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いつでも元気

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特集1 憲法ってやっぱりすごい! 政治の異常を正すよりどころ 沖縄で、学校で、医療・くらしの現場で

 憲法改悪への動きを強める安倍政権。一方、国民の 側では憲法を守り輝かせようというたたかいが広がっています。沖縄・辺野古の基地建設反対でたたかう大西照雄さん、中学校教員の糀谷陽子さん、生活保護削 減反対の裁判を準備する坂本雄幸さん、全日本民医連会長の肥田さんが話しあいました。

米軍基地で君が代が

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肥田さん
全日本民医連会長。医師
大西照雄さん
ヘリ基地反対協議会代表委員。沖縄・辺野古で基地建設反対の先頭に
糀谷陽子さん
東京都教職員組合八王子支部書記長。八王子市立南大沢中学校教諭
坂本雄幸さん
東京・大田生活と健康を守る会副会長

 肥田 私たち民医連は、命を守ることを仕事にしています。だからこそ簡単に命が奪われることは絶対に許せません。戦争が起きるとき、社会保障の予算が削られるのも歴史の教訓です。憲法九条と二五条はセットだと思います。沖縄の現状はどうですか。
 大西 面白い話をしましょう。毎朝、辺野古の米軍基地・キャンプシュワブでは君が代が流れるんです。
 肥田 米軍基地なのに、君が代を?
 大西 そうです。君が代が終わるとちょうど八時で、米軍の軍事訓 練が始まります。君が代で米軍を鼓舞しているんです。キャンプシュワブには日の丸も揚がっています。米兵が戦死すると半旗(弔意を示して、旗ざおの半分の 位置に旗を掲げる)になります。日本の政治はこういうところでも異常なのです。
 キャンプシュワブは、ベトナム戦争や湾岸戦争でも出兵した基地です。イラク戦争のファルージャでの虐殺も、この基地の海兵隊によるものです。日本は憲法 九条を持ちながら人殺しの基地を置いて、アメリカの人殺しに加担しているのです。
 肥田 「日の丸・君が代」では〇六年九月に強制は違法だとする判決が、東京地裁で出ましたね。
 糀谷 ええ。東京都教育委員会は、卒業式で国旗を舞台正面に掲 げ、国歌は国旗に向かって起立して歌えと通達を出し、従わない教職員を処分しています。これに対して東京地裁は、都教委の通達が思想・良心の自由を定めた 憲法第一九条や、教育への不当な支配を許さない教育基本法第一〇条に反するとしたのです。
 肥田 「日の丸・君が代」は具体的にどのように押しつけられているのですか。
 糀谷 通達が出る前は私たちの学校でも卒業生がベニヤ板九枚分の 絵をつくり、卒業式で舞台正面に飾っていました。卒業生が「○○君は一年生のときは喧嘩ばかりしていたけど成長したね」などと三年間を振り返りながらつ くっていたものです。でもいまでは、舞台正面には、日の丸と、市や都の旗しか掲げてはいけないのです。
「何で僕たちの卒業式なのに、僕たちがつくったものを張ってはいけないの」と子どもたちが校長室に押しかけた中学校もありました。式や教育が子どものため のものでなく、国のためのものに変えられようとしていることがわかります。
 憲法二六条は「ひとしく教育を受ける権利」をうたっています。国民すべてが学ぶ力をもつことによってこそ、「健康で文化的な最低限度の生活」を保障した 二五条や、他の基本的人権も生きてくる。憲法や教育基本法に私たち教師や子どもは守られていることを実感します。
 坂本 そうですね。生活保護では保護費の二〇%にもおよぶ老齢加算が廃止(〇六年全廃)され、ビックリしました。老齢加算もふくめて二五条に定めた最低限度の生活保障だと説明してきたのに、その最低限度を切り下げたのですから。
 加算を削られた人たちは、食事を減らすこともつらいが、それだけじゃない。旅行にも兄弟の冠婚葬祭にも行けない。人としての付き合いができなくなるのが 悲しいといっています。これで、二五条の「健康で文化的な最低限度の生活」が保障されているといえるのかと思います。
 生活と健康を守る会では全国で一六〇〇件の審査請求を各都道府県知事に出していますが、却下されています。そこでいま京都を皮切りに秋田、新潟、広島、 北九州で国や自治体を相手取った裁判をしています。東京でも審査請求をおこない、裁判も準備中です。憲法があるからこそ、私たちもたたかえます。
 高齢者ばかりですから、こう語る人もいます。「自分が生きている間に判決が出るとは思わない。でも国民の生存権を守る裁判なんだから」と。本格的に生存権を守る運動が広がろうとしていますね。

