特集2 子宮筋腫・腺筋症・内膜症 よく相談して納得いく治療を
体温め、適度な運動も大事
子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮内膜症は、婦人科外来ではよく出合うありふれた病気です。しかし、重い月経痛や過多月経(月経血が多い)の原因になり、ひどくなると社会生活にも差し障ります。不妊や流産の原因になることもあります。
原因はよくわかっていませんが、いずれも女性ホルモンに依存した病気で、月経が始まって数年以上経った性成熟期の女性に発症し、閉経後は病巣が小さくなるのが特徴です。
一方、これらの病気があっても、まったく症状のない人もいます。また悪性の病気ではないため、すぐに命にかかわるわけではありません。ですから、医師は 目の前の女性がどんな症状で困っているのか、どんな治療を望んでいるのかに応じて、治療方針を考えることになります。
子宮筋腫・腺筋症とは
子宮筋腫は、図2のように子宮筋層から発生し、ゆっくりと大きくなる良性の腫瘍です。40歳以上の女性の3人~4人に1人の割合であるといわれています。
子宮内腔(子宮の内側)に近い粘膜下筋腫では、1センチぐらいの小さな筋腫でも月経量は多くなります。反対に子宮内腔から離れてできる漿膜下筋腫では5 センチを越す大きさでも月経量は変わらないことがあります。
筋腫が見つかった場合は、筋腫のある場所と大きさ・個数をチェックします。超音波(エコー)検 査の器械を使って、子宮や卵巣の状態などをみます。超音波検査では骨盤内の状態を立体的にとらえづらいこともあるので、必要に応じてMRI検査をおこない ます。MRI検査の利点は、骨盤内の断面を撮影できることです。子宮の前にある膀胱、後ろにある直腸が筋腫で圧迫されていないかどうかもよくわかります。
しかしMRIの装置はどこの病院にもあるわけではなく、追加の検査費用がかかったり、予約の必要があったりします。装置の中に入るため、閉所恐怖症の人 は検査ができないことがあります。電磁波を使っているため、医療機器などの金属が体内に入っている人は検査ができません。
子宮腺筋症は、子宮の内膜にあるはずの細胞が子宮の筋層にできて増殖し、子宮が大きくなる病気です。図3のように部分的に筋層が厚くなる腫瘤形成型、子宮全体が厚くなるびまん型があります。診断は筋腫と同じで、超音波やMRI検査でおこないます。
子宮筋腫・腺筋症の治療
症状がある場合はつぎのような治療をおこないます。
薬物療法
鉄剤 過多月経による貧血に対して鉄剤を内服します。鉄剤を服用すると吐き気などの症状が出る人は、鉄剤注射をおこないます。
痛み止め 月経痛に対しては消炎鎮痛剤の内服薬や坐薬、骨盤内の血流を改善する漢方薬を使います。
偽閉経療法
40代後半となり閉経も近く、「今さら手術は避けたい」と考える人には、女性ホルモンを抑制する薬を使うことがあります。点鼻薬または注射で卵巣機能を低下させ、人工的な閉経状態にします。
偽閉経療法は治療をやめても卵巣機能が戻らず、閉経することを期待しておこなう治療法なので、私は「逃げ込み療法」と呼んでいます。治療開始後、病巣に 流れる血液の量が減り、小さくなっていきます。月経が止まるので貧血も改善します。
ただし急に女性ホルモンが減っていくので、ほてり、動悸、手足の冷え、不眠などの更年期症状が出ることがあります。この場合は薬を減らしたり、女性ホル モン剤を内服して症状を軽快させることができるので、医師と相談してください。
50代でも偽閉経療法後も閉経せず、月経が再開するタフな卵巣機能を持つ人もいます。6カ月続けても月経が止まらない場合、薬の量を少しずつ減らし、さらに半年以上偽閉経療法を続けることもあります。
この治療法は費用が高いという問題もあります。医療保険3割負担の人で、1カ月約1万円かかります。
