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いつでも元気

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特集2 潰瘍性大腸炎 腸内細菌に注目した研究すすむ

 特定疾患はずしには道理がない

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寺尾秀一
京都民医連中央病院消化器内科

 潰瘍性大腸炎(以下UC)は、大腸の粘膜に潰瘍やただれができる慢性の腸炎で す。寛解(治癒とは認められないが、症状は落ちついた状態)と再燃(再び炎症や潰瘍がひどくなる)を繰り返します。原因ははっきりしておらず、治療法も確 立していません。このため厚生労働省により特定疾患(難病)に指定され、患者負担が軽減されています。血の混じった便が出たり、下痢・腹痛、発熱をともな う場合もあります。
 UCについては以前、本誌02年11月号で愛知・協立総合病院の高木篤先生がわかりやすく書いておられます。私は最新の治療法や論点になっている点を中心に紹介しましょう。

厚労省のいい分は非科学的

 わが国のUCの患者数は、04年にはついに8万人を越え、8万311人に達しました。高木先生が前回紹介されたときは、7万7073人(02年)でし た。近年はやや増加率が低くなったものの、10万人になるのは間近かもしれません。
 ところが昨年末、厚生労働省がUCとパーキンソン病の特定疾患の適用範囲を縮小すると報道されました。厚労省は特定疾患は患者が「おおむね5万人未満」 のまれな疾患に限るとしています(希少性)。しかしこの希少性の基準には何の科学的根拠もないことが明らかになり、多くの患者の声に動かされて結果的に いったん撤回されましたね。
 ただ、私は厚労省のいう「希少性」の根拠とは別に、厚労省の示した「軽症」患者の切り捨て自体が、非科学的だと思っています。
genki185_03_02 表が重症度の分類です。「軽症」というと「軽い」と思うかもしれませんが、UCの場合、ステロイド(副腎皮質ホルモン)を飲んだり、白血球除去療法という治療法を用いることで、ぎりぎり「軽症」になっている人が少なからずいるのです。
 ステロイドを止めると悪化する場合をステロイド依存型といいますが、使用が長期に及ぶと糖尿病や白内障、成長障害や大腿骨頭壊死など副作用を招き、かな り深刻です。ステロイドで炎症をおさえることができても、命を削って治療しているといっても過言ではありません。
 また白血球除去療法は1クール(週1回のペースで5回)で75万円かかります。特定疾患からはずされたら、3割で25万円の患者負担です。どんな治療法 かは後で述べますが、ある患者は「特定疾患からはずされるなら、白血球除去療法をやめて中等症でいたほうがいいですね」と苦笑いしました。とても笑える話 ではありません。
 このように同じ「軽症」でも患者の実態にはかなり差があります。一律に特定疾患からはずすことがいかに非科学的かがわかると思います。

病気の原因は?
腸内細菌が大きく影響

 「この病気の原因は?」と聞かれれば、従来は「原因ははっきりしていません。免疫の働きの異常や、心理的条件が関係していると考えられます」と答えるのが一般的でした。
 しかしそれだけでは近年の急激な増加は説明できません。たった数年で日本人の遺伝子が変化するとは考えられないからです。
 食生活が原因かと考えてみてもすぐに答えは出ません。○△ヌードル? ○×ハンバーガー? ○△コーラ? 何が悪いのかわかりません。
 食生活のうち、チョコレートや牛肉、コーラ飲料、また乳児期、人工乳で育った場合などもUCに悪影響があると報告されています。いずれも腸内に住む細菌 の集団(腸内細菌叢)を変化させるといわれています。
 善玉菌(ビフィズス菌や乳酸菌などが代表的)を多量に摂取すると寛解が維持できるケースが多いことから、腸内細菌がUCの病状に大きく影響していることは明らかです。

