出直してよ!障害者自立支援法(中) 障害者に「応益負担」ってどういうこと?
支援でもうけるわけじゃないのに…
2006年10月31日の大フォーラムには、1万5000人が結集した(東京・日比谷=民医連新聞)
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札幌市のNPO法人「精神障害者を支援する会」(礒谷敏雄理事長)では四つのグループホームを運営しています。そのうちの一つ「マザーハウスぽぷら」は女性専用で定員は四人。
スタッフは、ホーム全般の管理にあたる松永由美子さん(世話人)と、食事作りなど生活支援にあたる小田島征代さん(生活支援員)の二人です。
先月、退去した人があり、現在の入居者は三人。毎日、近くの作業所に通い、仲間と一緒に働いています。夕食は「楽しいおしゃべりの時間」。後片づけや洗 濯などもみんなでします。入浴時間や外出時の門限などいくつかある決まりは、「みんなでくらす、みんなの家だから」と入居者が話し合って決めたものです。
いろんな人生がマザーハウスで
「たどってきた道はさまざまです」と世話人の松永さん。
ミキちゃん(30)は一七歳のとき統合失調症で入院。それまで温泉旅館で住み込みで働いていましたが、病状が安定して退院しても元の旅館には戻れず、職と住を同時に失いました。途方にくれていたとき「支援する会」を紹介されました。
イケちゃん(36)は家族もなく、入退院を繰り返しながら市内のアパートで一人暮らしをしていました。しかしいつの間にか昼間はぐったりと眠り、夜になるとコンビニなどに出かけるという昼夜逆転の生活に。ホームへは病院の紹介でした。
シバちゃん(23)は、知的障害者のホームからの紹介です。「ほかに家族はいないので、ここが私の家」といいます。
松永さんは「それぞれがつらい経験をして、ここにきました。みんなが共通に欲しいものは蕫お母さん﨟。だからマザーハウスなんです」と。
「支援する会」の精神保健福祉士・片山和恵さんは「精神障害者は身寄りのない状態になることが多い」といいます。
「治療は長期にわたりますし、入退院が繰り返されます。家族には『障害者がいることを知られたくない』という心理もあり、疎外されがちです。また長い入 院などで、地域社会で生きる能力がつみ取られてしまい、退院しても再入院となることも多いのです。でもグループホームなど、適切な援助があれば、地域のな かで暮らしていけます」
その暮らしを、自立支援法はどう変えたのでしょうか。
利用者が入院しても収入減
「ここが私の家」。マザーハウスぽぷらで
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これまで「マザーハウスぽぷら」は、「精神障害者グループホーム運営事業補助金」 として年間三一八万円を受けていました。自立支援法は診療報酬のような一点一〇円の単価制度を採用。利用者一人につき一日一七一点(一七一〇円)となりま した。月額五万一三〇〇円。定員の四人がいても二〇万五二〇〇円、年間で二四六万二四〇〇円です。
差が大きすぎると、二年間に限り三七点の加算がつくことになりましたが、それでも三〇〇万円に達しません。仮に全額をスタッフ二人の給与としたとして も、一切の手当なしで月一二万五〇〇〇円ほどにしかならないのです。
しかもこれは一年三六五日、定員を満たしていての計算。欠員はもちろん入院の場合でさえ、一日ごとの計算で容赦なく引かれます。「支援する会」の四施設で、収入は二〇%減となりました。
「家族のお荷物」は耐えられない
利用者はといえば、これまでの家賃(三万五〇〇〇円)、水光熱費・共益費(一万五〇〇〇円)、食費(二万円)に加えて、施設利用料と作業所利用料がいる ことに。それぞれ五千余円と九千余円、計一万四〇〇〇円を超える負担増です。
「現在の三人は生活保護と障害者年金で生活していますから、負担はありません。しかし親兄弟がいる場合、本人に収入がなくても負担が生じます。だから ホームを出たり作業所をやめたりせざるをえない人がたくさんいる。障害者本人にとっても、自分がずっと家族のお荷物になるというのは耐えられないことで す」と片山さん。そしてこう力を込めます。
「そもそも、『応益負担』ってどういうことでしょう。障害者が人並みの生活を実現するために社会的支援が必要なのであって、支援によって『益』を受けて いるわけではありません。これまでのように、能力に応じて負担する『応能負担』に戻さなくてはなりません」
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「出直してよ!『障害者自立支援法』10・31大フォーラム」から二カ月後の、昨年一二月二六日、厚労省は自立支援法の「改善策」を提示しました。所得 制限を緩和し負担を軽減するというもの。障害者の声が、国を動かし始めたのです。
文・矢作京介/写真・千葉茂
いつでも元気 2007.3 No.185
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