元気スペシャル 北朝鮮の核実験は絶対に許せない! でも「日本は無防備」ってホント? 東アジアの緊張を激化させているのは…
千坂純
日本平和委員会事務局長
10月9日、アジアと世界に衝撃が走った。北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)が核実験をおこなったと宣言したのだ。朝鮮半島の非核化、核開発の放棄という自らの約束にも背くもので、アジアと世界の緊張を高める暴挙である。
10月14日、国連安保理は異例の速さで全会一致の経済制裁決議を採択。北朝鮮の核実験を非難し、核兵器と核開発計画の放棄を要求した。北朝鮮がこの要 求をすみやかに受け入れるよう、国際社会の一致協力が求められている。決議では「外交努力を強め、緊張を激化させる可能性があるいかなる行動も慎み」と、 外交努力による解決を明記している。
米国製とともに日本製のクラスター爆弾も展示されていた。9月10日、青森・三沢基地航空祭で(撮影・久保田弘信) |
異様な“軍事態勢強化熱”
ところが日本政府と与党の動きは、本当にぞっとするものだ。
北朝鮮のミサイル発射実験のとき「金正日に感謝」と口を滑らせた麻生外相は決議を根拠に「周辺事態法」を発動する動きをみせ、自民党中川政調会長は「日 本の核兵器保有について議論は当然あっていい」と核武装にまで言及。
テレビでは連日、「米軍の北朝鮮船舶検査活動(「臨検」)に日本が協力できるようにすべきだ」「自衛隊が攻撃できるようにしろ」という議論が噴き出し、 国民の不安をあおっている。まさに「緊張を激化させる」行動である。
たしかに北朝鮮の、国際ルールや合意を無視した乱暴なふるまいは許せない。しかし一方で、日本ですすむ危険な事態。それは国民に知らされているだろうか。
日本のいくつかの場景を見てみよう。
パトリオット搬送で連夜の大行軍。人気の残る市街地を米軍車両62台が走った。10月3日午前2時6分、那覇市前島(写真提供「沖縄タイムス」) |
クラスター爆弾を堂々と
9月10日に開催された自衛隊の三沢基地航空祭。ここに堂々と展示されていたものがある。クラスター爆弾だ。本誌11月号、森住卓さんのレバノンリポートでも告発されていた残虐兵器。アメリカ製だけではない。日本製もあった!
クラスターとはぶどうの「房」の意味。投下された親爆弾が花びらのように開き、中から200個以上の子爆弾が200×400メートルの範囲に飛散、わず かな衝撃で爆発する。その一帯はまさに「鉄の暴風雨」と化して、そこに存在するものを無差別に殺傷するのだ。
しかも一定の子爆弾が不発弾として地雷化し、戦争終結後も何年にもわたって人々を殺傷し続ける。こうした無差別殺りく兵器だからこそ、赤十字国際委員会 や地雷廃絶運動をすすめるNGO(非政府組織)がその規制を求めている。
そのような兵器を恥じることなく、堂々と展示するとは…。私は、日本平和委員会が防衛庁に対しその廃棄を求めた際のやり取りを思い出す。私たちがその無 差別殺りく性を問いただすと、担当官は表情を変えずにこう述べた。
「それはその地域に砲弾を集中的に撃ち込むのと、結果として変わらない。クラスター弾はそれを効率的にやるだけのものだ」と。無差別殺りくを「効率的にやる」、といってはばからない。
このクラスター爆弾を、航空自衛隊は、少なくとも87年から02年度の16年間で、総額148億円、数千発購入している。どこで使おうとしているのだろう。
三菱重工長崎造船所で建造中の新型イージス艦。日本のイージス艦は6隻になる。ここ第2船台は、戦争中に超大型戦艦「武蔵」を極秘裏に建造した場所。当時は目隠し用に倉庫が並んでいた(写真提供・ながさき平和委員会) |
嘉手納基地にミサイルが
政府がいま声高に推進を叫んでいるのが、「ミサイル防衛体制」強化だ。敵のミサイルが着弾する前に撃ち落とすという構想だが、アメリカでもまだまだ実験段階である(実現すれば、報復の心配なしに先制攻撃できる)。
10月初め、全国に先駆けて沖縄の米軍嘉手納基地に、地対空誘導弾パトリオット(PAC3)が配備された。連日深夜、国道58号線を装備品を積んだ大型 軍用車両数十台が轟音を立てて「大行軍」。11日には機動隊を導入して、反対行動をしていた市民を強制排除し、24基のミサイル本体を嘉手納弾薬庫に搬入 した。
政府は北朝鮮などのミサイルから「県民の生命、財産を防御する目的」と説明しているが、周辺自治体も、沖縄の米軍基地所在市町村長の7割も、この配備に 反対している。なぜか? これが県民を守るためのものではなく、米軍基地を守るための配備だと見抜いているからだ。
うるま市の知念恒男市長は「なぜ沖縄か。そこに基地があるからに他ならない」とズバリ指摘する。伊波洋一宜野湾市長は「米側は沖縄を戦場化する意図を明 確に示した」と語り、北中城村の新垣邦雄村長は「県民を守るなら、基地を撤去すべきだ」と喝破している(沖縄タイムス10月6日付)。
「ミサイル防衛」で国民の命が守れるか?
