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いつでも元気

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特集2 なぜ起きる? 腰痛 腹筋を鍛えて予防しよう 2本足歩行から腰痛は始まった

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山田恵二郎
京都民医連中央病院整形外科

 腰痛は人類が直立歩行をするようになってから起こりやすくなったといわれています。なぜ腰痛は起きるのか、また腰痛になる代表的な病気などについてお話しましょう。

腰椎は20代から老化

 もともと、ほ乳動物の骨格と筋肉は、4本足歩行に適したつくりになっています。ところが人類の祖先は進化 するなかで、2本足歩行をするようになりました。この過程で、一番変化したのが骨盤の傾きです。変化が急すぎたために、骨盤の傾きは前に約30度傾く形と なってしまいました。傾いた骨盤の上に重い上半身が乗っているという不安定な構造になってしまい、結果的にすぐ上にあって上半身を支えている腰(腰椎)へ の負担が大きくなったのです。
 現在では日本人の平均寿命も飛躍的に伸び、世界有数の長寿国となりました。長寿自体は非常に喜ばしいことなのですが、寿命が延びた結果、寿命よりも先に 体の部品(器官)が傷みだすようになってしまいました。腰部脊柱管狭窄症、腰椎圧迫骨折などは、加齢にともなう病気の代表ですが、年々増えています。
 腰椎は人類のいろいろな器官の中で一番早く老化(変性といいます)が起きるところだといわれています。20代ですでに老化がはじまり、徐々に進行しま す。年をとればとるほど、その変化が大きくなります。変化があれば必ず腰痛を起こすわけではありませんが、腰痛を起こす頻度は高くなるといわれています。
 さらにさまざまな持病、運動過多、逆に運動不足、重いものを急に持ち上げるといった不意な動き、仕事のきつさ、生活の状態、疲れ、ストレスなども腰痛の原因となると考えられています。
 つぎに、腰痛の主な原因を、種類別に説明しましょう。

腰痛の主な原因は

筋肉などの痛み

 若い人から中年にかけて、腰痛の原因として最も多いのが、筋肉からくる痛みです。
 無理がかかりやすい腰ですが、これを支える筋肉にも常に負担がかかっています。仕事で重いものを持ったり、中腰姿勢が続くとさらに負担が増し、負担が限 界を超えると痛みとなって出てきます。
 痛みは徐々に出てくることもありますが、突然激しく起こることもあります。これが世間でいう「ぎっくり腰」です。ぎっくり腰は非常につらいものですが、 たいてい何日か安静にすれば、よくなります。
 しかし現代の労働者は、痛いからといって簡単に休めません。疲労がたまり、負担がかかったままの状態が続くと、慢性的な腰痛になることがあります。腰痛 を治すには労働環境の改善も必要となります。後で述べる予防法も大事です。

老化による痛み

図1 腰椎断面図

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図2 腰椎圧迫骨折

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図3 椎間板ヘルニア(腰椎を輪切りにした図)

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図4 腰部脊柱管狭窄症

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 骨、椎間板、靱帯、関節などの老化による腰痛です。
 腰椎には、筋肉以外にもたくさんの構成物(図1)がありますが、お互いに連結して働いています。これらの構成物は年々、徐々に変形し、機能自体も衰えて いきます。その結果、痛みを起こすようになります。
 変形からくる痛みは急に起こるものもありますが、徐々に起こることが多く、慢性化している場合も少なくありません。また、腰椎の中を通る神経を圧迫する ことも珍しくありません。「腰椎椎間板ヘルニア」「腰部脊柱管狭窄症」がこれにあたり、くわしくは後で述べます。
 こちらも、普段からの予防が大事です。徐々に変形することはある程度仕方がありませんが、体重を適切に保ち、腰への負担を減らすことや、腰を支える筋肉を鍛えることなどが大切です。

骨折、打撲、ねんざ

 打撲、ねんざといったケガによる腰痛もあります。こちらはたいていよくなります。しかし、お年寄りのケガ による腰痛は厄介です。お年寄りはもともと骨が弱っている(骨粗鬆症)ため、骨折を起こしやすくなっています。とくに腰椎の前方部分の骨がつぶれることが 多く、これを圧迫骨折(図2)といいます。転んだり、ひどいときには立ち上がるだけで起こることもあります。
 腰椎圧迫骨折についても、後で述べましょう。

