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いつでも元気

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強制集団死と沖縄戦を歪曲する教科書検定 沖縄医療生協 仲松庸全

「軍命」削除、なぜ

 太平洋戦争末期、沖縄でおこった県民の「集団自決」。文部科学省は教科書検定で教科書中のこの記述から、日本軍の命令などの表現を削除・修正しました。沖縄戦の体験者・仲松庸全さんの寄稿です。

県内にまきおこる怒り

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泣くのを止めない小2くらいの女の子を、日本軍将校がピストルで頭を撃ち、殺した。銃声とともに少女が崩れ落ちた。軍人の悪魔みたいな恐ろしさを実感し、この連中に逆らうと何をされるかわからないと恐怖を感じた

 沖縄では、教科書から「軍命」を削除した問題を新聞が連日のように書き、県内の全議会が抗議と撤回要求を決議しています。体験者、学者、研究者をはじめ大衆運動が高揚し、「6・9県民大会」で撤回要求決議を採択しました。大会では高校生など若者の参加も目立ちました。
 この大会より先に、基本的人権としての請願権を学んだ東村東中学校の三年生全員の一四人が、村議会に撤回要求決議を求める請願書を提出し、「『集団自 決』は自分で決めたというけれど、子どもや赤ちゃんは本当に自分で決めたのではないと思う」などと訴えたのも心にひびきました。
 敗戦から六二年を経て、戦争体験者が少なくなり、戦争を知らない世代が多くなっています。その虚に乗じるように、或いは戦争を知らない世代を侮るよう に、文科省は、教科書検定で〇八年四月から使用される高校二年生以上の歴史教科書の「自決」強制記述から、日本軍の関与を削除しました。軍関与は、第三次 家永教科書裁判のなかで東京地裁判決(一九八九年一〇月三日)と二審の東京高裁判決(九三年一〇月二〇日)でも認定されている歴史の事実です。

一方の主張が検定の根拠に

 「集団自決」は正確には強制集団死ですが、それは読谷村や慶良間諸島の渡嘉敷島、座間味島、慶留間島など各地で起きています。渡嘉敷島、座間味島で戦隊 長だった赤松嘉次元大尉の遺族や梅沢裕元少佐が〇五年に、岩波書店と大江健三郎氏(大江健三郎『沖縄ノート』と出版元岩波書店)を大阪地裁に「名誉棄損」 で訴え、損害賠償を求めて提訴しました。現在係争中ですが、文科省はこの一方の当事者でしかない原告の「軍命はなかった」とする主張を検定の根拠にしたの です。

軍の強制は事実だった

 これに対し、一六歳の時の渡嘉敷島での体験者である沖縄キリスト教短期大学名誉教授の金城重明さんは「決して自発的な死ではない。軍隊が駐留していた島 でしか起きていない。日本軍の命令、強制、抑圧によって死に追い込まれた」「皇軍(天皇の軍隊)の支配は一木一草に至るまで及んだ。軍の命令以外に住民の 死はあり得なかった」と証言しています。
 米軍の本土進攻を遅らせるための時間稼ぎであった沖縄戦。皇軍は「軍官民共生共死一体化」の箍をはめて、軍の命令は天皇の命令であるとし、疑わしい者や 方言を使う者を非国民、国賊、スパイとして処刑しました。住民虐殺です。
 この「軍官民共生共死」の格子なき牢獄を、沖縄国際大学名誉教授の安仁屋政昭さんは「合囲地境」という軍事用語をあげて軍命の存在した証、と指摘してい ます。そして、「敵ノ合囲若クハ攻撃其ノ他ノ事変ニ際シ警戒スヘキ地方ヲ区画シテ合囲ノ区域ト為ス」「合囲地境内ニ於テハ地方行政事務及司法事務ノ全部管 掌ノ権ヲ其ノ地ノ司令官ニ任スモノトス」という陸軍士官学校の教科書「軍政学教程」を提示しています。
 実際に皇軍は、米軍上陸と前後して、住民を所定の場所に集め手榴弾を配り、約七〇〇人を死に追い込んでいます。家族同士が殺し合う凄惨な地獄になりまし た。皇民化教育、皇軍が喧伝した鬼畜米英の残虐性への恐怖、「生きて虜囚の辱めを受けず(戦陣訓)」など複雑に絡み合う心理状態はあったが、皇軍の命令、 強制、誘導が動かせない基本的な要因であったことは明白です。

悲劇を美談にさせてはならない

 「名誉棄損」を訴える原告らは、住民の「集団死」は「軍命によるものではなく、崇高な犠牲的精神によって死を選択した」と主張しますが、ここに「名誉棄 損」を遙かに超えた重大な意図が現れていることを強く指摘しなくてはなりません。
 それは、この悲劇を殉国美談に創り変えるもので、日本の侵略戦争と皇軍の残虐行為を美化、正当化しようとする「新しい歴史教科書をつくる会」や自由主義 史観研究会など右翼勢力による危険な歴史修正の策動と軌を一にしています。
 時あたかも「戦後レジームからの脱却」を叫び、「美しい国」を標榜して、九条改憲へ暴走する安倍政権。強制集団死と沖縄戦を歪曲する教科書検定は、正に この政権の描くシナリオに沿っており、「従軍慰安婦」や南京大虐殺などとともに歴史の真実を改ざんするものであることは疑う余地がありません。
 沖縄だけでなく、日本の進路を危くする歴史修正、「集団死」の軍命削除、沖縄戦歪曲を絶対に許してはならないと思います。 写真・山本宗補

(なかまつ・ようぜん)一九二七年、首里生まれ。旧制中学・卒業期に沖縄戦を体験。戦後、教員、新聞記者から那覇市議。沖縄人民党常任、立法院議員。日本共産党に合流・県議、県常任。沖縄子どもを守る会事務局長。治安維持法犠牲者国賠同盟県本部会長。新日本歌人協会会員、沖縄医療生協組合員。

いつでも元気 2007.9 No.191