キューバ発「エネルギー革命」 中南米諸国へ波及
ベネズエラ、ボリビア、ニカラグアも参加
新藤通弘
(ラテンアメリカ現代史研究家)
昨年、ラテンアメリカでは大統領選挙が相次ぎ、チリ、ハイチ、ニカラグア、エクアドルと、対米自立の新政府が誕生した。ブラジル、ベネズエラの革新政府も、一〇月、一二月に信任された。
中南米では三三カ国のうち実に二七カ国が、米国から自立した政策をとっているのである。中南米の連帯は医療、教育のほか、エネルギー分野でも進んでいる。
長時間停電を克服して
キューバ、青年の島の風力発電所 |
長いことキューバ市民を悩ませた長時間停電だが、二〇〇六年度の下半期には、電力不足による停電はなくなった。キューバでは〇六年を、「キューバにおけるエネルギー革命の年」と呼んでいる。
九〇年代の経済危機を外資の導入、観光業の推進、農産物の自由市場の開設などの経済改革でのりこえたキューバは、近年、医療サービス輸出の激増や、ニッ ケル価格の高騰などで外貨収支が好転。〇五年度の経済成長率はGDP換算で一一・八%、〇六年度は一二・五%に達した。そこで政府は、積年の課題「電力問 題」と、とりくみ始めたのである。
やるとなると徹底しておこなうのがキューバ方式だ。地球環境を考慮した自然エネルギー利用計画も組み込み、発電、送電、電力消費のすべてにおいて徹底し て省エネをはかる計画を立てた。そのための投資は年間輸出総額の二〇%、一七億ドル。このエネルギー革命で、毎年一〇億ドル以上を節約できると計算してい る。
省エネ蛍光灯を無料で配布
発電分野ではこれまでの大型発電所システムを変え、省エネタイプの小型の重油発電 機と、緊急用のディーゼル発電機各四〇〇〇台を全国に設置。天然ガス発電も推進され、電力全体の一六%を超える。風力発電基地は全国一〇〇カ所に設置する 予定で、遠隔地の学校や病院七〇〇〇カ所では太陽熱発電がおこなわれている。砂糖キビの絞りかすを利用したバイオマス燃料の利用も増えている。
送電でも、送電線や変電所を整備し、屋外変圧器と、全家庭の旧式ブレーカーのとりかえをおこない、ロスを減らした。
電力消費の分野では、各工場、全家庭に白熱灯の代わりに省エネ蛍光灯を無料で配布した。省エネ蛍光灯の価格は、白熱灯に比べ約一〇倍だが、明るさも寿命 も六倍で、電気代は二〇%ですむといわれ、五年後には全経費がほぼ三分の一以下となる計算だ。
また政府は、各家庭の旧式の冷蔵庫・テレビを回収して省エネタイプの新品を格安で割賦販売し、旧式冷蔵庫のパッキングの交換もした。電気調理器や扇風機など二九〇〇万台も格安で供給している。
過疎地には太陽熱発電を
ニカラグアのオルテガ大統領(中央)の就任式で連帯を表明するボリビアのモラレス大統領(左)と、ベネズエラのチャベス大統領(07年1月10日=提供Reuters/AFLO) |
そして現在、この「エネルギー革命方式」が、ベネズエラ、ボリビア、ニカラグア、カリブ海諸国に広がりつつある。
ベネズエラのチャベス政権は、キューバ政府と技術指導・協力協定を結び、節電経済効果に応じて技術指導料を支払うことにし、昨年一一月から「エネルギー 革命」が始まった。第一段階として今年は家庭用の白熱灯五二〇〇万個を、省エネ蛍光灯と無料で交換している。この交換で毎年二億ドル節約できる計算だ。
また小規模節電発電機の据え付けが進んでおり、全国の電力システム自体、大規模発電から小規模発電に転換する計画だ。天然ガス発電や風力発電にも力を入 れ、過疎地の住民が冷蔵庫やコンピューターを使えるように、二〇〇〇カ所で太陽熱発電所が建設されている。
昨年四月、ボリビアが米州ボリーバル統合対案(ALBA=注)に加盟し、エネルギー革命に参加した。キューバが省エネの経験を教え、ベネズエラは石油開発関係の技術援助などをおこなう。
今年一月にはニカラグアもALBAに加盟し、このエネルギー革命に参加した。
地球環境の保全で協力協同
地球の環境、資源問題は、現在、深刻な危機を迎えている。もっとも責任がある先進資本主義諸国では、弱肉強食をとなえる新自由主義が跋扈し、市場原理優先で国は役割を十分に果たさず、問題を解決する論理が見られない。
一方、新自由主義に鋭く反対する貧しい発展途上国が、協力協同して地球の環境、資源問題にとりくんでいることは注目に値する。またエネルギー革命の眼目 は、国の基幹産業であるエネルギーを、どのように自立的に確保するかにある。
電力部門の再国営化も
チャベス大統領は、再選後、電力や通信部門などは再国営化すると述べていた。二月 八日、ベネズエラ石油公社(PDVSA)が、ベネズエラ最大の民間電力会社カラカス電力の株を、米国企業AESから購入することで合意したことが発表され た。これによりカラカス電力株の八〇%以上がPDVSAの所有となる。AES社は「公正な交渉で投資家の権利は尊重された」と述べている。
ライス国務長官はその前日、米下院で「(国有化によって)ベネズエラ大統領は自国を経済的、政治的に破壊している」と決めつけた。だが米国人で世界銀行 副総裁もつとめ、ノーベル経済学賞受賞者でもあるスティグリッツ氏は「米政府は、民営化がもたらした悲惨な結果をまったく理解していない」と、これに反 論。新自由主義政策は、世界的には、すでに破たんしているのである。
■筆者の近著に『革命のベネズエラ紀行』(新日本出版、一四〇〇円+税)があります。
ALBA=米国主導の米州自由貿易圏(FTAA)に対し、自主的で対等平等のラテンアメリカを目指そうと、04年、キューバとベネズエラが結んだ経済・社会協力協定
いつでも元気 2007.4 No.186
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