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いつでも元気

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特集2 立山運動器専科 班会(上) 健康寿命をのばそう! 富山協立病院 整形外科 石井 佐宏

筋肉ポンプで全身の血液を回す

 新年あけましておめでとうございます。『いつでも元気』な皆さま、はじめまして。立山連峰を仰ぐ越中富山の整形外科医、石井です。私は医療生協の組合員の方々を対象に『健康寿命をのばそう!』と題した運動器班会をしばしばおこなっています。
 「どれだけ健康で活動的に暮らせるか」という健康寿命は遺伝で決まっているのではなく、中高年期をどのような環境で、いかに生活するかということに掛 かっています。一卵性双生児と二卵性双生児の寿命を比較した疫学統計で、ヒトの寿命を規定している要因のうち遺伝因子は25%に過ぎないことが明らかにな りました。残りの75%は環境因子なのです。
 班会では、健康寿命をのばす要となる運動についてお話しています。
 新春は全国各地の皆さまに向けて、史上初の誌上班会を開きましょう。お品書きは、(1)骨粗鬆症に備えよう、(2)四伸体操のススメ、(3)運動は最良の薬、となっています。
 2回の連載です。よろしく!

運動器専科

 さて、わが国は中高年7000万人の時代です。腰痛が1000万人、膝関節痛が700万人、肩こりをともなう頭痛が2000万人という報告もあります。 運動器に痛みを持つ患者が数千万人いるわけです。また、骨粗鬆症による骨折は、脳卒中に次いで寝たきりの原因となっています。
 私は整形外科という呼び名にどうも馴染めません。対象が四肢と脊椎ですから、運動器外科がいいなあ。
 しかし、実際に手術となるケースは一般外来の患者さんの1割もないので、いっそのこと「運動器専科」とでも看板を掛け替えたらどうでしょう。そして現在 おこなわれている身体の部位別の研究や治療だけではなく、身体の使い方や体操法などを含めたよりトータルな研究を進め、その成果を広く実地指導すれば、運 動器の患者数千万人のうち少なくとも半数の方々の痛みの軽減に大いに役立てると思うのです。ここでは、最も基本的な体操を紹介していきます。

放置されている骨粗鬆症

 わが国には1100万人の骨粗鬆症の患者がいます。ところが、実際に治療を受けているのは2割にも達していません。あるアンケートでは、骨粗鬆症検診を受けなかった理由として、 骨粗鬆症患者の実に74%が「まだ必要がないと思っていた」と答えています。
 しかし、現実には70歳を超えると骨折の危険性は2倍になり、骨折したことがある人では、危険性は5倍近くに跳ね上がります。ゆえに、とくに閉経期の女 性に頻発する、最初の背骨の骨折を予防することが重要となります。御婦人方、もう一花咲かせる50代になったら、骨粗鬆症のチェックに整形外科に来られ~ (富山弁)。
 骨密度だけでなく、骨が減る速さを調べる血液検査もあります。

図1 腰椎の骨密度

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骨粗鬆症とは

 骨粗鬆症は「骨強度の低下を特徴とし、骨折の危険性が増大した骨疾患」と定義されます。
 (図1)をご覧ください。骨量(骨密度)は20歳で最大にな り、その後40歳まではほぼ一定です。そこから徐々に減り続けるわけですが、女性の場合は閉経で女性ホルモンが減少すると、骨量も拍車がかかったように減 少します。女性ホルモンには、骨量が減るのを抑える働きもあるからです。
 ですから、若い女性が無理なダイエットで偏食すると、老後までたっぷり残しておきたい骨量が最初から少ないという末恐ろしい事態になってしまいます。ま た、卵巣や胃の手術を受けた方、ステロイド剤を長く服用されている方は骨量が減りやすいのでとくに注意してください。男性でも、飲酒や喫煙が多い50歳以 上の方は油断なりません。

図2 脊椎圧迫骨折

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図3 背中が曲がると…
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背骨が丸くなっていく…

 骨粗鬆症の問題は、転ぶと骨折しやすくなるということです。
背骨の骨折が最も多く、レントゲン写真では背骨の前の部分(椎体)がつぶれてほぼ三角形になったり、中央部が凹んで変形します(図2)。 
 背骨につぶれた部分が何ヵ所もあるとどうなるでしょう? そうです、徐々に背中が丸くなります(円背)。骨折自体の痛みもありますが、背中の筋肉がいつ も引き伸ばされて筋肉内の血流が悪くなるため、だるくなったり、慢性的に腰や背中が痛くなったりします。  
 胸や腹は折り曲げられて呼吸機能が低下し、逆流性食道炎(胃酸が食道に逆流して胸やけや吐き気を起こす)や便秘になって健康寿命にもかかわってきます。
 背中が丸くなればバランスを取るために膝関節は曲がり、骨盤は前に出ながら後ろに傾いて、転びやすくなります(図3)。もはや格好を気にしている場合ではありません!「転ばぬ先の杖」をつくかシルバーカーを押してください。そして家の中につまずきやすい物はないか、滑りやすい敷物はないかをチェックし、風呂場や廊下、玄関には手すりを設置しましょう。
 なにより、重い物を持ったり草むしりなどの前屈み動作を続けると、想像以上の大きな大きな負荷が背骨にかかるのです。痛みをともなわない脊椎圧迫骨折も 何割かあるので、知らないうちに骨折していたということにもなりかねません。