骨の化膿による炎症

 腰の骨にも化膿が起こることがあります。化膿性脊椎炎といいますが、高齢で抵抗力が落ちた人に、まれに起 こります。また糖尿病など化膿しやすい病気を持っている人もなりやすいといわれています。腰痛にくわえて熱が出た場合は、注意が必要です。血液検査もふく めた精密検査が必要となります。
 治療は、抗生剤を中心とした保存的治療法となります。効果がない場合、手術をすることもあります。

腰椎椎間板ヘルニア

 つぎに、代表的な3つの腰痛の病気について、原因と治療法を紹介しましょう。
 腰椎椎間板ヘルニア(次ページ、図3)は若い方にも多いのですが、老化で起こる病気です。20~40代に多く、椎間板の中にある軟らかい部分が後方に飛び出すことで起こります。
 特徴的なことは、どちらか片方のお尻や足に痛み・しびれが出ることです。ヘルニアはたいてい左右どちらかの後方に飛び出しますが、そこにはお尻や脚に行 く神経(神経根)が走っています。この神経を刺激してしまうため、お尻や脚が痛くなるわけです。よく、腰が痛いとすぐに椎間板ヘルニアだと思う人がいます が、脚やお尻の痛み・しびれがない場合、ヘルニアではないことが多いのです。
 また、椎間板ヘルニアは自覚症状をもとに診察し、いくつかの検査をして診断をつけていきます。X線写真によっておおよその見当はつけますが、最終的には MRI(電磁波を使って体の断面を撮影する)などの精密検査が必要となります。
 治療法は、基本的に痛み止め、外用剤、ブロック注射、コルセット、リハビリ、牽引など保存的治療法(手術をしない方法)が中心です。最終的には8~9割 の人がこの保存的治療法で治ってしまいます。
 手術を受ける人は、ごく一部です。効果が少ない場合や、神経の圧迫によるお尻や足の痛み・しびれ、長く歩けないなどの症状が続く場合、手術をするかどう か検討します。2~3カ月間の保存的治療法でよくならない人、脚の動きが急に悪くなった人、おしっこが出にくくなった人が手術となります。
 手術は従来の腰を大きく切開しておこなう方法と、内視鏡と顕微鏡を使った低侵襲法(体の負担の少ない方法)の二つがあります。
 低侵襲法は切開が2センチ程度と小さく、腰の周りの筋肉などをできるだけ傷つけないで手術することが可能です。そのため痛みが少なく、早めの退院、早め の社会復帰が可能となりました。全国的に広がってきている治療法です。

腰部脊柱管狭窄症

 こちらも老化で起こる腰の病気です(図4)。中高年に多く、若い人にはまずみられません。腰にある椎間板、靭帯、関節が老化により変形・肥大し、脊髄などの神経の通り道(脊柱管)全体が狭くなるために起こります。
 腰痛以外にお尻の痛み、足の痛み・しびれや、長い距離を歩くと足が痛くなる(間欠破行といいます)、足に力が入りにくい、おしっこが出にくいなどの症状がみられます。
 診断は椎間板ヘルニアと同じで、MRIが非常に有効です。ただ、神経の通り道が何カ所も狭くなっていることが多く、どれが中心になって症状を起こしてい るか、判断がむずかしい場合があります。
 治療は、やはり保存的治療法が中心です。中でもプロスタグランジン製剤という血液の流れ(血流)をよくする薬が使われることがあります。圧迫があるとこ ろでは神経の血流が悪くなって痛み・しびれが起こると考えられるからです。圧迫の程度の軽い人には効果が高く、普及してきている方法です。
 しかし神経の圧迫を直接取り除く薬などというのは現在のところ、ありません。また、一度よくなっても徐々に悪くなることがあります。とくに圧迫の程度の 強い方は、この傾向があります。その場合は、手術を検討します。
 注意が必要なのは、手術は通常、神経の圧迫を取り除くことが目的で、骨の変形を治すものではないことです。変形自体はそのまま残るので、変形から起こる 腰痛などは治らないことがあります。
 手術は従来の方法に加え、最近では顕微鏡と内視鏡を使ったさまざまな低侵襲手術も出てきました。さらに変形などを矯正するために、金具などを使ったより 大きな手術(腰椎固定術)をおこなうこともあります。しかし手術後も変形は徐々に進むため、また症状が出る場合もあります。術後も定期的な診察、検査など が必要です。

