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いつでも元気

いつでも元気

出直してよ! 障害者自立支援法(上) 働くのに、なぜお金を払わなきゃならないの!?

精神障害者の共同作業所「HAPPY」では 札幌市

 昨年四月に施行され、一〇月から全面実施となった障害者自立支援法。精神障害者の福祉サービスも、新体系に移行が始まりました。その実情はどうか。札幌市にあるNPO法人「精神障害者を支援する会」が運営する、小規模共同作業所「HAPPY」を訪ねました。

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利用者とスタッフで結成したダリアバンド。ダリアの名は「ダリアの郷」から

 HAPPYの一日は朝一〇時の体操から始まります。一生懸命やるので、一〇分ほどの運動でうっすら汗ばむほど。病院受診などで休む人もいますが、「みんなに会えるのが楽しみなので、休みません」と最年長のSさん(60代)。
 この日は二〇人中一六人が参加。職業指導員の清原啓亨さんが作業分担を説明します。「きょうは新聞郵送の帯封かけがありますので、そちらに五人。あとはいつものトレーにかかりましょう」

利用者が休むと収入減に

 トレーというのは、デコレーションケーキを載せる厚紙の台。打ち抜き部分の穴を開け、四辺を折って、まん中にケーキを固定させるピンを立てます。一枚四円、一〇〇枚の束で四〇〇円の収入。これはもう、手慣れた作業です。
 HAPPYでは一〇月から、就労継続支援B型という事業にトライしました。この事業の対象は「就労経験があるが、年齢や体力の面で雇用されることが困難 となった人」で「一カ月の平均工賃三〇〇〇円以上」が指定基準になります。
 「これまでは、月二〇〇〇円前後だったのですが、働いて社会に結びついていく気持ちの強い人が多いから、仕事も拡大し、がんばろうということで決めたの です」と「精神障害者を支援する会」専務の細川久美子さん。
 就労継続支援B型をとると、「訓練等給付費」が支給されます。一人当たりの一日単価は四六〇〇円。一カ月の給付は、登録利用者数×実施日数ということに なります。二五人の登録者が二〇日間働けば、月二三〇万円。これまで札幌市から出ていた補助金一二〇〇万円(年額)より、多くなるはずです。
 「ところが実際はそうはいきません。精神障害のある人は、どうしても体調に波があるし。利用者が休むとその分、作業所の収入が減るしくみです。毎日、人 数を気にしなくてはならない。しかも月末締めの翌月請求ですから、お金が入ってくるのは二カ月後。共同作業所にはきついですよ」とスタッフの田中敬介さ ん。

「負けないぞ、元気になろう」とバンド結成

福祉に市場原理もちこむ

 でももっと心配なのは、一〇月になって、二人の仲間が作業所にこなくなってしまったこと。
 「作業所で働くのに、利用料がいるようになってしまいました。働くのに、なぜお金を払わなきゃならないんだ、納得できないと。そうですよね」
 利用料は一割負担。訓練等給付費の一割です。つまり作業所に来るたびに、一日四六〇円支払うことに。障害者に、働かせてやるから金を出せ、といわんばか り。こんなに心を傷つけるやり方が福祉といえるのでしょうか。
 その上、工賃を三〇〇〇円以上にしなくてはというプレッシャーがあります。
 「変な話、ぼくらもハッパをかけなくちゃならなくなる。そうなると、仕事のできる人とできない人の間でどうしても差が出てきます。これまでは工賃はプー ルしてみんなで分けていたのが、自分はこんなに仕事してるのに、という気持ちになるわけです。利用料も取られてるのにと。弱い者同士が競争させられる。福 祉に、市場原理が持ち込まれた、という感じです」
 作業所では、隣接している地域生活支援センター「ダリアの郷」の食事作りや食器洗いなど、工賃別立ての仕事も工夫して対応しています。仕事を増やすために、除雪作業も始めました。

ボランティアで働かせて

 作業所に欠かさず通うSさん。二二日で利用料が一万一二〇円になります。収入は月一五万七〇〇〇円の老齢年金のみ。医療費も、これまでは無料だったのが、一割の自己負担がかかるようになりました。利用料を払う余裕はありません。でも作業所は離れたくない。
 悩んだあげく、Sさんは「ボランティアで働かせてほしい」と申し出ました。作業所と仲間たちは、Sさんがやっと見つけた居場所なのです。
 Sさんは両親が戦死し、姉と二人、叔父を頼って夕張に。炭坑が閉山に向かうなか、愛知県でトヨタ関連の会社で働きますが、うつ病になり、姉とも疎遠に なってしまいました。ひとりぼっちで札幌に帰り、市役所に相談。細川さんを紹介されたのです。こうして二年前、HAPPYにたどりつきました。

 「毎日働いて何もないというのは張りがないでしょ。有償ボランティアという考え方にしようということにしました。ほんとに試行錯誤ですよ」と細川さん。 「本人に収入がなくても“応益負担”だといって親兄弟から利用料をとる。ひどい話です。人の心を殺伐とさせる自立支援法は何としても見直しを」と語りま す。
 障害者も作業所も、困難はありますが、「みんなで元気になろう」と利用者とスタッフが昨年四月にバンドを結成。「出直してよ! 自立支援法」とばかり に、クリスマスパーティーで見事なデビューを飾りました。
文・矢作京介/写真・千葉茂

いつでも元気 2007.2 No.184