特集1 改悪介護保険法10月から 食費と居住費の全額が自己負担に 介護報酬の削減で施設も悲鳴 特養ホーム入所者は… 施設出る不安に夜も眠れません
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入所者負担はこう変わる!
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六月二二日、自民・公明両党と民主党の賛成で、介護保険法改悪が成立しました。早くも一〇月から、「食費・居住費の全額利用者負担化」と「施設が受け取 る介護報酬の削減」が実施されます。
利用者にとっては大幅な負担増、施設にとっては減収という大問題(表1)。それが、準備期間もほとんどないまま、見切り発車されようとしています。
やっと安心できたのに
長野県松本市近郊の田園地帯にある、社会福祉法人協立福祉会「あずみの里」。六五床の特別養護老人ホームに入所している木村良子さん(74)は、食費・居住費自己負担化のニュースを聞いたとき「不安と怒りがいっしょになって夜も眠れなかった」と語ります。
「私は戦争中から戦後の苦しい時期を生きぬき、ずっと働いてきたんです。ここにお世話になれて、やっと死ぬまで安心できるとほっとしました。それが、負 担額が倍になるかもしれないとか。ここを出たら行くところがないんですよ」
今回の介護報酬改定では、食費だけでおおよそ月額一万八〇〇〇円の負担増となり、さらに、いままでなかった「居住費」が上乗せされます。建設コストや光 熱費から算定するというもので、多床室で月額九六〇〇円、従来型個室で三万四五〇〇円の負担になります。
これらを合計すると、特養ホームに入所している要介護5の人の場合、改定後は多床室で二万七七八〇円の負担増となり月額七万九九五〇円に(表2)。従来 型個室では、五万二二〇円の負担増で月額一〇万二三九〇円になります(表3)。多くの高齢者にとって、年金額を上回る負担となってしまいます。
「一〇年以上前から足腰が痛んで医療も受けなければならないし、本当に切り詰めないとお金が足りなくなりそう…」
木村さんをさらに不安にさせているのは、軽度要介護者は施設に入れず、入所者を減らそうとする厚労省の介護保険改悪政策です。いまは要介護2ですが、施 設を出ろといわれる日がくるのではないかと、不安で夜も眠れないと語ります。
給付削り利用者から取れと
一〇月実施の介護報酬改定の特徴は、「食費・居住費」にあたる費用を現行の介護給付から削ってしまうこと。これで介護保険財政が、年間三〇〇〇億円、軽減されるとしています。
食費でいえば、従来は基本食事サービス費が一日二一二〇円で、うち七八〇円が利用者負担。一三四〇円は保険から出ていました。ところが今回、食費の保険 給付を一部加算を残し大幅にカット。
その上で厚労省は、食費の「基準費用額」を、一日一三八〇円に設定しました。これは低所得者対策(表4)との関係で設定された基準ですが、施設が一般の 利用者負担額を決める目安ともなります。
利用者にとっては大きな負担増ですが、施設にとっては一人一日七四〇円の減収に。居住費についても同様で、利用者には負担増、施設には減収になります。
協立福祉会・塩原秀治事務局長の試算では、あずみの里の老人保健施設(一〇〇床)で年間一一〇〇万円、特養ホーム(六五床)で七一〇万円もの減収になる見込みです。
厚労省は一定の要件を満たせば「特別な室料」「特別な食費」を利用者から徴収できるとしています。しかしこれはいわば病院の「差額ベッド代」の介護施設 版。利用者にすれば、さらに大きな負担を強いられることになる制度です。
お年寄りにとって「最後のとりで」のような施設に、「経営理念」を持ち込もうとしているのが今回の改悪なのです。
介護の質が低下する恐れ
特別養護老人ホームあずみの里の有川美保子施設長は、二〇年前から地域の老人施設で仕事をしてきた経験をふまえてこう語ります。