美しい姿勢へ

図4 腰枕
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 「美人は姿勢がよい。逆もまた真なり」と私はよくいいます。人込みの中でバレリーナや体操選手が歩いていたら目立ちますね。彼らは頭のてっぺんで吊るされたように立っています。
 あの姿勢を意識し、常にそれを保とうと努めることで、たとえ猫背気味の中年の方でも数週間でかなり変身できます。自然に腹筋や背筋が鍛えられるからです。
 座っているときに使っていただきたいのがズボンのベルトの位置に当てる「腰枕」(図4)です。丸めたタオルよりも、直径10センチほどの円柱状のスポンジが使いやすい。
 腰枕をすると腰から首に至る背骨の自然なカーブが保たれます。長距離ドライブでは、腰がずっと楽になるでしょう。
 腰枕は「肩こり」の予防にもなります。猫背で頭が前に突き出ていると、重い頭部を支えるために首から肩、背中にかけての多くの筋肉が収縮し続けなければ なりません。すると筋肉内の血流は滞って乳酸などの疲労物質が溜まり、それがヒスタミンなどの痛みを起こす物質を発生させます。
 というわけで、まず美しく座り、美しく立つように心掛けましょう。大丈夫、「習い性となる」ものです。

肘まる体操

図5 肘まる体操

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図6 僧帽筋
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 肩こりの話が出たので、その特効薬の「肘まる体操」を紹介します。
 東京大学の渡曾公治先生の考案ですが、両方の手で襟をつまんだまま(指先を肩に置いて中心点として)肘の先でできるだけ大きく円を描くように両肩をゆっ くりと動かしましょう。深呼吸に合わせて前から後ろに5回転、逆回しで5回転(図5)。水泳のクロールや背泳のように左右交互に動かしてもいいでしょう。ラジオ体操のようにただ肩を回すよりも肩甲骨がよく動きます。背中の肋骨の上を滑ってゴリゴリ音がします。
 このように肩甲骨を動かすと「肩こりの座」である僧帽筋(図6)などが大いに働き、筋収縮と弛緩を繰り返します。すると筋肉内の静脈血がしぼり出され、疲労物質が洗い流されるというわけです(この作用を筋肉ポンプといいます)。
 マッサージをしてもらうのではなく、自ら運動して痛みを取りましょう!

不通即痛、通即不痛

  四肢の関節軟骨は関節液で栄養が補給されています。ケガや病気で関節を動かさなくなると、関節軟骨に栄養が行き渡らなくなります。さらに関節周囲の筋肉や 靭帯なども動かさないために血流が悪くなって硬くなり、動きが悪くなります(関節拘縮)。使われなければ骨まで萎縮してしまいます。かくして寝たきりにな ると全身が痛くなるわけです。
 鍼灸医学に「不通即痛、通即不痛」という言葉があります。身体を巡っている気血がどこかで滞っていると痛んだり病気になる、全身を気血がくまなく回って いれば健康であるという意味です。気、血といった概念はともかく、深呼吸しながらゆったりした動作で四肢体幹の各関節を動かし、血液と関節液を循環させる 「気功法」の起源は五千年前だそうです。いやはや、先人の経験と洞察には頭が下がります。
 今月はここまで。風邪ひかれんな。

余話(1)

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運動器班会で

 「私は脳の治療をうけている患者さんたちを比べると、性格が明るい人ほど治りやすく、暗い人ほど治りにくいことに気づいていました」
 これは脳死寸前の脳外傷患者を数多く救った脳低温療法で世界的に有名な日本大学の林成之先生の言葉です。(ここから脳科学における仮説が展開されるので すがそれはさておき)運動器の患者さんでも「やまいぐるしい」人は、治療に難渋します。病苦しいとは、富山弁で「ちょっとした病気にも大騒ぎする」といっ た意味です。
 逆に、カラッとして「そんなもん、歳だからどうする。痛いばかりいってどうなる。私は体が動くうちにやりたいことやるちゃ」というような積極的な方は、治療や指導にとてもよく反応します。
 むろん、性格はそう簡単に変えられるものではないし、変えることもないでしょう。また、快活な人でも病気でうつ状態になるものです。
 かつて重症の関節リウマチを患いながらも、いつも笑顔を絶やさなかった御婦人がいました。
 「リウマチとは腐れ縁でねえ。それでも私の人生だし、リウマチに教えられたことも多かったよ」という彼女の言葉が今でも心に残っています。
 唐突に林先生の話を出したのは、先日の班会に林先生の御母堂が来られたからです。卒寿を迎えられてもとてもおしゃれで、彼女の面白い話に一同笑わせられました。
イラスト・石井 勉(絵本作家)

いつでも元気 2008.1 No.195