介護保険見直し 障害者支援費制度との統合って? 保険料の徴収を20歳からに引き下げ
誰もが安心して利用できる制度こそ
来年二月の法案上程をめざしてすすめられている「介護保険見直し」。厚労省がことし初めから出している案のひとつに、「介護保険と障害者支援費制度の統合」があります。
障害者のなかで不安広がる
介護保険の利用者が急増し財政が困難になる一方、昨年四月にスタートしたばかりの障害者支援費制度も、初 年度から百億円をこえる赤字といわれています。これらの財政問題を一気に解決するため二つを統合し、現行四〇歳から徴収している介護保険の保険料を、二〇 歳から徴収開始にしようという案です。
しかし制度体系もサービス提供の仕方も、介護保険とは大きく異なる障害者の支援費制度。「自分たちの望む援助が受けられなくなる」「高額の利用料を払わされる」など、障害をもつ人たちの間に不安が広がっています。
障害者支援費制度とは
生活全般にヘルパーの援助は欠かせない。ヘルパーと買い物をする鈴木さん(左) |
障害のある人たちはこれまで、行政が責任を持つ「措置制度」によってヘルパー派遣などの福祉施策を保障されていました。これを、「利用者と指定業者の間で契約を直接結び、行政は認定後の財政的支援をする」という方式に変更したのが「支援費制度」です。
契約の仕方は介護保険と似ていますが、介護保険では財源の半分が保険料でまかなわれているのに対し、支援費制度では全額税金(国が半分、残りを都道府県と市町村で折半)でまかなわれているという大きな違いがあります。
支援費制度の導入をめぐっては、措置制度の廃止が公的責任の放棄につながりかねないと、さまざまな障害者 団体などが反対をしてきました。けれども導入後は、「よりましな制度を求める」ため、支援費制度改善の運動をしてきたと、障害者の生活と権利を守る全国連 絡協議会の白沢仁事務局長は語ります。
「なぜなら支援費制度では、基本的に、自己決定権や選択権が保障されるという前進面もあったのです。措置 の時代には、知的障害や精神障害の人、障害児などはヘルパーサービスを受けられませんでしたが、支援費制度では本人が必要を感じて申請し、行政に認められ ればサービスを受けられます」
その結果として利用者が急増。初年度一二八億円、今年度予測一七〇億円という赤字を生み出すひとつの原因にもなりました。
「でも、それは厚労省の見積もりの甘さであって、しっかりと予算措置を行なっていなかったことが原因ですよね。支援費制度も介護保険も赤字だ、だからいっしょにして保険料を二〇歳から取って解決などという考え方は、そもそものところからおかしいですよ」
サービス制限や利用料が心配
障害をもつ人たちの間に不安が広がっているのは、障害者施策を介護保険で行なおうとすれば、サービスの制限や高額な利用料の徴収など、いままでになかった「福祉の制限」がもちこまれる恐れがあるからです。
たとえば、支援費制度ではサービス利用に制限はありませんが、介護保険では要介護度ごとに上限額が設定されています。また、支援費制度は所得に応じた応能負担ですが、介護保険は利用者が一割の利用料を負担する応益負担になっているという違いがあります。
東京都北区に住む鈴木敬子さんは一人暮らしで、脳性まひがあって電動車いすを利用しています。
措置制度のころ、鈴木さんは一カ月二四〇時間のヘルパー派遣を受けていました。一日八時間までという制限があったためです。支援費制度になって、北区が認めたヘルパー派遣時間は一カ月四六五時間に増えました。
「できることは自分でやりたいんですけど、頚椎を傷めていて体調の悪いときがあったり、最近は股関節も傷めて、車いすを移動するときも人手を借りたりしているんです」
支援費制度が介護保険に統合された場合、鈴木さんの受けている居宅援助は介護保険の範囲ではまかないきれ ません。また、鈴木さんが室内で利用している車いすは、座席の部分が電動で上下する特注品です。介護保険のレンタル制度になれば、このような「障害にあわ せた器具」を入手できるかどうか疑問です。
「何より、障害年金だけで暮らしている私たちのようなものにとっては、介護保険になったら利用料の一割が大きな負担です。出費を気にして援助を制限するようなことになれば、障害者にとっては死活問題ですからね」
まず統合を認めろというが
厚労省の出している「支援費制度と介護保険の統合」という案に対し、圧倒的に多くの障害者団体はまだ態度を決めかねていると白沢さんは語ります。どこをどう統合するのか、不具合の出る部分はどうするかなど、詳細な部分がまったく議論されていないからです。
「その点を厚労省に追及すると、蕫まず統合を認めてくれ﨟という。順序が逆なんですよ」
介護保険の認定制度に重度の身体障害、知的障害、精神障害の人たちを当てはめてみると、要介護にならないケースがほとんどだといいます。それほど違いのある介護保険と支援費制度なので、「統合」することはほとんど不可能ではないかという意見も多いといいます。
「統合の背景には、単なる制度の見直しというだけでなく、公的責任のありようを変質させる『構造改革』が あります。これまでの運動で築いた障害者施策を守り、さらに拡充させることが必要です。統合に対しては、力を抜かずに反対の運動をしていくことが、これか らも必要ではないでしょうか」
介護や援助を必要とする人たちが、障害や年齢にかかわらず安心して利用できる福祉制度を築くため、手を携えた幅広い運動が求められています。
文 ・矢吹 紀人(ルポライター)
写真・五味 明憲
いつでも元気 2004.10 No.156