「命が大事」「人間は平等」いまは当たり前だが…
基地撤回では2回も勝った

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やっぱり平和が一番だよね!(2005年5月、ニューヨークで。撮影=廣田憲威)

 肥田 憲法を輝かそうという動きでは、九条の会の広がりもその一つですね。
 大西 辺野古の基地建設反対のたたかいでも、私たちは二回も勝っています。一回目は九七年の名護市民投票で海上ヘリポートはダメだとはっきり示した。日本と沖縄の民主主義と自治が成熟していれば、本当はここで終わりです。
 二回目は、〇四年四月に始まった工事着工前のボーリング調査とのたたかいです。非暴力を柱に、私たちは座り込んで軍民共用空港計画をついに放棄させた。 それなのに米軍と日本は、今度は沿岸を埋め立てて滑走路をつくるという。
 安倍首相は、憲法も教育基本法も変えて「美しい国」をつくるというが、やっていることは醜い。辺野古の大浦湾は世界有数のサンゴの宝庫です。ジュゴンも すんでいます。これを埋め立て美しい自然を破壊するなんて「醜い国」づくりです。日本の政治を、憲法の平和原則にもとづいて正さなければいけません。
 肥田 民医連も青年職員を九回辺野古に送り、沖縄の現状と基地問題を経験するとりくみを重ねてきました。憲法や平和などに関心のなかった人たちが、現場に行って実感することで、「憲法は守ろう」「沖縄に米軍基地があることはおかしい」「美しい海を守れ」と変わっています。
 大西 私たちも激励されていますよ。

見た目良ければいい教育か

 肥田 学校を競争させ、生徒や父母に選ばせるようなこともされていますね。
 糀谷 私の勤める八王子市でも、学校選択制が導入されて三年めになります。だんだん、「選ばれる学校」「選ばれない学校」に分かれていくような気がします。 
 ある小学校の校長先生が、何を基準に中学校を選ぶのか、六年生のお母さんに聞いてみたら、「茶髪やルーズソックスの子がいないこと」「生活指導がきちんとしていること」などが基準だったそうです。
 たとえば私の学校では、髪の毛を茶色に染めてきた子がいたら「どうしたの?」と声をかけて話し込み、その子の成長につなげるチャンスにしています。一 方、「染め直して来なさい」と、すぐに帰してしまう学校もあります。そういう学校は、見た目はいいかもしれないけれど、「本当に子どもの心が育っている の?」と思ってしまいます。見た目だけではわからない“よさ”もあると思います。
 肥田 フィンランドでは、日本の教育基本法に学んで、競争を廃止し、少人数制にしてどの子にもわかるようにととりくんだ結果、学力世界一になったそうですね。でも日本は、その教育基本法を忠実に実践しない。おかしいですね。
 糀谷 安倍首相はいっせい学力テストをして結果を公表し、学校を 選べるようにするといっています。でもこれをやったイギリスでは平均点が発表されるため、平均点を落とす子どもが学校から「追放」されるということが起き ました。そのため八%の子どもたちが義務教育の就学年齢に達しても学校に通えていません。

