってほしいし、この障害を理解する人が増えてほしい。高次脳機能障害はもちろん、すべての弱い立場の人が安心して暮らせる日本になればと思います」と話してくれました。

(注)コロ(フキの葉)の下に住む、ポックル(知恵のある人)。アイヌの人たちは困ったことがあると、コロポックルに相談したと伝えられています。

■コロポックル道南支部では賛助会員(年1口2000円)、カンパなどをお願いしています。ご協力ください。
〒040-0052
北海道函館市大町6-15 
電話:0138-22-6188 
ホームページは、http://wwwc.ncv.ne.jp/~kp_donan/

 いつでも元気 2008.11 No.205