特集2 子どものアレルギー 一人ひとりの原因を見極める 適切な対処で乗り切りましょう
アレルギーやアトピー(性疾患)は、いまや決して珍しい病気ではなくなっています(表1)。厚生労働省の調査では、子どもたちの約3割に何らかのアレルギーがあります。
その一方、さまざまな意見が飛び交って、どう対応したらいいかわからないという声もよく聞きます。
しかし一人ひとりの原因を見極め、適切に対処することによって、本人も家族も保育園も大半がうまく乗り切ることができるのでは…というのが30年近く小 児科医として診察してきた私の実感です。
アレルギーとは?
外敵から体を守ろうとして
私たち人間には、本来、細菌やウィルスなどの有害な外敵から体を守るしくみがあります。自分にないもの(異物)は外敵として排除しようとするしくみで、免疫反応とよばれるものです。
一度はしかにかかった子どもは、二度とはしかにかかりません。それは、体がはしかウィルスを記憶してウィルスに対する「抗体」をつくり、二度目に侵入し てきたときには、抗体がはしかウィルスにくっつき、体の外に出してしまうからです。
このように免疫反応は本来自分の体にとって有利に働くものですが、異物を排除しようとして人体に有害な反応をひきおこしてしまうことがあります。これを アレルギー反応とよんでいます。小児科で経験するアレルギーの病気の主なものは、次のようなものです。
◇皮膚…アトピー性皮膚炎・じんましん、◇呼吸器…気管支ぜんそく、◇眼・鼻…アレルギー性鼻炎・結膜炎、◇くちびる…oral allergy syndrome(口腔アレルギー症候群)
アトピー性疾患
原因物質にふれ、すぐ反応
数が多く、一番問題となっているのが、じんましん・気管支ぜんそく・アレルギー性鼻炎などで、アトピー性疾患ともよばれます。特徴は、原因となるものに接触すると、すぐに反応がおきることです。
例えば、猫アレルギーの場合、猫を抱くとすぐに体がかゆくなったり、毛がふれたところが蚊に刺されたようにぶつぶつと膨れたり(じんましん)、咳き込ん でぜーぜーいったり(気管支ぜんそく発作)します。
ひどい場合、例えば卵を食べた直後から、もどして、顔色が真っ青になり、血圧まで下がって、ショック状態(アナフィラキシーショック)になります。
こうした反応がおきるメカニズムの中心となっているのがIgEと呼ばれる抗体(免疫グロブリンE)です。反応する相手(原因物質)は決まっていて、血液 の中にあるIgE抗体の種類を調べると何に対する抗体かがわかり、何に対してアレルギーをおこす可能性が高いかわかります。
たとえばスギ花粉に対するIgE抗体がある人だと、その抗体が鼻や目の粘膜にあるマスト細胞にくっついてスギ花粉に対する見張り役をしています。そこへ スギ花粉がくると抗体と反応して、マスト細胞からヒスタミンなどの化学物質が飛び出してきます。このヒスタミンには「かゆみをおこす」「血管の壁をもろく する」などの作用があり、くしゃみ・カユミ・鼻づまりがおこるのです。
これがスギ花粉症で、毎年2~5月、スギ花粉が飛ぶころに、くしゃみ・鼻水・鼻づまりに悩まされることになるわけです。
食物アレルギー
乳児期に多く3歳までには
アレルギーをおこす原因物質(アレルゲン)は、年齢によって変化します。乳児期は消化吸収能力が低いため食物アレルギーをおこしやすく、湿疹やじんまし ん、アトピー性皮膚炎が出やすいのです。2歳くらいになると行動範囲も広がり、ダニや花粉に反応して、ぜんそくやアレルギー性鼻炎がおきやすくなります。
こうした変化を「アレルギーマーチ(行進)」といいます。
食物アレルギーの原因となる食物は、乳児期では圧倒的に鶏卵が多く、卵・牛乳・小麦・大豆・米・その他の順になります。いままで、3大原因物質といえ ば、卵・牛乳・大豆でしたが、最近は小麦が3位にあがっているのが各種調査の傾向です。
それ以外の野菜・穀類では、そばが多く、また、ゴマ、ピーナッツ、じゃがいも、かぼちゃ、にんじんなどのアレルギーも増えています。
食物アレルギーのなかには、アナフィラキシーショックをおこすものもあり、アメリカでは、ピーナッツアレルギーが日本のそばアレルギーと同様に重篤な症状をきたすことで注目されています(表3)。
その一方で食物アレルギーは、食べてすぐにおきるだけでなく、数時間後や2~3日後に炎症反応をひきおこしたりアトピー性皮膚炎をひきおこしたりすることも、だんだんわかってきました。
アトピー性皮膚炎
乳児期にしっかり対応して
アトピー性皮膚炎とは、もともとアトピー性疾患に合併する皮膚炎のことをいいました。慢性の皮膚炎で、家族にアレルギーの人がいたり、IgEの値が高 かったりした場合、アトピー性皮膚炎と診断します。
アトピー性皮膚炎の悪化要因は、図1のようにさまざまですが、乳児期に限っていうと、前述のように食物が重要な原因です。
年齢が高くなるにしたがって接触性アレルギー、ダニ・花粉・ペットの毛、化学物質など多岐にわたり、複雑になります。
しかし、乳児の食物アレルギーの80%が鶏卵単独のアレルギーで、その60%以上は3歳までに治ります。
