元気スペシャル 「国保料引き下げ」運動が地域を変える
大阪 茨木市 3万筆に迫る署名で引き下げ実現
「国保改善の第一歩です」と左から矢頭さん、石西さん、馬場さん、川本さん、梅田さん、服部さん |
「高すぎて払えない保険料」「滞納者からの国保証取り上げ」など、つらいニュースが多い国民健康保険。でも、保険料の額や減免措置などを決めるのは、市区町村の裁量です。全国各地でとりくまれている多彩な運動によって、住民の切実な声が実を結びつつあります。
滞納者の資産差し押さえ
大阪府茨木市の広報に昨年五月、こんな記事が掲載されました。
「(国保料滞納者には)金融機関の預貯金などの財産調査をおこない、差し押さえを執行しています。指定日までに必ず納めてください」
市民の四割以上が国保に加入している茨木市では、二〇〇三年度まで資格証明書は発行されていませんでした。ところが、〇四年度には八〇五件、翌年度一〇 三七件と急増。さらに、滞納者への資産差し押さえも激増し、府下最高の二一二件に達しました。茨木診療所健康友の会事務局長の矢頭正明さんは語ります。
「三〇〇〇円以下の滞納でも預貯金を差し押さえたり、残高一〇〇〇円しかない口座も差し押さえるなど、見せしめ的なやり方でした。そのうえ保険料限度額 引き上げのおそれも出てきたので、昨年一二月二〇日に茨木民主商工会と健康友の会の両会長の呼びかけで“国保制度をよくする茨木連絡会”を結成したので す」
今年三月の市議会までに、有権者の一割にあたる二万一三〇〇筆の署名を集めるという目標が立てられ、茨木診療所健康友の会で三五〇〇筆を分担することに。
いままでも国保問題で、市に要望書を出してはいました。しかし、大きな運動は未経験。「目標が高すぎる」という声もありましたが、今年一月一六日に健康 友の会が商店街でおこなった「ロングラン署名」がはずみをつけてくれたと、健康友の会の川本健三会長はいいます。
「二三人が参加し、商店街に机を置いて宣伝しました。わずか三時間で四七〇筆の署名が集まり、“やったらできるで”となったんです」
国の制度そのものを変えて
署名集めに参加した会員は、口々にいままでにない反応だったと語ります。
「団地のポストに署名用紙を入れて後日集めに歩くと、留守の七軒も署名した用紙をドアに張りつけてくれていて、一時間で六〇筆以上集まりました」と梅田 育生さん。「署名したら保険料下がるの?と聞かれるので、そうですよ、皆さんが一緒になれば下がるんです、と対話ができました」と服部光孝さん。
診療所としても、澤田佳宏所長の名前を書いた封筒に署名用紙を三枚入れ、患者さんに渡すなど積極的なとりくみ。こうして、実質わずか二カ月ほどの間に、 茨木診療所で三八六七筆、連絡会全体でも目標を大きく上回る二万八九七八筆の署名が集まりました。
連絡会の行動が進んでいるさなかの二月二二日、市は国保運営協議会に保険料値下げ案を提出してきました。引き下げ額は、年間国保料約二四万円の二人所帯(年所得二〇〇万円)で、約一万円。
「保険給付費が下がり財政に余裕ができたから」という名目でしたが、茨木市の国保財政はもともと黒字。この時期に値下げしてきたのは、運動の盛りあがり に押されたからだと、署名集めに参加した会員や職員たちは確信をもっています。
「国保料の値下げは実現したけど、まだ額が小さい。六月には住民税の税率が五%だった人も一〇%に上がり、定率減税も全廃になって市民が苦しむ。次は市 の行政、さらに国の制度そのものを変えていくところまで、この運動を高めていかなあかんと思います」(矢頭さん)
堺市 日本一高い保険料!なぜ?
