ベトナム・タイニン省でリハビリ支援 若いスタッフ増え、手応え十分 京都民医連かみの診療所所長 尾崎 望
「ベトナム・タイニンの地域リハ ビリテーションを支援する会」。京都民医連の尾崎望医師ら有志で、二〇〇五年に立ち上げたNPO法人です。枯葉剤の影響調査のため一九九五年からベトナム に通い始め、障害を持った子を助けてほしいという親の思いに直面して、具体的な支援が求められていると痛感。〇二年、タイニン省がおこなう「地域にねざし たリハビリテーション計画」に協力することを決め、継続的な支援を続けるため、「会」を立ち上げました。〇六年も七月三〇日~八月三日の五日間、医学生・ 看学生とともにタイニン省を訪問。そのリポートです。
写真・豆塚猛
「平和村」がタイニン省のリハビリセンターに成長
タイニン省でリハビリ支援をしていこうと決めて五年。この間のベトナム側の一 番の変化は、小児病院だった「平和村」が、成人も含めたタイニン省のリハビリテーションセンターになってきていることです。病床も増え、若いスタッフも増 えました。未来をめざすエネルギーが感じられます。
生活や遊びのなかで訓練
「自分で食べられたよ!」。スプーンの柄を太くするだけで持ちやすくなる |
今回もチャウタン県で、前年とは別の村落に健診に入りました。事前に一八歳未満の子ども全員の検診をさせてほしいとお願いしておき、この村の小児の障害実態をほぼつかむことができました。
受診者は総計一〇三人。うち脳性まひ一七人、ポリオなどの後遺症八人、合わせて二五人、全受診者の四分の一が肢体不自由です。残念なことにほとんどが何 の訓練も受けていません。私たちが支援の中心をリハビリにしたのも、こうした事情からでした。ただ、日本で通用する方法の押しつけではうまくいきません。
責任者の大城春美さん(PT)の判断で、今回は、(1)タイニン省のスタッフの実践をしっかり把握する、(2)日常生活に結びついた訓練や、遊びをとり 入れた指導にも挑戦したい、ということを目標にしました。訓練室だけの訓練、辛く苦しい訓練という視点からの脱皮です。
平和村の医師が母親たちに講義するのを聞いたり、訓練や食事介助などの場面の観察にも、十分に時間をとりました。私たちの提起に、若手スタッフの食らい つきも十分で、手ごたえがありました。スタッフ、家族入りまじってのシーツバレーやボウリングは、母親たちに大受けだったそうです。
妊婦の健康管理で障害予防を
大城PT(中央)の指導に、熱心に聞き入る「平和村」のスタッフたち |
前述のように脳性まひ児が多く、半数は原因不明です。重度寝たきりの兄弟などは、確証はないもののダイオキシン(枯葉剤)の影響ではないかと思います。
残りの半数は、早産や分娩時の対応の遅れによる障害です。森の中に薪を取りにいってそこで出産し、障害を残した子どももいました。妊娠中の健康管理は、障害発生を予防するために重要です。
今回、京都民医連中央病院の助産師の吉田知美さんが参加し、この面での調査をおこないました。その結果、妊婦健診は多くて三回、まったく受けない人もい る、自宅で出産し、難産になるとバイクで病院に連れていく、妊娠中の注意事項などの指導はなく本で知識を得ている、など問題点が浮かび上がってきました。
生活習慣を考慮しなければうまくいきませんが、「母子手帳の作成や活用、妊婦教室などはすぐできるのでは」と吉田さん。対応していきたいと考えています。
障害児の教育の場も視野に
障害を持った子どもたちの教育も保障されていません。人口一〇〇万のタイニン省に、盲・聾学校が一校あるだけでほかに養護学校はありません。障害を持っ た子どもたちが地域の小学校に通うことはできますが、特別な配慮は一切ないので、歩けない子、字が書けない子は、それだけで授業に参加できなくなります。
滋賀県で障害児教育に携わっている東茂子先生は、行政や教育者、また保護者の思いをもっと深く知る必要があると語っていました。
健診の合間のシャボン玉遊びに興味津々の子どもたち。その姿に思わず笑顔になる母親。日本もベトナムも同じです。本当は親たちはみな、この子たちが友だ ちと一緒に楽しく学べる場があればいいと思っているに違いないでしょう。
