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いつでも元気

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特集2 急性心筋梗塞症 心臓の血管の動脈硬化が原因に

自分の危険因子を知るために健診を

 がん、脳卒中と並び、日本人の3大死因の1つとなっている急性心筋梗塞症。年間15万人が発症し、その約3割が死亡しています。今回は急性心筋梗塞症について、お話ししましょう。

心臓のしくみと働き
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 心臓は筋肉(心筋)が収縮することによって全身に血液を送るポンプの働きをしています。心臓には4つの部屋があり、一番重要な働きをしているのが全身に直接血液を送っている左心室という部屋です。

 左心室から送り出された血液は、大動脈を通って、多くの枝に分かれ、全身に酸素や栄養を運びます。

 大動脈から出ている最初の枝を冠状動脈といいます。心筋に栄養を送っているのがこの冠状動脈です(図1)。冠状動脈は、心臓の表面を走っていて、右冠動脈、左冠動脈の2本があり、左冠動脈は大きく2本に分かれていています(前下行枝、回旋枝)。

心筋梗塞と狭心症

 この冠動脈が狭くなったり、詰まったりして心筋への血液の供給が減ることを虚血といいます。完全に詰まった状態が心筋梗塞、狭くなった状態が狭心症で、この2つをあわせて虚血性心疾患とよびます。

 冠動脈が狭くなったり、詰まったりする主な原因は、動脈硬化です。冠動脈の内膜に、コレステロールやりん脂質、中性脂肪などがたまり、そこに細胞同士をくっつけている結合組織の成分が増殖して血管の内腔を狭めるように拡がってきます。これを粥腫といいます(図2)
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 冠動脈が狭くなり血液の流れが悪くなると、安静にしているときは何ともありませんが、階段や坂道を登るときや重い物を持ったときなどに胸の痛みが起きるようになります。これを労作性狭心症といいます。

 これに対して冠状動脈が完全に閉じて血流が流れなくなった状態が急性心筋梗塞症ですが、急性心筋梗塞症は、動脈硬化がじわじわと進み、最終的に血管が詰まることによって起こるとはかぎりません。

 軽度から中程度の動脈硬化によって厚くなった粥腫が何らかの理由で破れ、中にある脂肪分などが血管内に飛び出た状態になり、そこを修理するために血液が固まり(血栓の形成=図3-1)、そのために血管が詰まってしまい、心筋梗塞が起こると考えられています(図3-2)

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 血栓は、場合によっては自然に血管の中で溶けてしまい、血液がまた流れるようになることもあります。このように、完全に詰まっているのではなく、詰まりかけている状態になると、安静時でも、胸痛が頻繁に起きたり消えたりします。このような状態を不安定狭心症と呼びます(図3-3)

 急性心筋梗塞症になると血液が心筋に流れなくなり酸素など栄養がいかないために、心筋が死んでしまいます (壊死)。このとき一般的には非常に強い胸痛が起こります。「焼け火ばしで胸を突かれる」「心臓をわしづかみにされる」「このまま痛みが続けば死んでしま うのではないか」というような痛みです。

一刻も早く血液を通す

 急性心筋梗塞症の治療の基本は、詰まって流れなくなっている冠動脈の流れを一刻も早く取り戻すことにあり ます。一般に冠動脈が閉塞し壊死するまでに6時間くらいかかるといわれています。従って6時間以内に血流を再開することが必要です。 その方法としては、 主に、血栓溶解療法とカテーテル治療(経皮的冠動脈インターベンション)があります。

 【血栓溶解療法】

 冠動脈に詰まっている血栓を薬で溶かしてしまおうという方法が血栓溶解療法です。点滴や静脈注射で行ない ます。カテーテル治療に比べて、より早い時期に行なえる、カテーテルの施設がなくてもできるなどの有利な面もありますが、▽十分な血流を得ることができる 割合が50%前後である、▽命取りになる可能性のある不整脈が起こることがある、▽血流が再開しても結局また詰まってしまう(再閉塞)ことがあるなどの理 由で、とくに日本ではあまり行なわれていません。

 【カテーテル治療】

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 足のつけ根や腕の動脈から細い管(カテーテル)を入れて、冠動脈が詰まっている部位まで持っていき、そこをバルーン(風船)で拡げる方法です(図4)。

 この方法は、設備のある病院でしか行なえないため、心筋梗塞が起こってから治療まで時間がかかる、治療を行なうスタッフが24時間待機しなければならない、経費がかかるなどの問題はあります。

 しかし、より確実に冠動脈の血流を再開させること、再閉塞率が低いことから、日本ではカテーテル治療が広く行なわれています。多くの病院では、急性心筋梗塞症が起きてから12時間または24時間くらいまでであれば効果があると考えて治療を行なっているのです。