「せめて払える保険料にして」と署名が広がった(堺市) |
堺市では政令指定都市となった昨年四月、住民税が大幅アップ。国保料も上がったため、六月には説明を求めて市役所に七〇〇〇人の市民が押しかけました。
一般財政は黒字なのに
堺市は財政が黒字なのに、一般会計から国保への繰り入れは、法定分以外はゼロ。そのため、国保料も介護保険料も一五政令指定都市中で最高額になっています。健康友の会みみはら副会長の平山正美さんは語ります。
「二〇〇二年には国保料が一四・九%も引き上げられ、五年後の今年も引き上げられる可能性が強い。これは大変なことになる、保険料引き下げの運動が重要やと急いでとりかかったんですわ」
一月に「住みよい堺市をつくる会」など約三〇団体で「堺市の介護保険料・国民健康保険料引き下げを求める会」を結成。他市との比較がわかるチラシをつく り、三月議会までに全体で一〇万筆、友の会と耳原総合病院などで二万筆を目標に署名集めを始めました。
最も大きい東西支部会員数は三〇一四世帯ですが、エリアが広く署名活動にはこれまであまりとりくめませんでした。しかし、今回の国保料値下げ署名は、市 民の反応が違った、と支部長の馬田敬子さんはいいます。
「近所にチラシを置いてきたら全世帯が翌日署名を届けてくれたり、町内会の役員をされてた方が“チラシ見て腹立って、いま市役所に怒りにいこうと思って た”とか。地域でお年寄りたちがお稽古事をしているところに署名用紙をもっていくと、必ず署名用紙がコピーされて、何枚も子どもを産んで戻ってきて、すぐ に五〇〇を突破しました。友の会ではない地域の他団体の方も六〇〇筆集めてくれて。こんなこと、いままでなかった」
一般会計からの繰り入れが日本一少ない堺市
国民健康保険料平均年額 |
一般会計から国保財政への繰入金 |
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来年は国保料も年金天引きに!
国の制度を変えなあかん
定数2の府議会で当選
わずか二カ月足らずの活動でしたが、三月七日までに集まった署名は総数で五万数千筆。その市民の声に押されるかのように、請願を審議する市議会で異例の事態が起こりました。友の会事務局長の前田貢光さんは語ります。
「結果としては継続審議。四月八日に市議会議員の改選があるので、ふつうならそれで終わりなんですけど、選挙後に元の議員でもう一度議会を開いて審議し 直すとなったんです。いちおう任期は四月いっぱいあるのですが、あまり例のないことやと思います」
請願提出後も署名集めは継続され、七万数千筆にまでなりました。署名活動で「堺市の国保料が高い」事実が市民に浸透し、選挙の大きな争点になりました。 耳原総合病院のある堺区では、国保料の引き下げを訴えた日本共産党の候補が、定数二になった府議会議員選挙で当選。
「国保の問題がいかに切実か知らされました。七月にはまた、国保料や介護保険料の通知もくる。約四〇〇〇件も出されている資格証明書の問題も大きい。引 き続き運動を続けていくことが、私らの使命やと思っています」(平山さん)
友の会では気持ちを新たに、さらに活動を広げていく意気込みです。
文・矢吹紀人/写真・若橋一三
自治体の裁量で国保は改善できる
大阪社会保障推進協議会事務局長・寺内順 子さんの話 一概にはいえませんが、国保料は、貧困世帯の多い自治体ほど高くなる傾向があります。たとえば大阪の守口市や門真市は、大企業が海外に拠点を 移してしまい、そこで働いていた人のうち低所得者層だけが多く残った自治体で、国保料の高さは大阪でもトップクラスです。
一方で、茨木市や堺市のように、財政は裕福なのに高いところもあります。基本的に国保料や減免措置などは自治体の裁量によるものなので、どんどん運動して変えていく必要があります。
来年から六五歳以上世帯の国保料の年金天引きが始まります。そうなったら高齢の人たちはますます大変。国保の実態を多くの住民に知らせて、国や自治体の国保行政を変えるよう、運動を盛り上げていきましょう。
いつでも元気 2007.6 No.188