腰椎圧迫骨折

 圧迫骨折(図2)は激しい腰痛を起こすことが特徴ですが、最初はX線写真だけでははっきりわからないこと もあります。なぜかというと、お年寄りの腰椎はもともと変形が強かったり、過去の圧迫骨折があったりして、判断がむずかしいからです。何回かX線写真を 撮ったり、MRIで診断をつけていきます。
 圧迫骨折は、適切な治療とリハビリをおこなえば、たいていの場合、骨折も治って歩けるようになります。骨を強くする注射、内服、コルセットなどが有効で す。痛み止めの薬は骨の付きを悪くすることがあり、慎重に使う必要があります。
 ほとんどの人がよくなる圧迫骨折ですが、腰痛がいつまでも続いたり、足、お尻の痛み、しびれなどの症状がでたり、足に力が入らなくなってきたら、これは 大変です。圧迫骨折が完全に治っていなくて骨が付かない状態になったり、変形して腰の神経などを圧迫していることがあります。この場合は精密検査が必要 で、状態によっては手術となります。

膝を使って負担を軽減

 日常生活では、次の点に注意し腰痛を予防することが大事です。

■立っているとき

 (1)できるだけ同じ姿勢を続けないようにします。できれば低い足台などを使って、片足ずつ交互にのせるようにします。
 (2)できるだけ中腰の姿勢をさけるようにします。中腰にならなければならないときは、ひざをまげて腰を落とすようにします。洗顔時なども、軽く膝を曲 げることで、腰の前屈をなるべく避けるようにします。

■歩いているとき

 (1)重い物を持つときは左右バランスよく、体の近くで持つようにします。荷物の上げ下ろしも、腰をあまり曲げずにひざを使って腰を落とし、荷物を体に引き寄せてから持ち上げるようにします。
 (2)腰痛のある人にはハイヒールはおすすめできません。

■座っているとき

 いすに座るときは背もたれのあるいすに深く腰掛け、長時間同じ姿勢をとらないようにします。時折、ひざを交互に組み換えるようにします。

■寝ているとき

 (1)仰向けに寝るときは、ひざの下に枕などを入れて、足を曲げて寝るようにします。
 (2)ひざを曲げてエビのように丸くなり、横向きに寝るのもよいでしょう。
 (3)うつ伏せ寝は腰に負担がかかるのでやめてください。
 (4)ベッドや敷き布団は、やや固めがお勧めです。

予防に効果的、腰痛体操

 腰の周りの筋肉を鍛えることで腰痛を予防します。とくに重要なのは腹筋です。腹筋は腰の骨から離れているため、近くにある背筋に比べて体をささえる仕事が簡単にできるわけです(シーソーを思い出してください。てこの原理です)。
 ただ腹筋はなまける傾向があり、その結果腹筋が弱ってお腹が出てきます。腹筋が弱ると筋肉のバランスが悪くなり、腰に負担がかかるようになります。
 背筋が硬くなって縮んでしまった場合にもバランスが崩れるため、こちらも防ぐ必要があります。
 腰痛体操の基本は(1)腹筋を強くする、(2)背筋、お尻、太腿の後ろなどの筋肉を柔軟にすることが大事です。腰痛体操を3つだけ紹介します(図5)。
 腰痛症は、非常に一般的な疾患で、生涯に一度はなるものです。保存的治療法でよくなり、手術をすることはほとんどありません。発生の原因、治療法、予防 法などを知ることで、日常生活に役立ててもらえれば幸いです。

図5 腰痛予防の体操

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いつでも元気 2006.11 No.181