学生たちが大活躍「子どもたちの笑顔に励まされれて」
初参加の学生の感想
今回の訪問では、未来の民医連をになう学生たちが大活躍。総勢二九人に膨れ上 がった集団をまとめ、言葉の壁の大きいベトナム人スタッフと共同作業をすすめるのはなかなか大変です。その事務局長を佐藤智夫君(近畿高等看護専門学校) が務めました。一部ですが、今回初参加の学生の感想を紹介します。
はだしで地雷探知機を
住田亜耶 近畿高等看護専門学校
「シンチャオ=こんにちは」というと、にっこり笑顔が返ってきました。笑顔はすべての壁を取り払ってくれますね。
懇談会では、手伝いしかできないような私に「私が死んだら障害を持つ子どもの生活が心配だ」「年一度でなく毎月来て」とか、病状について聞かれたり。頼ってもらっているのに力になれないことが多く、歯がゆい思いをしました。
この地域にはまだ地雷が埋まっていて、移動中の車の中から、はだしの子どもが地雷探知機を使っているのを見ました。二一世紀になってもなお存在する現実を目の当たりにして、ショックでした。
もっと多くの人に、この事実を知ってもらいたいと思いました。
夢を考える選択肢が
矢部由臣 近畿高等看護専門学校
遊びを通じて意欲を引き出す。楽しそうな場面んは自然と人が集まって。前列右は塩見OT、左が横山くん ■支援する会のホームページはhttp://www.eonet.ne.jp/~tayninh/ |
何より心に焼きついているのは、タイニンで会った子どもたちの笑顔です。
いく前は何を食べるかばかり考えていましたが、日本に帰ってから思い出すのは、一緒に折り紙をしたり、竹とんぼを作ったりして遊んだ無邪気な子どもたち の笑顔です。そんな子どもたちに一日でも早く、学校へいって勉強したり、友だちと遊んだり、将来の夢を考える選択肢の幅が広げられるような、療育環境が提 供されることを望みます。
そのためのほんの一硺でも、何かの役に立れてば、と思います。
「伝えようとする思い」こそ
横山達也 ソワニエ看護専門学校
車で移動するときに見えるのは牛が畑を耕していたり、子どもがボール遊びをしていたりと、穏やかな農村の風景でした。この地で三〇年前まで激しい戦争をしていたとは…。
ホーチミンの戦争証跡博物館で見た写真は、ショックでした。自分が見てきた風景の中に、銃を持った米兵がいたり、道端に死体が転がっていたり。そこに 写っているのは「戦争」そのものでした。その戦争を乗り越えて発展を続けているベトナム。エネルギーのすごさを感じるとともに、戦争への怒り、平和の尊さ を感じました。今回、言語も平和の大切さも、「伝えようとする思い」が大切だと思いました。貴重な学びをさせてもらったベトナムに感謝しています。
チーム医療の大切さ実感
中島綾花 香川大学医学部
■この間のとりくみが本になりました。文理閣発行、定価1500円+税です。 |
日本とベトナムの医療の違いを自分の目で見たい! そう思い、参加しました。
私が参加したグループは、障害を持つ人の家を訪問し、普段の食事や一日の生活、そして一カ月の家計事情までさまざまなことを聞き取り調査しました。
三日間の活動の中で一番印象に残ったのは、チーム医療の大切さです。私たち日本人スタッフには医師、看護師、作業療法士、助産師、学校の先生、学生と、 さまざまな職種の人がいました。それぞれが自分の専門性を生かして活動していたのです。それも、一人ひとりが個別に活動するのではなく、意思疎通を大事に して毎日報告会をし、自分の専門ではわからないことは、他の職種の人たちに助言を受けていました。
そういうことは学校の実習の中では感じることが少なかったので、大変新鮮でした。私は、患者さんに元気をあげられるような医師になりたいと思っていま す。これからもさまざまなことに興味をもってたくさんの視点を持ちたい。そして、常に何事に対しても問題意識を持ってとりくむ医師に、「人」になりたいです。
いつでも元気 2007.1 No.183