特集1 コレ政府!憲法25条が目に入らぬか 日本のすみずみから生存権守るたたかいが
医療や介護にもっと予算を
社会保障制度充実には、消費税率アップしかないような報道が、マスコミを騒がせています。
小泉「構造」改革で社会保障制度はつぎつぎ改悪され、ことし四月には後期高齢者医療制度も実施の予定。保険料は、全国平均八万四二八八円に。厚労省の従来の試算(七万四四〇〇円)を一万円も上回りました。
国民には負担ばかりのしかかってきます。ほんとうに消費税率アップは避けられないのでしょうか。(多田重正記者)
「年をとれば、どうしてもあちこち悪くなる。私は心臓を悪くして、一生病院に通わないといけないのに…」
こう話すのは永長ムツさん(83、函館市在住)です。
きずな健康友の会のミニ・デイ「絆の家」では、後期高齢者医療制度の中止・撤回をもとめ、利用者自身が署名を集めました。ボランティアと利用者で三二五筆(一二月二日現在)になりました。
高木タマノさん(85)も脚の障害を押して、電動三輪車で駆け回って署名を集めました。近所や行きつけの魚屋、八百屋にもお願いし、「お客さんにも署名してもらったよ」と高木さん。
あいつぐ省庁の汚職、官僚の「天下り」にも怒り心頭。「削るところはほかにもあるはず」ときっぱり。
「数年勤めただけで退職金が何千万円ももらえるなんておかしいよ。私の息子は三〇年勤めて、退職金は三〇〇万円だったよ」
あいつぐ病院・科の閉鎖
国民の医療費負担が増やされる一方で、診療科や病院自体がなくなり、「保険料を払っても、近くにかかるところがない」という事態がすすんでいます。
函館市でも市立函館病院が医師不足で、〇六年にはお産ができなくなり、〇七年九月には糖尿病など、三つの内科専門外来の閉鎖が決まりました。
「医師不足は、特定の地域や一部の科だけの問題ではない」と指摘するのは、道南勤労者医療協会の堀口信理事長です。
「函館市は北海道で三番目に大きな都市。しかも市立病院は道南地域全体の基幹病院です。そこで糖尿病など、内科のなかでも中心になる専門科が閉鎖された。明らかに絶対数が不足しているのです」 医療だけではありません。介護報酬があまりに低い介護保険も、介護職の労働条件の悪化を招き、就職希望者が減少。「自立支援法」では、共同作業所で働いている障害者からお金をとる、本末転倒な
現象も生まれました。「消えた年金」問題をきっかけに、年金制度充実を求める声も広がりました。「社会保障を充実させてほしい」が、国民みんなの願いです。
消費税上げずとも財源はある
「消費税17%」の声も
この国民の願いを逆手に取るように消費税率アップの大合唱が。経済財政諮問会議(首相の諮問機 関)では「二〇二五年には消費税一七%に」との試算が提出され、自民党の財政改革研究会は消費税を「社会保障税」に改名し、「二〇一五年に一〇%」にする との報告書をまとめました。一一月二〇日、政府税制調査会も答申に消費税アップを明記し、「消費税は、税制における社会保障財源の中核を担うにふさわし い」とまでいいました。
しかし、消費税はもともと「社会保障のため」と導入されたもの。ところが消費税導入以降、社会保障を悪くしてきた主犯も、自民党などの政府自身です。
その裏で大企業向けには、法人税率の引き下げなど減税がすすめられてきました。法人税率は、八〇年代の四三・二%から、いまや三〇%に。先進諸国と比べても低い水準(図1)。消費税は法人税など大企業向けの減税に使われたというのが真相です(図2)。
日本経団連は、〇八年度税制「改正」提言(九月公表)で法人実効税率(利益に対する実際の課税率。法人税、法人住民税、法人事業税の合計)を約四〇%か ら三〇%にしろと要求。これにこたえるように、政府税調は答申で「法人実効税率のさらなる引き下げが求められている」としました。「消費税は社会保障のた め」は真っ赤なウソです。
図2 消費税額と法人三税の減収額の推移
税収は2004年度まで決算額。05年度は国は補正予算、地方は当初見込み、
06、07年度は当初予算額。法人三税は法人税、法人事業税、法人住民税。
大企業、利益2倍でも税金は同じ
