人権 “だまってられへん”80歳の生存権裁判 全国初・京都の患者が生活保護・老齢加算廃止に異議
訴訟を起こした松島太郎さん |
生活保護の「老齢加算(生活保護受給者で七〇歳以上か、六八歳以上の病弱者に支給)」が〇四年四月 から段階的に減らされ、ことし三月末に廃止になります。「これは健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を保障した憲法二五条に違反する」と、昨年四月、 京都・大宅診療所の患者、松島松太郎さん(80)が、京都市に取り消しを求める裁判を起こしました。老齢加算減額に対する全国初の訴訟です。
松島さんは、トラックの運転や土木作業などをしていて、七〇歳になるまで社員寮にいましたが、体調が悪く て食事がとれなくなり「お金がなくても診てくれる」と耳にした大宅診療所へ。即入院、一カ月で回復したものの寮は追い出されました。診療所の職員はそんな 松島さんの生活保護の受給申請を援助し、生活と健康を守る会を紹介、身の回りの物を揃えるなどして励ましました。
家具もない部屋で
こうして生活扶助費が出るようになりましたが、以来一〇年間の松島さんの「六畳一間のアパートでの生活」は、家具もない質素なもの。扶助費は〇三年三月の時点で、老齢加算の一万七九三〇円とあわせて九万三七〇〇円でした。
「中古の小さいビデオ付きテレビを買い、映画を録画して何十回もみています。水道光熱費はとことん節約。たまには栄養のつくものを食べたいが、自由に使 えるお金はない。スーパーで食品が安くなるまで時間をつぶして待つ。そこまですることが情けないときも」
「衣類は三年前に買った八〇〇〇円の背広が一張羅。寒い時は一五年前に買った傷物ジャンパーをはおる」
「ただ生きているだけ」では
昨年四月から、支給の二割近くあった老齢加算が減額に。年間一七万円余のマイナス。生活費は月八万円にも なりません。「削られて二カ月、三カ月経つと、どんどん生活が圧迫されて」と松島さん。少しずつ貯めた二、三万円で行っていた小旅行が難しくなったことも つらい。「年寄りは世間さまの顔も見んと、すっこんでろ、というんでしょうか。ただ生きているだけではつらい」
食費は一日七〇〇円、週二~三回はインスタントのラーメンライスという生活。持病のある体にいいはずがありません。
「加算」といいますが、老齢加算があって、最低限度の生活が保障されてきたのです。老齢加算は二五年前に導入され、以後、幾度かの生活保護制度の検討で も必要性が確認されてきました。それが、小泉改革のもと、廃止が強行されたのです。
不服申請が全国で一〇〇〇件
松島さんは生活と健康を守る会の仲間と、二度の不服申請をするも却下。厚労大臣への申請も却下され、提訴へと踏み切りました。
生活保護の支給額は最低賃金や年金、非課税世帯を設定する目安です。支給額カットは国民生活全体に響きます。「裁判には気後れもあったが、黙っていたら どんどん削られる。他の高齢者や庶民の声もいっしょに届けたい。あと何年生きるか分からんが、最後の仕事」という決意です。
同加算対象者は全国で約二九万人。この二年間で、全国で不服申請は延べ一〇〇〇件出され、裁判も秋田や新潟、広島、福岡、そして京都で二人目の、三島義 温さん(76)が立ち上がっています。
「八〇を超えて権利のために立ち上がった患者さんの姿を正面から受け止め、ささえたい」と、京都民医連の中にも支援の輪が広がっています。 (木下直子記者=民医連新聞)
いつでも元気 2006.2 No.172
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