「介護保険ができる前は、『措置』といって、介護が必要だと認めた人については自治体が責任をもっていたので、私たちが蕫経営﨟を考える必要はありませ んでした。介護保険が導入されて、以前より幅広い人が介護サービスを受けられるようになりましたが、施設は経営に振り回されるようになってしまいました。 今回の改悪で、介護の質が低下してしまうのではないかと恐れています」
介護はマンパワーです。経費の多くを占める人件費を切り詰めざるをえなくなり、「食事だけ」「オムツ交換だけ」が任務のパートヘルパーを多用するような 状況にでもなれば、人間としての介護に責任がもてなくなると有川さんは懸念します。
居住費の二重負担になる
望月良一さん(75)は要介護1ですが、九年前に心不全、心筋梗塞で倒れ、入退院をくり返し、開所直後の二〇〇二年五月からあずみの里に入所しました。
「わたしゃ、ここにいるから体がもってるの。家に帰ったら、とっくにあの世行きだよ。医療費も毎月七八〇〇円ぐらいかかるから、年金で自由になる金はほとんどないですよ」
もともと農家でしたが、子どもたちは独立して妻と二人暮らしになりました。一〇年前に半身付随になった妻もいっしょに入所。入所時に田畑は農協に預けて きたものの、自宅は空家のまま残してあります。有川さんはこういいます。
「施設入所者は家賃などの負担がなく不公平だと厚労省はいいますが、現実には、家督を子どもに譲れないまま固定資産税を払い続けているような人も多い。 まして、老健施設のような在宅に戻ることを前提にした施設なら、帰るところを確保しておかなければならないでしょ。夫婦のどちらかだけが入所という場合も ある。家賃などは払い続けなくてはならないのです。これではホテルコストの二重負担になります。この矛盾に、厚労省はまったく答えていないんですよ」
デイサービスでも負担重く
デイサービスなど通所の食事提供加算三九〇円も、完全に廃止されます。
しかし、そもそも現行の報酬は、「食事を提供する体制の確保」に対し加算されたもの。これを廃止するのは「食事を提供しなくてもよい」という意味であ り、厚労省が提唱している「予防介護」での栄養改善重視の考えと逆行しています。
これまで多くの通所施設では、利用者に食材費だけ負担してもらい、食事を提供してきました。条件があれば負担なしでやりくりしてきたところもあります。
「仮に食材費三〇〇円に三九〇円をそのまま足したら六九〇円。倍の負担になります。コンビニのおにぎりを持っていくとか、利用を控えざるをえないという声も聞かれます」と塩原事務局長。
「厚労省自身、八月末まで全容を示せなかった。施設側でも具体的な金額の算定に手がつけられないままです。利用者への説明も遅れ遅れです。矛盾を解決し ないまま、厚労省が一〇月改定を強行しようとしていることも大きな問題です」
文・矢吹紀人/写真・板津亮
経済的理由でサービス断念する人を出さない
国・自治体への運動と同時にあらゆる資源を活用しきって
厚労省が未解決のまま積み残したいくつもの問題。全日本民医連事務局次長の林泰則さん(介護福祉部)は、施設側と利用者が一体となった運動が求められるとして、次のように提起しています。
「国に対しては、低所得者対策の強化・改善を求めて、働きかけを続けること。来年四月の介護報酬改定も視野に入れ、今度の改定の欠陥を正し、制度の改善を求める運動をすすめましょう。
自治体に対しては、実効性のある独自の減免制度を提案することが必要です。とくに、通所サービスの食費の軽減は重要なテーマです。
こうした運動をすすめつつ、その上で介護報酬から削減される食費・居住費の一定部分を実費として利用者に負担を求めなければなりません。利用者の負担を できるだけ軽くするために、国や自治体の低所得者対策やさまざまな社会資源をもれなく活用しきることが大切です。
利用者一人ひとりの事情や地域の実態を踏まえ、蕫経済的理由で施設入所やサービス利用を断念する人を一人も出さない﨟視点で、共同組織の方がたと相談しながら、対策をすすめましょう」
いつでも元気 2005.10 No.168