消費税を上げずとも、社会保障制度充実の財源はあります。バブル時代、大企業(資本金一〇億円以上)の経常利益は、一九九〇年の一八兆八〇〇〇億円が ピークでした。これが二〇〇六年には約二倍の三二兆八〇〇〇億円に。しかし負担した税金(法人税、法人住民税、法人事業税、租税公課)は、一三・九兆円か ら一三・七兆円とむしろ減っています。「利益を上げても税金は安くすんでいる」構造こそ改革すべきです。
所得税の累進課税制も見直しが必要。所得税は、最高税率七五%(一九六二年)から、消費税導入時には五〇%に(一九八九年)、いまでは四〇%(二〇〇七年)に引き下げられています。
税金の使い方では、社会保障は低く抑えられる一方で(図3)、飛び抜けて多いのが日本の公共事業費(図4)。小泉内閣の五年間で、国の借金は三六八兆円(二〇〇一年)から五三七兆円(二〇〇五年度末)に急増、一六九兆円も増えました。借金の増え方としては、史上最高のペースです。
地域医師会と社保協が共同
社会保障改悪を食い止めようという怒りと共同が、これまでにない層にも広がっています。
大阪市西淀川区では、医師会が西淀川区社会保障推進協議会の呼びかけに応え、後期高齢者医療制度の署名にとりくむことを理事会で決めました。
全日本民医連は厚労省に社会保障費削減反対の要望書を出すにあたり、全国九〇〇〇の病院にアンケートを発送(〇七年一一月)。その回答にも、「今や医療 は経済に従属し、経済効率の悪いところには医師は不要であるかのような価値観がまかり通っている。実に嘆かわしく思う」(高知)、「国民の健康を守ること によって、国の労働力を確保することも医療機関の使命のひとつ。このまま医療費を削減し続けて、日本の医療が崩壊すれば、日本経済も崩壊していくと思う」 (東京)などの声が寄せられています。
医師不足解消が世論となって、国は医学部定数削減の方針を一部見直し、定数を全国で最大三六五人拡充できるよう措置をとりました。しかし医学部の定数増 は各県や大学まかせで、国の財政援助はありません。全日本民医連ドクターウェーブ推進本部の増田剛事務局長(埼玉協同病院副院長)は、「これでは医師の養 成が追いつかない」といいます。
「日本の医師数は、OECD(経済協力開発機構)加盟国の平均と比べ、一二万人も少ないのです。医学部の定数増のケタをもう一つ上げなければ」
「平和と人権」花開く年に
WHO(世界保健機構)の評価では、日本の健康達成度や平均寿命は世界第一位です。これをささえてきたのは、国民の運動によって実現した国民皆保険制度 や公的健診制度、そしてかつてヒラリー・クリントン(元大統領夫人)が「まるで聖職者だ」と驚いた医療従事者の献身性です。
しかし献身性だけでは限界があります。日本のGDP(国内総生産)に対する医療費の割合は、OECD加盟国で二二位(三〇カ国中)。先進七カ国では最低です(図5)。
「消費税は導入以後、四・七兆円も増税されたのに、法人税や所得税は一八兆円以上も減税されています(図6)。この不公平税制を転換するだけで、医師・看護師を増やし、患者負担も減らせます。医療費支出を、たとえばフランスなみにするには一六兆円あればできますから、本当は財源はあるのです」と全日本民医連の長瀬文雄事務局長。
長瀬さんは、「国家は目先の経済のためにだけあるのではなく、人びとの幸福のためにこそあります。二〇〇八年を『平和と人権』が花開く『もう一つの日本』の実現に向けた第一歩の年にしましょう」と語りました。
イラスト・高村忠範/写真・千葉茂
図5 先進7カ国・医療費の対GDP比(2005年、一部2004年含む)
図6 1990年度と2006年度の主な国税収入の比較
税目 | 1990年度決算(1) | 2006年度政府予算案(2) | 増減((2)-(1)) |
所得税 | 26兆0000億円 | 12兆7880億円 | -13兆2120億円 |
法人税 | 18兆4000億円 | 13兆0580億円 | - 5兆3420億円 |
小計 | 44兆4000億円 | 25兆8460億円 | -18兆5540億円 |
消費税 | (3%)5兆8000億円 | ※(4%)10兆5380億円 | + 4兆7380億円 |
合計 | 50兆2000億円 | 36兆3840億円 | -13兆8160億円 |
※地方消費税(1%)を含めると、5%=13兆1725億円となる。
いつでも元気 2008.1 No.195