「生活相談会」から新しい班を結成 地域に民医連のネットワークを 山梨・石和共立健康友の会
半年前に山梨県の小さな街に、友の会の班ができました。新しい班の結成は珍しい話ではありませんが、きっかけは、「医療・介護な んでも相談会」。観光資源を中心に成り立っていた地域経済が低迷し、その余波で国民健康保険料の滞納世帯が飛び抜けて多くなっていた地域です。この現状に 着目した友の会と、地元にある「国保・介護を良くする会」がおこなったものでした。石和共立健康友の会(山梨県笛吹市)を取材しました。
石和共立健康友の会・川中島班の班会にお邪魔しました。公民館に集まったのは一二人、血圧や体脂肪をはかり、秋の健康について石和共立病院の太田昭生医師 が話します。「気候の良い時期は、体力づくりのチャンスです」「筋肉を強くする体操と、筋力をつける体操をやってみましょうか。お風呂でやるのが効果的。 でも、いきまないでね。風呂桶が棺桶になっちゃうからね」
日ごろ抱いていた病気や健康管理への疑問や感想がとびかい、笑いもわく会場。ごく普通の班会風景ですが、この班は半年前に結成されたばかりです。
「国保料滞納世帯が10軒に4軒」
川中島班がある笛吹市石和町は、果樹栽培とともに、温泉で有名な土地です。都心からのアクセスの良さが人気で、大きなホテルや旅館が営業し、にぎわっていましたが、バブル崩壊後お客が減り、シャッター通りが続く閑散とした街になってしまいました。
観光の低迷だけでなく、農業をする人たちの生活も苦しくなっています。冷え込む地域経済の状況が端的にあらわれているのが、国民健康保険料(税)の滞納世 帯の多さ。笛吹市は山梨県の市町村中ワースト四位、資格証明書は発行されていませんが、短期保険証は一二九一世帯に出ています(〇六年度)。
さらに市内の状況を細かくみてみると、川中島地区の滞納率がもっとも悪く、加入世帯の一〇軒に四軒が保険料を長期に支払えていないことがわかりました。
「川中島地区は温泉街なんです。最盛期のころ温泉に職を求めてきた人たちが多く住んでおられて」と、石和共立病院のソーシャルワーカー・丸山太史さん。 滞納率の高いほかの地区にも共通していたのが、温泉街だということでした。
「旅館や飲食店で働いていた人の多くが日雇いでした。年金に加入できなかったため、高齢になった今も、皿洗いや掃除の日払い仕事をし、綱渡りのような生活をしておられます。
生活の悩みをかかえる人たちをキャッチする必要性を痛感して
ンチを 救われた。
温泉街で営業していた居酒屋をたたみ、年金を受ける
段になって、夫の昭三さん(78)の年金が出 ないこ とが
わかったのだ。以前働いていた会社が、昭三さんの給与
から年金分を天引きしながら掛け金を支払っていなかった
ためである。奥さんにガンがみつかるという、たいへんな
時期と重なり苦境に。いまは生活保護を受けら れるよう
になった。
リウマチや肝炎、慢性疾患などの持病をかかえ、働ける状態ではない人も。そういう方たちに国保 の短期証が多いです。役所の国保課に行って、あるだけ保険料の支払いにあてなさい、といわれると、受診した時に支払うお金や、生活費がなくなるでしょう。 生活保護は『水際作戦』で、申請することさえ難しいですし」
丸山さんら病院のSWは、笛吹市の市民団体などでつくる「国保・介護を良くする会」のメンバーでもあります。同会は、短期証の患者さんが受診をがまんし て手遅れで亡くなった事件が起きたことをきっかけに、さまざまな団体が集まってつくりましたが、以降も状況は悪化。
透析を受けているのに短期証しかない患者さんがいました。治療が途切れれば即、命にかかわります。また国保料を払うためにサラ金から借金し、それがもと で多重債務に陥った世帯も出て、〇七年度の市議会で問題になりました。
「僕らが相談に乗れているのは、困ったことを抱えている人たちのほんの一部。相談に乗った人たちの中からは『困っていたが、いままでどこへ相談したらいいか分からなかった』という声をよくきいているんです」
そんな中、国保を良くする会は、最も滞納世帯の多い川中島地域での生活相談会を友の会にもちかけました。この地域には友の会の会員はいましたが、班がなく、会員同士のつながりもありませんでした。
