特集1 米軍基地の強化ゆるさない 多国籍軍まで指揮する戦争の司令塔を日本に!?
米軍横須賀基地のそばには、自衛艦の姿が |
神奈川県にある横須賀基地。横須賀湾を覆うような基地の姿は、見る者を威圧します。横須賀基地の米艦船全体の指揮艦であるブルーリッジや、米軍の空母のうち、唯一外国に配備しているというキティホークの姿もありました。
湾から基地をみると、星条旗だけでなく、ところどころに日章旗が立っています。米軍横須賀基地には自 衛隊の基地が隣接していますが、両者が明確に分かれていない区画もあるようです。米軍と自衛隊が寄り添う光景に、薄気味悪さを感じました。ここはいった い、どこの国なのかと思わせる光景です。軍事大国アメリカと日本が一体となっているようでした。実際、日米の軍事一体化は、現実のものにされようとしてい ます。
五月一二~一四日に行なわれた全日本民医連第六回平和活動交流集会では神奈川県の基地を見学。同行しました。
米四軍の司令部が勢ぞろい
アメリカはいま、同盟国を巻き込んだ米軍の「変革」(トランスフォーメーション)を掲げています。世界規 模での強化・再編をはかるものです。この構想では、世界のどこへでも即座に米軍が展開できるよう、とくに日本を足場として強化する点が特徴です(右表)。 その中心の一つが、キャンプ座間(神奈川県)にアメリカ本土から陸軍司令部を、一部移転する計画です。
移転されるのは、米陸軍第一軍団司令部(ワシントン州)です。朝鮮戦争(一九五〇~五三)、ベトナム戦争(一九六〇~七五)、湾岸戦争(一九九一)、そ してイラク戦争(二〇〇三~現在)に出動している部隊です。アジア、太平洋からインド洋までを対象とし、最新鋭の装甲戦闘車「ストライカー」の部隊を持っ ています。
ストライカーは他の戦闘車両と比べ車体が軽く、九六時間以内に世界のどこへでも派兵が可能な「殴り込み部隊」。イラク戦争にも投入されています。もし陸 軍司令部が日本にくれば、東京都の横田基地(空軍)、神奈川県の横須賀基地(海軍)、沖縄県のキャンプ瑞慶覧(海兵隊)とあわせて、米四軍の司令部がすべ て日本にそろうことになります。
さらに重大なことは、第一軍団司令部が、「変革された陸軍司令部」(UEX)として改編されること。UEXは世界に一八カ所配置される予定で、戦時には 最大二万人近い兵力を動員します。陸軍だけでなく他の米軍部隊、さらには多国籍軍まで指揮できる戦争の司令塔です。UEXが日本に誕生すれば「中国への抑 止力にもなる」(在日米陸軍司令官パーキンス少将)ともいいます。活動範囲は極東にとどまらないといわれており、日本が世界の脅威となり、軍事攻撃やテロ の標的にされる危険がいっそう高まります。
地位協定・約束に違反して
座間にUEXを設置するほか、米軍は二〇〇八年にはキティホークに代えて、より大型で最新鋭の原子力空母を配備することを計画しています。このため米軍は住宅の確保を要求、ねらわれているのが神奈川県の池子の森です。七〇〇戸の住宅を増設するといいます。
日米協議では住宅増設と引き替えに、横浜市内の使わなくなった上瀬谷・深谷、富岡と、米軍住宅四〇〇戸がある根岸の四基地を返還するとしています。しか しこれは協定違反。使わなくなった基地は「いつでも日本国に返還しなければならない」(日米地位協定、第二条三項)と決められています。
また、池子の森は横浜市・逗子市にまたがっていますが、現在住宅が建っているのは逗子市側。増設するのは横浜市側ですが、池子の森に米軍住宅を建設する 際、追加施設をこの森にはつくらないと、国と県・逗子市の三者で合意(一九九四年)しています。日本政府が増設を約束したことは、合意に反します。
米軍と自衛隊「ともに出兵し、くらす」と
世界平和にとって日本が脅威に
池子の森を壊して建てた米軍住宅(大貫憲夫横浜市議提供) |
天然記念物すむ森を破壊
池子の森には天然記念物で絶滅危惧種のオジロワシや、日米渡り鳥条約などで保護対象とされているキビタキ やカシラダカなどが目撃されています。多くは横浜市側で目撃され、逗子市側から他の鳥類なども移動している可能性があります。「建設は横浜市側だから、逗 子市には関係ない」ですむ話ではありません。
また、返還するという上瀬谷基地は、一部だけです。上瀬谷基地には米軍住宅六〇〇戸を建設する計画が策定されたことがあります。米軍が、残る地域に住宅 を建設しろと要求しても、何の不思議もありません。
さらに、米軍厚木基地と取引のある、キャンプ座間近くの不動産業者が、昨年から今年にかけて、数回、米軍に呼び集められています。米軍は会合で「住宅が 必要。多ければ多いほどいい」と話し、四〇〇~六〇〇戸の確保を求めたといいます。現在、米軍は「司令部移転の話とは関係ない」「住居環境を調査した」と 強弁していますが、司令部移転と関係が深いと見る方が自然です。
改憲自体が米国の要求で
米太平洋海兵隊司令官のグレグソン中将は、トランスフォーメーションによって、米軍と自衛隊の「基地の共 同使用を検討すべき」で、「ともに訓練し、出兵し、くらすようになる」とまで語っています。航空自衛隊総隊司令部の米軍横田基地移転や、沖縄海兵隊の一部 を矢臼別演習場と陸上自衛隊富士演習場に隣接する米海兵隊キャンプ富士に移す計画も、日米の軍事一体化のひとつです。
憲法第九条(戦争放棄)があるため日本政府は「自衛隊の海外派遣は戦争行為ではない」「自衛隊は軍隊ではない」といい訳していますが、日本に戦争の司令 塔がおかれ、米軍と自衛隊が寝食までともにする関係になれば、そんな余地はなくなります。
「いまの憲法はアメリカの押しつけ憲法。だから自主的な憲法を制定するんだ」という主張が声高に叫ばれていますが、九条をはじめとする憲法改悪自体が、 アメリカの要求です。アーミテージ米国務副長官(当時)は二〇〇四年、自民党に「憲法九条は日米同盟関係の妨げの一つになっている」と改憲をせまっていま す。
戦前の恐怖がアジアと世界に
米軍はイラクで、ファルージャの「掃討作戦」に代表されるように民間人を虐殺。病院や、避難するイラク国民まで攻撃しています。このまま日本がアメリカに従えば、自衛隊が他国の国民を虐殺することになり、戦前の恐怖がアジアと世界に蘇ることになります。
また、イラクでは湾岸戦争時から劣化ウラン弾が使用され、放射線によると見られる健康被害が米兵に発生していますが、このことも自衛隊員にとって他人事ではありません。
「国際貢献」といえば自衛隊派遣を持ち出す日本。侵略戦争を反省していない日本政府に真の国際貢献などできるはずがありません。美辞麗句の裏に隠された 危険な動きを見過ごしてはなりません。
文・多田重正記者/写真・五味明憲
いつでも元気 2005.8 No.166