自分にあった食生活を模索

 では、毎日の食生活をどのようにすればいいのでしょうか? UCでは、あまり厳重な食事制限はしないという考え方が主流です。栄養学的な研究がまだまだ乏しいからです。
 私は今述べたようにUCの増加には食環境の変化が大きいとみており、一定の指導をしています。なぜなら「あまり脂肪や刺激物をとらないように」という程 度の話ですませると、患者によっては受け止め方が極端に違うことも知ったからです。
 私がふだん指導しているポイントをあげてみましょう。
■避けるもの
 赤肉(牛・豚・しし・羊など)とその油脂、油の多い食物やジャンクフード、香辛料、刺激の強い飲み物、糖分の多いものは避けます。飲酒はできるだけ控 え、飲んでも下痢しない程度にします。下痢すること自体がUCにとってよくないからです。
■積極的にとった方がよいもの
 タンパク源として魚、脂が少ない鶏肉、大豆製品。繊維質の多い食べ物は重症の場合や血便が強い場合を除き制限せず、むしろ積極的にとるようにします。ゴ ボウ、タケノコ、レンコンなど繊維が硬いものだけ避けます。細切りにしたりゆがいたりして野菜類を多くとります。便量が多くなっても問題ではありません。
 ヨーグルトはオリゴ糖と混ぜて1日200g以上とります。乳製品で下痢が見られる(乳糖不耐症)場合は、他の乳酸菌飲料に変えたり、乳酸菌製剤を処方したりします。
■ゆっくりよく噛んで食べることも大切です。
 食事内容を制限することには異論もあります。「食べたい!」という欲求を抑えすぎてストレスがたまり、かえって病気が悪くなる人もいますので、最後は個々人にあった食生活を模索することになります。

最新の治療方針
ペンタサ注腸は人肌、ゆっくり

 治療薬に関して、図に最新の治療指針を示しました。
 軽症から中等症では、抗炎症剤のペンタサ(5―ASA)やサラゾピリン(SASP)を中心に使います。サラゾピリンから有効成分である5ーASAだけを 取り出したペンタサの方が副作用の頻度が少なく、広く使われています。しかし直腸炎をおこしているUCの場合は、ペンタサでは有効成分が直腸まで届かない ため、サラゾピリンの方が有効です。
 お尻から液状の薬を入れる注腸製剤は、長く続けられるかどうかがポイントです。ペンタサ注腸は効果的ですが使genki185_03_03い勝手がよくありません。注腸製剤の容器に直接とりつけられる管(ネラトンカテーテル)があり、これを使って管を延ばすと、手元で加減しながら注入でき、便利です。
 最初の注入時には人肌に温めてゆっくり、ゆっくりと注入するようにします。冷たい薬液を急にいれると、すぐ体外に出てしまい、効果がありません。これで 「注腸は無理」とやめてしまう人が多いのです。慣れるまで「人肌、ゆっくり」がコツです。

ステロイドは漫然と使わない

 中等症から重症になると、ステロイドを使用せざるを得なくなります。重症の場合にはステロイド大量投与をおこないます。
 従来、ステロイド大量投与で効果が現れない場合には、手術ですぐに大腸を切除していましたが、最近では免疫抑制剤や、白血球除去療法なども選択できるようになりました。
 ステロイドで寛解した場合、ステロイドの減量・中止を計画することが大切です。ステロイドには再燃を予防する効果はないといわれているため、漫然と続けてはいけません。
 うっかりしやすいのは、ステロイドの坐薬や注腸製剤です。図では、BTM坐剤(リンデロン)、PSL注腸(プレドネマ)、BTM注腸(ステロネマ)にあ たり、直腸炎型では従来よく使われました。しかし今ではたとえばペンタサ注腸(図中では5│ASA注腸)がステロイド注腸製剤と同じ効果があるとされてお り、炎症が強い直腸炎型(直腸だけに炎症がある)であっても、最初からステロイドの坐薬や注腸製剤を使う必要性はほとんどありません。それにもかかわら ず、漫然と使われていることが多いのです。
 一日に体内に吸収されるステロイド量は、プレドニン(ステロイド剤の一種)に換算した場合、ステロネマ注腸100ml製剤で約20mg、プレドネマ注腸で7mg前後になります。
 前回の記事で高木先生は、ステロイド総投与量が1万mgを越えたら手術を考えるといっていました。ですから注腸・坐薬も含め、自分が現在まで何mg使ったかをきちんと記録することが必要です。