注目された生活相談
二つの目標をもち、生活相談会の準備をすすめました。「国保税の滞納世帯が多い地域で、住民の状態や、国保証のない世帯の病気の実態をつかみ、個別の相談の解決にむけて対応すること」「友の会の班の結成の足がかりをつくること」
相談会のお知らせチラシと、事前に相談を寄せてもらえるよう、医療と医療保険に関するアンケートを、返信用の封筒とともに六〇〇世帯に配りました。さっ そく二五通の返信が。「保険証がないから、ふだんの健康には十分注意している」「会社を辞めて独立したが、国保税が納められず、どうしたものかと考えてい ます」など。連絡可能な方には相談会をまたずに対応しました。
相談会当日は一二人がやってきました。「相談会のチラシが入ったので、もしかしたら助かるかもしれないと思って来た」という人も。国保税が払えず、保険 証がない、という相談でした。何度市役所に相談に行っても、「どうしようもできない」といわれ、「諦めかけていたところだった」と。SWと市議会議員が対 応し、翌日にはさっそく解決のめどがつきました。
また、相談会には参加しなかった会員さんからも「チラシを見たよ」と声がかかりました。これをきっかけに、治療を中断していた患者さんが再び治療にくる ようになったり、ボランティア活動に参加してくれる、といううれしい変化も。
会員とのつながり見直す今後もどんどん新しい班を
情報のキャッチと班づくりと
さらにその後、地域から、世話人をひき受け、班活動の中心になる会員さんも生まれ、六月ついに川中島班結成に至りました。
生活相談会が班づくりへつながった―今回のとりくみは、病院や友の会事務局にとって、あらためて友の会員とのつながりをみなおす機会になりました。
「班ができたことで、会員同士のネットワークや、地域で困り事をかかえている人の情報をキャッチするアンテナが広がります」と、友の会を担当する三枝健 一さん。地域に点在する会員さんが、友の会の活動に参加できるよう働きかけたり、班があっても動きがない地域での班活動の再開をめざしたい、と考えていま す。
また、「国保・介護を良くする会」と協力しながら、国保料の滞納世帯が多い地域で生活相談をし、班のないところに新しい班をつくってゆく、という川中島地域につづく「作戦」は、ひきつづきおこなわれています。
一一月一三日には同じく、班がない地域での医療・介護なんでも相談会を実施。
四〇〇枚のチラシを全戸に配り、その地域に住む友の会員さんに相談会場の手配などの開催準備にもかかわってもらいました。区長は、敬老会の席上で相談会を宣伝してくれました。
当日は一二人が参加、ひとり暮らしの不安を訴える方、健康相談などが寄せられたほか、「今後もこういった集まりを開いてほしい」という声まであがっています。
「ここでも可能性が出てきました。新しい班の結成につなげたいです」と、友の会担当職員の柳場明子さんは話しています。
文・木下直子記者/写真・五味明憲
川中島の大作戦
チラシとアンケート配布、相談会
こんなふうにとりくみました!
お知らせチラシと相談ごとアンケートを配りに、いざ! 出動したのは友の会、石和共立病院職員、「笛吹市国保・介護を良くする会」のメンバーたち。この地区の区長さんにも公民館での相談会開催と、ビラとアン ケートの配布の話をし協力してもらうことができた。これには友の会長と区長さんの日常的な信頼関係があったことも大きかった。
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ビラ配布から10日後、公民館で「医療・介護なんでも相談会」を開く。病院職員7人、国保・介護を良くする会6人で対応。骨密度など8項目を測定する健康チェックも。参加者からは体脂肪と骨密度についての不安が多く出た。
友の会への入会が2人、『元気』購読者も1人増えた。「また開いてほしい」の要望も出た。ほかにも、病院で使う清拭用の布が提供されるなど、地域からの反応が。
(写真提供・石和共立健康友の会)
いつでも元気 2008.1 No.195