1枚のビラに命救われ

 肥田 ひどい話ですね。日本ではいま医療の分野でも競争原理が広がり、病院に民間資本がどんどん入っています。しかしアメリカでは、資本家が経営する病院は医療の質が悪いという評価が出ています。お金で患者を差別して、医療内容もお金次第なわけですから。
 坂本 弱い者いじめが、本当に目立ちますね。日本は、高齢者世帯の一七%が税引き前の収入でも一〇〇万円以下です。二〇〇万円以下では四〇%もいます。これで生活できるわけがありません。
 生活保護についていえば、日本は国民の一%が受給者になったと大騒ぎしていますが、国内には五~一〇%の受給対象者がいると想定されています。本当は もっと多くの人が救われなければならないのです。フランスでは一〇%、イギリスでは二〇%が保護を受けているそうです。困難な時期をのりきれれば自立でき る。
 GDP(国内総生産)では日本は世界第二位で、人口で割っても七位ですが、GDPの一七%しか社会保障に出さない。でもフランスはGDPは日本の半分以下なのに社会保障に三四%出しています。
 肥田 日本には低額医療費制度というものがあります。医療費が払 えない人たちを医療機関が診てもいい、そのかわりそういう人たちを全患者の一〇%以上診なさいというものです。しかし厚生労働省は医療費が払えない人たち は少なくなったから、もうこの制度は活用するなとの立場です。私たちは逆に増えていると思います。制度を積極的に活用して、お金がなくて医療機関にかかれ ない人たちに病院・診療所に来てもらうとりくみをつよめようと思います。
 坂本 働きかけがだいじですよね。全国で私たち守る会が配る一枚のビ ラで、命を救われたという例も増えています。東京・大田区でも中国残留孤児で、ほとんど日本語がしゃべれずに商売も失敗した人が私たちに相談に来たんで す。私たちがずいぶん前に配った生活相談会のビラをにぎりしめていました。都営住宅の家賃を一一カ月滞納し、追い出される寸前でした。

「公益」振りかざして人権を制限なんて
憲法を尊重する義務を負うのは

 肥田 みなさんは、どんな点を憲法の大切さとして訴えたいですか。
 糀谷 私たち国民のくらしと命は、憲法によって守られているとい うことです。私は授業で憲法第九九条を子どもと読みました。「憲法尊重擁護の義務」ですね。天皇、国務大臣、国会議員やその他の公務員があげられていま す。ある子が「天皇と先生が横並びだ」といいました。そこで私は聞きました。「何で先生と天皇や大臣が横並びなんだろうね」と。「憲法を守る義務があるの は、国民じゃないのか?」という子どももいました。「じゃあ先生と天皇の共通点は何?」と聞くと、「わかった先生、給料だ。給料を税金でもらってる」と (笑)。
 イギリスやフランスから始まった近代市民革命以降、国は国民みんなが幸せになるためにつくるものだという理解が世界に広がっていきました。だから税金か ら給料をもらっている公務員は、国民みんなの幸せのために働かなければいけない。公務員の憲法尊重擁護の義務とは、そういうことなんですね。
 大西 今の日本国憲法は政治によって悪く解釈されてきましたが、それでも私たちの権利を守り、言論の自由、教育の自由、国民の生存権を守るささえになってきたすばらしい憲法だと思うのです。
 自民党は憲法前文に「公益」という言葉を入れようとしています。「国益」といえないから「公益」。たとえば嘉手納爆音訴訟では国は「公益」のために騒音 は我慢しろといいます。国民の基本的な権利まで制限する憲法改悪は許せません。
 坂本 憲法は国を規制するもので国民をしばるものではない。その憲法を規制される国が変えようといっています。このことがどういう意味を持つのか、問いかけたり話し合う輪を広げたいですね。
 糀谷 いま、子どもたちにこの世で一番大事なものは命だ、人間は 平等だと教えることに反対する先生や保護者はいないでしょう。でも今から六〇年以上前はそういうことを教えれば刑務所につれていかれる時代でした。それが 今は当たり前のこととして共感してもらえる。これが憲法や教育基本法が持つ力でしょう。
 その当たり前の土台が崩されようとしている。でもみんなで話し合っていけば大きな世論を結集できると思います。
 肥田 坂本さんがおっしゃった生活保護削減反対の裁判では、生活 と健康を守る会などが中心になって「生存権裁判を支援する全国連絡会」の結成を呼びかけています。生活保護の切り下げは、最低賃金など国民の生活水準を下 げることにもなります。民医連も連絡会に加わり、生存権を守るたたかいを広げたい。
 日本の政治の異常を正すよりどころは憲法なんだということが、ますます明らかになっています。ともに手をつないでいきましょう。
写真・酒井 猛

いつでも元気 2007.1 No.183