(得)けんこう教 秋から冬のせき 熱が続き痰も出るときは早く受診を
加賀美 武 山梨・甲府駅前共立診療所
これから冷える季節になると、咳が出る病気が増えてきます。私たち呼吸器科の医師が忙しくなる時期でもあります。
咳は、炎症や異物、冷気で気道が刺激されると、頸部と胸・腹の内臓に分布している迷走神経が反射しておこ ります。まず深く息を吸い込み、声門を閉ざします。つぎに腹部の筋肉や肋骨の間の呼気筋が収縮して肺内の空気を圧縮し、声門を開いて一気に空気を吐き出し て気道内の異物を排除します(図)。
そのスピードはなんと時速180礰神にも及ぶほどです。
1回の咳でエネルギーを約2礰靖も使ってしまうといわれますので、咳が続くとずいぶん体力を消耗してしまいます。もちろん不快な症状でもありますし、早く止めたほうがいいと考えがちです。
咳だけとめてもダメなとき
しかし、咳と同時に痰を伴う場合は、咳だけ止めようとしてはいけません。というのは咳が痰を排出するためのものだからです。痰を伴う咳は、多くは感染によるものです。気管支炎、肺炎、肺化膿症、肺結核、慢性気道炎症(注)などで、冬に悪化して症状が強くなることもよくあります。この場合咳だけを止めると、痰が気道に溜まってしまって、空気の出入りが悪くなったり、感染の拡大を招いたりする恐れがでてきます。
(注)慢性気道炎症=気管支拡張症、副鼻腔気管支症候群、びまん性汎細気管支炎など。副鼻腔炎を伴いやすく耳鼻科受診も必要です。
特に熱が3日以上続いたり、黄色や緑色をした膿のような痰や血痰を伴ったりするようなら、早めに受診しましょう。抗菌剤の治療が必要かもしれません。
痰がない咳は止めてよい
痰のない咳は、おおむね止めてもよいものです。
そのなかでも呼吸をするときにゼーゼーと喘鳴が聞こえ、息切れがするようなら、かなり気管支ぜん息が疑わ れます。秋に悪化しやすいので、この時期、症状が強いようなら、受診して呼吸機能検査を受けてください。たいていこれで診断がつきます。ぜん息は重い発作 で命をおとすこともあります。有効な吸入療法がありますので、早めに治療を始めることが大切です。
似たような症状でも、長年タバコを吸っていた方なら、むしろ肺気腫や慢性気管支炎といったCOPD(慢性閉塞性肺疾患)が疑われます。やはり冬に症状が悪化します。
COPDの方は、まずタバコをやめることが治療の第一歩になります。そうは言ってもなかなかやめられない という方は、禁煙外来で上手な禁煙方法を習ったり、ニコチンパッチを処方してもらったり、あるいは薬局でニコチンガムを買って挑戦するのもひとつの方法で す。受診したらやはり呼吸機能検査が必要です。
ゼーゼーはしないけれど、よく息切れが一緒にあるという方は、肺線維症などが考えられます。粉じんの職場で働いてきた方や、慢性関節リウマチなどの膠原病がある方にも、同じような症状が出ることがあります。レントゲンやCTなどで検査してもらいましょう。
放っておいてはいけない咳
最近話題になっているのは、3週間以上続く慢性の咳です。
血圧の薬のうちACE阻害剤(レニベースなど)などの副作用として出る咳、食道炎、咳だけのぜん息、アレルギー性の咳などは、検査をしてもなかなか診断がつきにくいのです。これらは肺以外の原因も調べなければなりません。
また肺がんの症状として血痰が有名ですが、咳だけ続くこともよくありますから注意が必要です。
肺炎などは予防できる
さてこの時期にしておかなければならないのは予防接種です。インフルエンザについては、受けたことがある 方が多いと思います。ただこれを受ければかぜにかからないと、誤解されている方もいらっしゃるようです。予防接種はあくまで、かかったとき重症にならない ようにするためのものですから、手洗いやうがい、マスクなどの予防はやはり必要です。
もうひとつ予防接種として、肺炎球菌に対するワクチンがあります。普通に生活していてかかる肺炎で一番多 い原因菌が肺炎球菌です。ワクチンには、一部を除き自治体からの補助はありませんが、65歳以上の方、糖尿病・腎臓病がある方、肺や心臓の慢性疾患がある 方、脾臓を摘出した方(この方は健康保険で予防接種ができます)の肺炎球菌による重症の肺炎に有効とされています。かかりつけの病院、診療所に問い合わせ てみてください。なお入院中にかかる肺炎の原因菌で多いのは緑膿菌、グラム桿菌など別の菌です。
咳の原因となっている病気に注意して、秋冬を元気に乗り切ってください。
いつでも元気 2004.11 No.157