難治性UCの治療
対症療法は増えているが

■免疫抑制剤
 潰瘍性大腸炎は免疫の働きに異常が起きていることが多いことから、免疫抑制剤が使われることがあります。重症のUCで、ステロイド強力静注療法(大量の ステロイドを数回にわけて静脈注射する)で改善しない場合、最近シクロスポリンという免疫抑制剤の持続静注療法(通常よりも長時間かけておこなう点滴)が 試みられ、約70%の患者で効果があると報告されています。新しいタクロリムスという免疫抑制剤も注目されていますが、健康保険が適応されておらず、一部 の施設で試験的に使用されるにとどまっています。
 免疫抑制剤のうちでもアジザチオプリン(イムラン)もしくは6│MP(ロイケリン)は以前からある薬剤ですが、ステロイド依存例でステロイドを減量・中 止する目的や、あるいは寛解の状態を維持することを目的に、最近広く使われるようになってきました。まれに重篤な白血球減少症がおこる可能性があるため、 とくに投与開始時には数日~1週間目に血液検査を受け、問題がなくてもさらにその後の数週間は毎週血液検査を受ける必要があります。
■白血球除去療法
 白血球は、もともと外からの細菌やウイルスなどから体を守る働きをしています。しかし潰瘍性大腸炎になると、間違って腸を攻撃するようになります。この 白血球をとりのぞくのが白血球除去療法です。白血球の中の、主に顆粒球と単球を除去するGCAPと、白血球細胞全般を除去するLCAP、および主にリンパ 球を除去する遠心分離法が保険適応となっています。
 中等症やステロイドがきかないUC、ステロイド依存型のUCに有効ですが、中長期の寛解維持にどれほど効果があるかとなるとまだ楽観できるデータはあり ません。なおGCAPとLCAPには優劣はないのですが、片方が効かなくてももう一方が有効という場合もあります。
 こうしてみると、対症療法は増えていますが、寛解の維持に決め手がありません。免疫抑制剤のイムランも今後、長期間有効なのかどうかなど観察しなければなりません。

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サイトメガロウイルス感染を合併した重症のUCを内視鏡でのぞいたもの

CMV感染に注意!

 最近、重症化するUCの患者や、ステロイドを使っている難治性の患者の中に は、原因としてサイトメガロウイルス(CMV)というウイルスの感染が関わっていることが判明してきました。写真(16ページ)は当院で、CMV感染を合 併した重症患者の大腸を内視鏡でのぞいたものです。深い大きな潰瘍が見られます。
 CMV感染に特徴的な潰瘍というものはないようで、診断には白血球内のCMV抗原陽性細胞のアンチゲネミア(C7HRP)を調べる方法と、粘膜の組織を 直接取り出して検査にかける方法があります。CMV感染だとわかったら、ただちにガンシクロビル(デノシン)という抗ウイルス剤での治療を併用します。

腸内細菌に注目して
新しい治療法の研究も

 今まで述べたように、UCには腸内細菌が深く関わっていることは明らかです。この点に注目した新しい研究や治療法も模索されています。その一つとして私 も、順天堂大学医学部の大草敏史先生たちと協力して臨床研究をすすめています。大草先生らは腸内細菌、とくにフソバクテリウムを標的とした抗菌剤多剤併用 療法の研究を続けておられました。
 そして05年から全国の14の大学・病院が共同してUC患者210人を対象に、抗菌剤と偽薬を使った比較試験を始めました。
 この結果、抗菌剤3種をあわせて投与された人は、3カ月目で偽薬より症状も、内視鏡検査の結果も改善していたのです。京都民医連中央病院で参加していた だいた人のデータでは、12カ月目の結果が判明していますが、ステロイド依存型の人でも、偽薬の人より抗菌剤3種を投与した人たちの方がステロイドを減 量、あるいは中止することができました(グラフ)。
 試験結果から、抗菌剤を使った治療は従来のような対症療法ではなく、原因そのものを治す治療法になる可能性を秘めていると私たちは考えています。今後も大いに研究をすすめていきたいと考えています。

抗菌剤3剤を使った患者のプレドニン量推移
ほとんどの人でステロイドの 減量に成功した
偽薬を使った患者のプレドニン量推移
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 いつでも元気 2007.3 No.185