建造中のイージス艦にも
米軍だけでなく自衛隊も、来年度予算で約2200億円(前年比57%増)もの巨額の予算を投入して「ミサイル防衛」体制整備を急ごうとしている。埼玉・入間基地を手始めに地対空誘導弾パトリオット(PAC3)の配備を開始する。
現在、三菱重工の長崎造船所で建造中の新型イージス艦2隻も、ミサイル防衛対応型である。来年就役予定だが、海上配備型迎撃ミサイル(SM3)の導入を 早め、搭載すると見られる。2隻の建造予算は計2800億円を超す。
沖縄の人々が見抜いているように、「ミサイル防衛」とは、決して日本国民を守るためのものではない。何よりも、「敵」の弾道ミサイルから米軍を守り、米軍 が一方的に先制核攻撃ができる体制をつくるものにほかならない。
Ⅹバンドレーダー。車力基地にあるものと同型が、三沢基地航空祭に展示されていた(撮影・久保田弘信) |
米軍に捜索を制限されて
「ミサイル防衛」の一環として、ことし6月に青森県車力(しゃりき)基地に米軍の「Ⅹバンドレーダー」が配備された。弾道ミサイルを探知するための移動式レーダーだ。配備に伴い、レーダー周辺の半径6キロが飛行制限区域となった。
7月30日夕方、つがる市車力地区の七里長浜海岸で水上バイク遭難事故が発生。しかし捜索ヘリは飛行が制限され、米軍の許可が出たのは深夜から31日朝 10時まで。以後も何度も制限され、数日後、遭難した2人は遺体で発見された。「ミサイル防衛」が、日本国民を守るシステムでないことは明らかだ。
日本政府は、巨額の税金を投入して、この体制にすっぽりと組み込まれる道を歩もうとしているのだ。
防衛庁の予算要求4兆8869億円
大型艦で世界のどこへでも
海軍力はトン数で表す。日本の海上自衛隊の総トン数は43万8000トン。これは 米、露、中、英に次いで世界第5位である。91年の湾岸戦争時には、海上自衛隊の主要艦艇は75隻で総トン数31万9000トンだった。それが05年には 69隻、43万8000トンになった。この15年間で大型化し、世界のどこにでも派兵できる能力を高めたのだ。
「おおすみ」型輸送艦(8900トン)は、人員1000人と90式戦車を輸送し、強襲揚陸舟艇LCACと大型ヘリを搭載。敵地に陸上部隊を上陸させる揚陸艦で、3隻ある。
「ましゅう」型補給艦(1万3500トン)は、武器・弾薬・燃料の大量補給を可能にする。戦前でいえば、1万トン以上は「戦艦」である。これも2隻ある。
米コロナド基地での強襲上陸演習。米軍の指導を受ける自衛隊員(1月)=米軍ホームページから |
昨年11月27日、福井県でおこなわれた国民保護実働訓練。対テロ警備で自衛隊が出動。後には釣り人が…(撮影・町原秀夫) |
日米共同演習で一体化すすむ
日米の共同訓練・演習は、05年度には106回、のべ416日にも達した(防衛庁資料)。前年に比べ、85日も増えている。イラク戦争帰りの米兵が指導する実戦訓練も目立つ。
今国会で成立を狙っている「防衛省」法案では、防衛庁を防衛省に昇格させるだけではない。海外派兵を、自衛隊の「本来任務」に位置づけようとしているのだ。
来年度予算で防衛庁は総額4兆8869億円を要求。海外派兵型の軍拡メニューがずらり並ぶ。ちなみに「先軍国家」北朝鮮の軍事予算は、推定約2000億円(03~04年ミリタリーバランス)だ。
「国民保護」は名ばかりで
いま各地で「国民保護」体制づくりがすすんでいる。自治体・国民を戦争に協力させ る「有事(戦争)法制」の一環で、有事のさいに国民を避難・誘導・救援するという名目だ。しかし、「保護」とは名ばかり。国民に「危機」をあおりながら、 ふだんから国民を戦争体制に組み込み、訓練を通じて「戦争に協力する」国民や自治体をつくるのが狙いである。
ことし9月1日の「防災の日」、首都東京の晴海ふ頭に、海上自衛隊の護衛艦「はたかぜ」とともに米海軍フリゲート艦「ゲイリー」が現われた。首都直下型 地震を想定しておこなった防災訓練に、住民の反対を押し切り、都が在日米軍の参加を要請したのだ。この中で、自衛隊の強襲揚陸訓練もおこなわれた。
「日本は平和国家」か
「軍事同盟というのは“血の同盟”」。これが安倍首相の信条である(『この国を守る決意』)。小泉政権から「継承」した、「世界規模で協力する日米同盟」づくりを、北朝鮮の核実験をとらえて、一気に推進したいというのが、この間の動きといえるだろう。
多くの日本国民は「日本は何もしていない。平和国家だ」と思っている。しかし、米軍と一体化し「血を流し」てアメリカに貢献しようとする日本政府の動きは、近隣諸国や世界から見て、どうだろう。
安倍首相は憲法改悪に固執している。海外で武力行使できるようにしたい・ここにこそ、彼らのねらいがあることを、しっかりと見抜くことが求められていると思うのだ。
■2006年日本平和大会学習パンフレット『どうする?平和へのロードマップ』。いま日米軍事同盟がどこに向かおうとしているか、わかりやすく全体像がつかめるビジュアルパンフレット。実行委員会発行。定価200円。申し込みは03-3451-6377(日本平和委員会) |
いつでも元気 2006.12 No.182