20代・30代の方でこの治療をする場合は、最長でも6カ月までとします。偽閉経状態を続けると、骨の量が減ってしまうからです。この年代では治療を中 止すると、大半の人ではすぐ月経が再開し、3カ月以内に病巣はもとのサイズに戻ってしまいます。ですからこの年代の人では、偽閉経療法を3カ月以上おこ なって病巣を縮小させ、貧血が改善した後に手術をすることが一般的です。
手術療法
薬だけでは症状が収まらない場合や、薬物療法はもうやめたいという場合は、手術を考えます。
筋腫核出術 子宮を残したい、これから赤ちゃんを産みたいと望む人に対しておこなう手術法です。医師は、指で感じることができる筋腫の部分をすべてとりのぞきます。子宮を残すため、何年か後に子宮筋腫が再び現れることもあります。
この手術はおなかを切る方法が一般的でしたが、最近は腹腔鏡下手術をする施設が増えてきました。おなかの表面に3~4カ所の穴を開け、外からおなかの中 を見る腹腔鏡を入れて手術をします。おなかの表面に残る傷跡は1センチぐらいなので美容的に優れています。術後の痛みが軽いという利点もあります。腹腔鏡 下手術は、筋腫の数や大きさで手術の難易度が大きく変わりますので、希望する人は医師と相談してください。
手術後は、子宮の手術跡が治るまで1年間は妊娠しないようにしてください。またお産方法は帝王切開が安全でしょう。医師に術後のお産方法をどうするか、確認しましょう。
子宮全摘出術 子宮を全部取り出す手術です。子宮がなくなるので月経とさよならです。子宮がん検診も必要ありません。
「あーすっきりした」と思う人もいますが、「もう女性ではなくなるのだ」という気持ちになり、パートナーとのセックスもなくなったという人の話も聞きま す。子宮は妊娠するための臓器ですが、なくなっても女性であることに変わりはありません。私はむしろ「もう避妊の心配はありません、よかったですね」と いってさし上げたいと思っています。
子宮全摘出術は開腹しておこなう開腹式と、膣から手術の器材を入れて取り出す膣式があります。膣式の方が術後の痛みも少なく、おなかに傷跡もできないためお勧めです。私の病院ではできるかぎり膣式をおこなうようにしています。
しかし、安全のため開腹手術をすすめることもあります。▽膣から出産した経験がないため膣が狭い、▽子宮筋腫・腺筋症の病巣が大きく、手術中の出血が多 くなると予想される、▽過去に何度か開腹手術を受けていて膀胱や腸と子宮が癒着していると予想される、などの場合です。
子宮鏡下筋腫切除 子宮の内腔に突き出ている粘膜下筋腫に対しておこなう手術です。図4の ように子宮口から子宮内に内視鏡を挿入し、少しずつ筋腫を削り取ります。筋腫の外側の正常な筋層が薄かったり、あまり突き出ていない筋腫だと子宮に穴が開 くことがあるので、この手術ができるかどうかは厳密に検討します。このタイプの筋腫は過多月経を起こすことが多いのですが、手術後は劇的に月経量が減りま す。入院期間は日帰りから2泊3日程度です。
子宮内膜症とは
子宮内膜症は、子宮内膜が子宮内腔や筋層以外にできる病気です。できやすいのは卵巣、子宮の表 面、子宮と直腸の間の腹膜などです。肺や大腸、尿道、膣にも現れることがあります。生涯の月経回数が多い、つまり妊娠・出産回数が少ない女性に多く、性成 熟期の女性の10%にあるといわれ、少子化の中で増えているともいわれています。月経にあわせて子宮内膜が増殖・剥離をくりかえすため、子宮とまわりの臓 器が癒着することもあります。
内膜症の原因には2つの説があります。ひとつは月経血が卵管からおなかの中に逆流して血液中に子宮内膜の細胞が流れ込み、これが卵巣や子宮、腹膜などに くっついて増殖する説。もうひとつは骨盤内の腹膜が子宮内膜に変化するという説です。
