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いつでも元気

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後期高齢者医療制度 一部「凍結」は国民だまし 問題だらけの制度はあくまで中止を

負担増え、検査や治療は制限される

 九月の安倍前首相の辞任後、後期高齢者医療制度(来年四月実施予定)の「凍結」を自公がいい出しました。マスコミもようやく制度を報道するようになり、「凍結」報道で「初めて制度を知った」人も。
 一方で「凍結」の言葉だけが先行し、「え? 全部『凍結』じゃないの?」など、負担増がすべて「凍結」されるとか、制度自体がとりやめになったと思っていたなどの声が聞こえ始めています。

「凍結」の後に「自然解凍」が

 一部「凍結」は、「霜程度に過ぎない」と、中央社保協事務局次長の相野谷安孝さん。「凍結」す るのは、(1)七〇~七四歳の医療費原則一割負担から二割負担、(2)被用者保険(サラリーマンの健康保険)の扶養家族約二〇〇万人からの新たな保険料徴 収という二点だけ。扶養家族(被用者保険)以外の後期高齢者からの保険料徴収、保険料滞納者からの保険証取り上げはそのまま実施され、制度の根幹には指一 本触れていません。
 そして「凍結」期間も半年から一年程度が検討されており、その後は「自然解凍」されます。「凍結」後に「解凍」するやり方は、二〇〇〇年の介護保険導入 時とそっくり(保険料徴収を全額「凍結」したが段階的に全額徴収に)。「総選挙を意識した姑息な政治手法」(一〇月六日「北海道新聞」投書欄)と見透かさ れるのも当然、と相野谷さんは指摘します。

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「凍結」では解決しない問題

 後期高齢者医療制度は一部「凍結」では解決しない、重大な問題がいくつもあります。そのひとつ が診療報酬の包括・定額払い。いくら検査や治療が必要でも、医療保険から決まった額しか出ないようにして、医療内容を制限します。全国の市区町村や広域連 合が公報やホームページで“これまで通りの医療が受けられる”と宣伝していますが、まったく根拠がありません。
 ほかにも後期高齢者医療制度には、つぎのような問題があります。
 ▽国民健康保険の保険料の上限は「世帯」で五六万円。しかし後期高齢者医療制度では保険料は個人ごとの徴収となり、一人五〇万円が上限。このため二人と も七五歳以上の夫婦では、保険料が二人で一〇〇万円に跳ね上がる場合も。
 ▽国保加入で、子どもを養っている後期高齢者の場合、親は後期高齢者医療制度へ移され、子どもだけが国保に。子どもは重度障害者でも国保料を徴収される。

世論と運動で制度がゆらぎ始めた

 

平均で保険料8万円以上?

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いまこそ国民の声を大きく
(10月28日、国民大集会=東京)

 そもそも、病気になりやすいとわかっている高齢者だけをひとまとめにすること自体が、「保険」の名に値しません。多数の健康な人がいて、病気やけが、障害などを被った人を支えるからこそ「保険」であり、国や自治体が責任を持つからこそ社会保障です。
 一〇月現在、厚労省が宣伝してきた「年平均七万四四〇〇円」をはるかに上回る保険料試算が各県の広域連合から出つつあります(東京一一万五〇〇〇円、埼 玉九万九四〇〇円など)。一〇月二五日、小池晃参議院議員の追及で、保険料は全国平均で年八万六〇〇円かそれ以上になる見込みが高いことも明らかになりま した(参院厚生労働委員会)。
 このままでは多くの後期高齢者が、これまで以上の保険料を徴収されることは必至です。
 “財源が足りない。国はもっと後期高齢者医療制度にお金を出せ”という意見書も地方から上がっています(ことし九月、東京、埼玉、千葉、神奈川の広域連 合連名)。国が国庫負担を抑制するしわ寄せが、地方と国民に押しつけられています。

政治を動かすチャンスでもある

 一方で「凍結」は、制度の中止を実現するチャンスでもあります。小泉・安倍内閣とつづく構造改革路線のもと、悪政し放題のように見えた政府が、七月の参議院選挙における与党大敗も重なって「『痛み』はもうたくさん」という世論を無視できなくなってきたのです。
 数年前まで話題にもならなかった格差と貧困の解消、医師・看護師増員も世論になりつつあります。「集団自決」を削除した教科書検定問題では沖縄県民集会 で一一万人が集まり、政府を動かし始めました。国民が怒り、動けば世論は変わり、政治も変わります。
 しかし後期高齢者医療制度は、まだまだ国民に知られていません。
 一部「凍結」は問題があると制度設計者自身が認めたようなもの。「凍結」を国民の声を聞いた「譲歩」のように描き、よいことをしているように見せるのは、福田首相の「対話路線」によるトリックです。
 問題があると認めるなら制度を撤回すべき。「制度が始まってしまえば廃止・抜本的改善はたいへんになります」と相野谷さん。制度の中身をいっそう多くの国民に知らせ、実施前に制度を中止させることこそ必要です。
文・多田重正記者

いつでも元気 2007.12 No.194