地球温暖化を止めよう(3) 自然エネルギー転換へ一番乗り──デンマーク
■CO2を出さず、枯れないエネルギー
筆者:和田武(わだ・たけし) 1941年和歌山生まれ。立命館大学産業社会学部元教授。専門は環境保全論、再生可能エネルギー論。「自然エネルギー市民の会」代表、自治体の環境アドバイザーなど。著書に『新・地球環境論』『地球環境問題入門』『市民・地域が進める地球温暖化防止』など多数。 |
地球温暖化を止めるには、CO2などの温室効果ガスの排出を徹底的に抑えることが必要で、 「2050年には現在の排出量を半減する」というのが世界の目標だと前回お話ししました。排出されるCO2の90%以上が、エネルギーを作り出す目的で、 石油や石炭などの化石燃料を燃やすことで出ています。
そこで注目されるのが、再生可能エネルギー※です。太陽光・熱や水力、風力、地熱などを活用するので、大気汚染やCO2排出といった環境への悪影響は少 なく、化石燃料のように枯渇の恐れもありません。欧州を中心に世界では、発電などの手段を化石燃料から自然エネルギーに転換する動きが起こっています。
■風力発電が総電力量の2割!
デンマークは人口約540万人ほどの欧州の小国です。国土が平坦で水力発電には適さず、緯度が高いため太陽光も豊かではありません。そんな環境でも風力と バイオマス(生物資源)を中心に推進し、最近10数年間の再生可能エネルギー発電の普及は1990年比で2004年は12倍、平均伸び率は19%強になり ました(図)。
05年の風力発電量は総電力の約19%を占めるなど、まさに再生可能エネルギー普及で世界の先駆けです。
■市民が変えたエネルギー政策
なぜ、こんな転換ができたのでしょう。1973年のオイルショックを機に、同国政府はエネルギーの自給政策を打ち出しました。しかし内容の中心は北海油田の開発でした。
環境保全的なエネルギーの模索は、同時期、市民の中から起こりました。10~20キロワット台の風車を建て、自家発電をはじめる人たちがあらわれたので す。1978年には彼らは風力発電機所有者協会を設立。風力発電機メーカーも協力し、風力発電普及のための制度づくりに動き出しました。
所有者協会は政府と電力会社に設備への補助や風力発電の電力の買い取りを求めました。風車の設置費用を国が30%補助し、風力で発電した電力を電気料金 の70%価格(個人所有の風車の場合)と85%価格(共同所有の場合)で電力会社が買い取る制度をつくらせました※。
制度ができ、設置する市民の経済的負担がなくなると、風車は普及しました。「環境に役立つことをしたい」と考える人は多いのです。損さえしなければ、積 極的に参加するので、普及がすすんだわけです。再生可能エネルギーは各地に分散して設置されることが多い上、規模も小さいので、住民所有に適しています。
あわせてデンマークは、風力発電機の生産で世界トップのシェアをもつようになりました。風力発電関連の雇用も創出し、2万人以上が従事しています。
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デンマークの風車。左は都会の人たちが共同で農地にたてたもの。右は個人所有。いまも発電用風車の8割が、住民所有だ |
もちろんここまでくるには障害がなかったわけではありません。風力発電に反対する人たちもいました。原子力発電を推進したい電力会社や、風車の生態系への影響を危ぶむ団体などでした。
地域環境への影響の懸念には「風力発電設置者を設置地域の住民に限定する」という基準を定めて配慮しました。
原子力については、スリーマイル島の原発事故の経験を国民的に議論した結果、国が導入しない方針を決めました。
風車の普及が進むと風車の価格が安くなりました。風力発電機設置への補助金は廃止されましたが、電力を買い取る制度だけでも普及が進みました。この制度 を参考に、ドイツをはじめ多くの国が「再生可能エネルギー電力買取補償制度」(固定価格買取制度)を採り入れています。
木、麦わら、畜産し尿からのメタンなどのバイオマスは、コージェネレーション※主体の地域暖房システムに活用されています。住民が参加する「地域暖房会 社」で運営され、効率よい暖房を地域に提供しています。断熱パイプを通じてお湯が供給される、安全で安価な暖房です。人口の60%がこの地域暖房に加入し ています。この分野も国の主要産業になり、東欧や中国などにも輸出しています。
ただ、01年に政権が社会民主党から保守に交代し、風力発電については停滞気味。政治は環境問題でも重要です。
■「やればできる」示した
デンマークの功績は、自然エネルギーを普及し「やればできる」と世界に示すとともに、普及のための制度やノウハウを編み出したことでした。
そう思いながら日本を振り返ると…太陽、風、森、小水力と…デンマーク以上に自然の力に恵まれた国土があります。足りないのは「まともなエネルギー政策を持った政府」というところでしょうか。
■次回は、注目のドイツ
ミニ解説
再生可能エネルギー…自然エネルギーともいう。限りある化石燃料や原子力に対し、自 然環境の中で繰り返し起こる現象から取り出すエネルギーの総称。太陽光や太陽熱、水力(ダム式発電以外の小規模なものは環境破壊しにくい)や風力、バイオ マス、地熱、波力、温度差などを利用した自然エネルギーと、廃棄物の焼却熱利用・発電などのリサイクルエネルギーを指す新エネルギーである。
電力買い取り制度…80年代に風力発電協会は、電気事業連合に風力発電からの電力を 優遇して買い取らせる協定を結んでいた。しかし92年に電気事業者側が協定を破棄したため、政府は風力発電法を制定し、電力会社に風力発電からの電気購入 を義務づけた。バイオマスは96年以降から買取制度の対象になった。
コージェネレーション(cogeneration)…燃料を用いて発電すると同時に その際発生する排熱を冷暖房や給湯、蒸気などの用途に有効利用する、無駄の少ないシステム。1つの一次エネルギーから2つ以上のエネルギーを発生させるの で「co(共同の)generation(発生)」
原子力は温暖化防止にいいの?…日本政府は「地球温暖化対策のためCO2を出さ ない原子力利用の世界的拡大」を訴えた(07年『原子力白書』)。また原子力発電量を2030年までに全体の30~40%以上に拡大する方針。だが、原発 は拡大すべきでない。あいつぐ事故やトラブル隠し、大規模地震が発生しやすい国土、使用済み核燃料の処分の問題などにみられるように、CO2は出さない が、国土に壊滅的なダメージを与える危険があるからだ。
いつでも元気 2008.6 No.200
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