• メールロゴ
  • Xロゴ
  • フェイスブックロゴ
  • 動画ロゴ
  • TikTokロゴ

いつでも元気

いつでも元気

平和と医療・福祉を学ぶアジアへの旅<ベトナム> 活気の陰に戦争の傷が

吉田知暁(全日本民医連事務局)

genki160_05_01
住宅地のなかにあった「200万人餓死記念碑」。日本軍の強制食糧徴発によるという
genki160_05_02
街中にあふれるバイク。何でも載せる

 九月一六日、共同組織の方と職員二三人でベトナムへ出発。ホーチミン市とハノイ市を訪問した。

たくましくパワーあふれる街

 まず驚いたのはバイクの数。半端でない。道路に一〇列くらいで走るなんて当たり前。ヘルメットはかぶらず、四人乗りも! 信号はほとんどなく、交通ルールはないに等しい。
 バイクには果物、野菜、服、パン、鳥や豚など、なんでも載せて走る。商売も意気盛んで、道ばたのあちこちに品々を広げ、売っている。
 市場経済が導入されてから、便利になってきてはいるものの、貧富の差は広がっているようだ。きれいな洋館の隣はトタン屋根のバラック小屋だったりと、景 観も建造物も服装も持ち物も、すべてが新旧入り交じっているように感じた。
 それでも人びとは陽気でのんびりとたくましく、先進国に追いつけ、追い越せという意気込みがあふれていて、今の日本にはないパワーを感じた。

病院少なく、ベッドも不足

genki160_05_03
病院はベッド不足。患者が自分で簡易ベッドを持ち込む

 医療も、各国や企業からの支援で、MRIなどの最新医療機器が導入されている大病院がある一方、病院の数はまだまだ少なく、どの病院も患者であふれていた。ベッド数が足りず、デッキチェアのような簡易ベッドを自宅からもちこんで寝ている患者さんがいたのには驚いた。
 診察料は二万ドン(約二百円)と定められているので、貧しい人でも比較的診察は受けやすいが、ベッド料は一日一五ドル。五日間の入院料がひと月分の平均 給料なので、検査や入院となると困難になる。これは社会的問題として、新聞でも毎日取り上げられているそうだ。
 医療保険は国家公務員やサラリーマンが加入している(人口の15%)が、受診できる病院は地域ごとに決められているため、ほとんど機能していないとい う。
 医師の給与も低く、月収二百ドルくらい。教員の給与とほぼ同額で研修医は給料はなし。重労働の割に待遇がよいとはいえないため、医学部を卒業しても六割 くらいしか医師にならないそうだ。
 しかし、男女平等の精神は根付いていて、どの病院も医師を含め、女性スタッフが多く活躍していた。

枯葉剤の影響は2世3世へ

 ホーチミン市の戦争証跡記念館には、ベトナム戦争時の悲惨な写真や枯葉剤被害とみられる奇形児のホルマリン漬けなどが展示されていた。なぜ人間はこんなにひどい戦争ができるのか。言葉を失う。
 枯葉剤の影響で障害を負った子どもたちの治療・教育・訓練の施設「平和の村」ではフォン所長が対応してくれた。枯葉剤の影響は二世、三世の時代になって きていると話され、ベトナム戦争はまだまだ終わっていないと感じさせられた。
 枯葉剤の被害について、農村では教育も十分でないため、障害を持った子が生まれても、次の子に期待して生むことを続け、兄弟全員がみんな障害をもって生 まれ、家計に苦しむ家庭も多いという。
 ハノイでは、バクマイ病院も見学した。一九七二年に米軍が四回も空爆。多くの患者や医療従事者が犠牲になったという。爆弾が落ちた場所に、空爆で亡く なった少女を抱き、こぶしを天に突き上げ、怒りの表情をしている女性の像がある。
 バクマイ病院はハノイの中心的な医療施設で、ここを破壊すれば兵士の活動もできなくなるため、わざと病院を狙ったといわれている。地下壕に三百人の患者 がいて、多くの人が生き埋めとなり、救助活動は困難を極めたという。
 イラクのファルージャで同じことが今まさに起こっている。なぜ同じことを繰り返すのか?  怒りでいっぱいになる。

genki160_05_04
ハノイのバクマイ病院には怒りの表情の女性の像が

日本軍の収奪で2百万人が餓死

 ハノイの街の中の路地を入っていくと、住宅地に、第二次世界大戦中の日本軍の強制食糧徴発による二百万人餓死の記念碑があった。
 日本軍が軍用・備蓄用・国内の供給用として四分の一以下の安値で米を収奪し、米やトウモロコシのかわりに黄麻などの栽培を強制したため、もともとぎりぎ りの作米が底をついて大飢饉が起き、二百万人もの人が餓死したという。家主が家を建てようと掘り起こしたら白骨が出てきて明らかになったそうだ。日本が加 害者であったという事実がここにも…。
 歴史をしっかり学び伝え、繰り返さないことが私たちにできることではないかと思いながらお線香をたてた。

 

いつでも元気 2005.2 No.160