 最近ではバルーンによる拡張だけでなく、ステント(金属製網状チューブ)を留置する方法が一般的になって きました。バルーンの表面にあらかじめ、ステンレスやコバルトなどの金属性の網状の筒をかぶせておき、バルーンを拡げたときに、その筒が血管の内腔を押し 拡げ、拡げた状態で血管を維持するという方法です。バルーンだけだと、拡げた冠動脈の部位に大きな傷ができ(冠動脈解離)、結果としてその場所が詰まって しまう(急性冠閉塞)ことがあります。ステントを使うことにより、再度詰まったり狭くなったりするのを減らすことができます(図5)。

 図6は、実際に急性心筋梗塞症でステント治療を行なった患者さんの写真です。

 カテーテル治療の成功率は95%以上といわれています。

 2002年の調査(注)に よると、急性心筋梗塞症がおきた人の90%が血流が再開する治療を受け、そのうちの約80%は、カテーテル治療でした。カテーテル治療のなかで、ステント の使われた割合は81%でした。日本の急性心筋梗塞症患者のうち、約60%の患者さんでステントが使われていることになります。

 01年度の調査では、カテーテル治療のなかでのステントの使用率は60%でしたから明らかに増えています。

 04年8月より、薬物溶出性ステントという、ステントの表面に再狭窄を予防する薬物を塗ったステントが日本でも保険適応となり、狭心症の患者さんに使われていますが、急性心筋梗塞症の患者に使うことは、まだ現状では一般的ではありません。

 注:2月に行なわれた日本心血管インターベンション学会学術委員会のアンケート(全国485施設が対象)

 【抗血小板療法】

 冠動脈の中に金属性の筒を入れることについては、血栓が増えてかえって血管が詰まってしまわないかという疑問がありました。90年代の半ば頃から、血栓が増えることを防ぐ抗血小板薬、チクロピジンという薬が開発され、その問題はほぼ解決されました。

 抗血小板薬(多くの場合チクロピジンとアスピリン)は、ステントを留置した場合、少なくとも2週間から1 カ月は内服する必要があります。チクロピジンはよく効く薬ですが、その分、薬による発疹が出たり、血小板減少症、顆粒球減少症、肝障害が出るなどの副作用 もあり、副作用による死亡も報告されています。必ず医師の指示に従って内服してください。また、副作用早期発見の血液検査も行なう必要があります。

 抗血小板薬に関しては、日本以外ではチクロピジンより副作用の少ない新しい薬が使われています。日本でもおそらく05年から使われることになりそうです。

 【外科治療】

 血流を再開させる方法としては冠動脈バイパスの手術もありますが、ふつうこれを最初に選ぶことはなく、カテーテル治療が不成功だった場合に行ないます。

 心筋梗塞症の合併症として、心筋壊死の結果、右心室と左心室を隔てている心室中隔という壁に穴があいた状 態(心室中隔穿孔=図7)、左心室の壁に穴が開き血液が心臓外にもれる状態(自由壁破裂=図8)、乳頭筋という心臓内部の弁を支える心筋の壊死の結果、僧 房弁の緩みが起こった状態(僧房弁逆流)になることがあります。このような状況では手術が必要になる場合があります。

 【リハビリテーション】

 当院では、急性心筋梗塞症のために、カテーテル治療を行なって入院した場合、多くは合併症がないかどうか など、厳重に経過を観察するため、集中治療室で心電図や血圧を観察します。問題がなければ1日~3日くらいで通常の病室に移り、その後、病棟内の歩行を中 心としたリハビリを進めます。多くの患者は10~14日の期間で退院可能となります。

 早期退院に努めている病院では入院期間が3~5日という施設もあります。アメリカでは日本の保険制度との違いもあり、一般的に短くなっています。

 カテーテル治療が行なわれなかった患者などについては、個別にリハビリの方法を検討します。

 入院中のプログラムで重要なのは、以下の4点です。

(1)自分の病気と重症度、今後の検査、治療のやり方を理解してもらう。
(2)薬を内服することの必要性、副作用を理解してもらう。
(3)自分の抱える危険因子を理解してもらい、どう対処するか、生活のスタイルの改善なども含めて明らかにする。
(4)社会的制度の利用について検討する。

予防に大切なことは

 急性心筋梗塞症や狭心症など、虚血性心疾患の予防に大切なのは、その原因である冠動脈の動脈硬化を防ぐことです。動脈硬化の危険因子としては、喫煙、高血圧症、高コレステロール血症、糖尿病、高尿酸血症(痛風)、肥満、運動不足、精神的ストレスなどがあげられます。

 従来、欧米に比べて日本における虚血性心疾患の発生頻度は低く、約3分の1でした。しかし食生活の変化に より、現在、日本人の比較的若い成人のコレステロール値はアメリカとほぼ同じとなりました。糖尿病の罹患率は急激に増加しています。 喫煙率、高血圧罹患 率は日本の方が高くなっています。

 このような傾向はこれからも続くと考えられ、今後は虚血性心疾患が増えてくることが予想されます。危険因子をできるだけ少なくするように注意することが大切です。自分の危険因子がどうなっているかを知るために、年1回の健康診断は必ず受けましょう。

いつでも元気 2004.12 No.158