内膜症の主な症状は痛みと不妊です。性交痛、排便痛、排尿痛、慢性的な骨盤疼痛(うずくような痛み)などがあります。10代後半から強い月経痛を起こ し、受験や学校生活にも支障が出る場合があります。不妊症患者の20~50%に、子宮内膜症があるといわれています。
診断はまず内診で子宮や卵巣が圧迫されることによる痛みがないか、子宮の動きが制限されていないかなどを診ます。痛みがあり、子宮の動きが悪いときは内膜症を疑います。
卵巣に内膜症が起きると月経のときのような出血が起きて古い血液が貯まり、卵巣が大きくなります。これは超音波検査でわかります。月経のたびに大きくな り、破裂しては大きくなるということを繰り返します。超音波検査ではっきりわからない場合は、MRIやCT検査(X線で断面を撮影)をおこないます。
また血液を採り、CA125という項目を調べ、これが高値の場合は内膜症が疑われます。確実な診断をつけるには腹腔鏡下で発症している部分を確認して切 除し、顕微鏡検査をおこないます。この検査・治療を兼ねた手術は、主に月経痛があって、不妊の人におこなわれています。
子宮内膜症の治療
次のような治療をおこないます。
薬物療法
痛み止め まず、月経痛に対して消炎鎮痛剤を使います。
偽妊娠療法・偽閉経療法 消炎鎮痛剤を使っても痛みがあり、社会生活に支障があれば、ピルを使った偽妊娠療法または偽閉経療法をおこないます。痛みに対するピルの治療は、長期間続けることができます。閉経まで付き合う内膜症という慢性疾患にはよい治療だと思います。
ピルでもあまり痛みが軽減しない場合は、偽閉経療法を3~4カ月ほどおこなった上でピルの内服につなぎます。
手術療法
手術は子宮を残す保存的手術と、子宮をとる根治術があります。
保存的手術 通常、腹腔鏡でおこないます。病巣を切除・焼却除去し、おなかの中をよく洗います。
不妊症の場合、この手術をおこなった後は妊娠率が上がります。内膜症では病巣を切除しても、月経があるかぎり再度現れることがあります。また病変部分を切除したからといって疼痛が完全になくなるものでもないので、手術が必要かどうかは医師とよく相談して下さい。
根治術 根治術はもう妊娠は希望せず、内膜症ときっぱり縁を切りたいという人におこないます。子宮・卵巣を取り除きます。
最近、40~50代の卵巣内膜症による嚢腫(袋状にふくらむ)に、高い確率で卵巣がんが発生すると指摘されています。特に直径5センチを越すもので多い といわれています。この年代の方で内膜症による卵巣嚢腫が見つかった場合、定期的に超音波などの画像検査が必要です。閉経後も嚢腫が残る場合は手術をすす めます。
症状や希望伝えながら
子宮筋腫、腺筋症、子宮内膜症いずれの病気も、体が冷えないように温めたり適度に運動して、血行をよくすることが大事です。便秘になると骨盤内の血行が悪くなるため食物繊維を多くとるのもよいでしょう。
私が以前担当した40代の子宮筋腫の患者さんがこんなことを話してくれました。
「他の病院で生理を止めましょうといわれて高いお金を払って治療して半年間生理を止めたの。すごく具合が悪かったけれど、『筋腫とさよならできるなら』 と思ってがまんしたの。でも半年過ぎたら、もう治療はできませんって。薬を止めて2カ月過ぎたら生理が戻って、筋腫も元のサイズに戻っているといわれて。 『お金もかけて具合も悪かったのにあの治療は何だったの?』と思って、頭に来て病院変えたのよ」
その先生は「逃げ込み療法」を期待したのだと思いますが、月経が止まらなかったのですね。偽閉経療法について説明すると、患者さんは「そうだったの」 と。「薬治療はもうこりごり」との希望で卵巣は残し、膣式子宮摘出術をおこないました。すっきりした顔で退院されました。
症状や体質、年齢や出産を希望するかどうかで治療法はずいぶんことなります。医師とよくコミュニケーションをとり、症状や希望を伝えながら、納得いく治療を受けましょう。
いつでも元気 2007.11 No.193