したがって、原因が単純な乳児期のうちに、しっかり対応することが大切です。消化吸収が未熟な乳幼児期は、原因食物をきっちり除去(症状が出ないレベル でよい)することが経過をよくするポイントです。
年長児では、ペットや、虫歯の治療に用いられる歯科金属などが原因になることも多く、注意が必要です。
これさえ飲めばよくなるというようなエセ健康食品がたくさん出回っていますが、だまされないようにしてください。
気管支ぜんそく
小児ではダニが重要な原因
気管支ぜんそくは、空気の通る管である気管支がさまざまな原因で収縮することによって発作がおきる病気です。慢性化すると、気管支がいつも炎症をおこし変化してきます。
小児気管支ぜんそくの特徴は、ダニアレルギーの比率が高いこと、かぜなどの感染によって誘発されやすいことと、成長にともなって自然に治る率が高いことです。
したがって発作をおこしてしまったら、(1)小発作(呼吸困難がなく、日常生活の支障がない)…自宅でようすをみる、(2)中発作(軽い呼吸困難と日常 生活の支障がある)…薬をのませて、よくならなければ病院へ、(3)大発作(呼吸困難が強く座り込んで動けない)…病院へ、という対応をしますが、家庭で の日常生活上の注意(表4)が大切です。
最近、猫をたくさん飼うとアレルギーになりにくいという報道もありますが、少なくとも私の経験では、まったく逆の結果になっています。
花 粉 症
アレルギー性鼻炎・結膜炎
スギ花粉症(スギ花粉によるアレルギー性鼻炎・結膜炎)は、従来、発症は4~5歳以降だったのが、最近はもっと低年齢でも発症するケースが増えてきてい ます。
予防はスギ花粉を避ける(マスクをつける)ことですが、これはなかなか大変です。そこで、予防兼治療として抗アレルギー薬や抗ヒスタミン薬を服用した り、点眼・点鼻をしたりします。最近の薬はよく効くので、これらの薬を花粉の飛ぶ時期にあわせて服用します。漢方薬(麻黄附子細辛湯、小青竜湯など)も有 効です。
最近注目されているのは、年長児に見られる口腔アレルギー症候群です。花粉と共通の原因物質をもつ果物を食べると、くちびるがはれたりします。
増加の原因は?
一番は環境の複合汚染!
こうしたアレルギーの増加を改めてまとめてみたのが図2です。子どもたちをとりまく社会環境の変化と政治経済とのかかわりが浮かび上がってきます。
食生活では、摂取カロリーの増加、とくに摂取カロリーに占める脂肪の増加が著しい。1955年(昭和30)には、8・7%だったのが、02年(平成 14)には、25・1%に増加しています。脂肪をとりすぎたり、逆に魚や海草に含まれる油が不足したりするとアレルギーをおこしやすくなります。その上、 卵や牛乳のとりすぎによって、食物アレルギーの子どもたちが増えているのです。
さらに、受験競争、過度な塾通い、テレビゲームなどは、自律神経のバランスを崩しやすくします。社会環境の変化や親の生活をめぐる変化(リストラ・長時 間労働)によるストレスの増加も、アレルギー反応を悪化させる要因となっています。
しかし、一番の問題はなんといっても環境の複合汚染です。
環境汚染では、ディーゼルの排ガスDEPがアトピー体質を悪化させる効果をもつことがわかっています。
食品の発色剤や残留農薬もアレルギーを増やしつづけています。発色剤は、原因物質が腸管から侵入するのを容易にして、食物アレルギーをおこしやすくしま す。残留農薬は、原因物質でもあり、また、DEPと同じくアトピー体質を悪化させると指摘されています。
食品添加剤は99年で351品目が許可されていますが、そのなかには、イマザリルのように日本で許可されていない殺虫剤が、添加剤として許可されるとい うことまでありました。農薬で汚染された小麦が大量に輸入されるなど、貿易摩擦の解消を国民の健康より優先させてきた結果、アレルギーが増加し、より複雑 化している原因をつくっています。
環境のなかで増えつづける化学物質は、アレルギー反応を促進すると同時に、原因物質としても作用する特徴をもっています。
建材の樹脂から遊離するホルマリンは、空気中の濃度が0・08ppmを超えると刺激作用で気道を傷つけ、ぜんそく発作を誘発することが指摘されていま す。また、ホルマリン自体が原因物質として作用したり、湿疹を悪化させることもあります。
最近経験した事例では、転居にともなって皮膚が赤くはれ、かきむしったところから黄色ブドウ状球菌の感染をおこして火傷のようになった患者さんがいまし た。室内のホルマリン濃度を測定してもらったところ、なんと0・89ppmもありました。
最近やっとこのシックハウスに関連して規制をつよめる法改正が行なわれました。いずれにしてもアレルギーを増やしつづけている現在の環境衛生政策の根本 的転換が、子どもたちの健康を守るために早急に必要だと日々痛感し続けています。
■筆者の著書に『新版 アレルギーなんかこわくない』(かもがわ出版)、『基礎からわかる!アレルギーの治療と対応』(芽ばえ社)があります。
いつでも元気 2005.5 No.163