みんいれん半世紀(20) 差額ベッドのない病院 いま注目、「こんな病院があったのね!」 差額とるより患者とともに医療改善の運動を
千秋病院の個室。この病院では個室に入ってもらう基準は「医療上の必要」か、いびきなどで集団生活ができない場合。もちろん差額徴収はいっさいない(右端が看護部長の寺田さん) |
ことし一月、東京・新宿でそば屋を営むAさん(71)は救急車で民間のM病院に運ばれました。肺炎で即日入院でしたが「一日八千円(差額ベッド料)の三 人部屋しかない」といわれました。リハビリも必要で、八千円の負担は重すぎます。
Aさんの奥さんは新宿の民主商工会に相談。民医連の代々木病院を紹介され、Aさんは同病院の四人部屋に入りました。約一カ月いて、かかった費用は国保の負担分だけ、差額徴収はゼロでした。
M病院にいたら必要だった月二四万円の負担を免れた奥さんは「ほんとうに助かりました。一日八千円と思うだけで胸が痛かった」といって喜んだといいます。
厚労省が「患者は快適さを求めている」と差額ベッドを認めたのは八四年。差額ベッドを希望する患者から、 入院基本料などとは別に、特別料金を「徴収できる」というものです。当初は個室か二人部屋に限られましたが、その後四人部屋まで認められました。いま差額 ベッドは全国で二三万七二一床(03年7月現在)。
四床以下の総病床数九六万六二三八床にしめる割合は23・9%、ざっと四分の一です。料金の平均は五一一八円で、月にすると約一五万円になります。
「豪華」を売り物にする病院もふえ、なかには「窓からレインボーブリッジを一望でき、会議室・秘書室つきの一三一平方メートル」で一泊二一万円という例も(別表)。
「入院したら差額をとられる」のが当たり前のようになり、テレビでは「入院すると差額ベッド料もかかりま す」という生命保険のCMが目立ちます。最近、ある保険会社が、入院した場合の通算支払い限度日数を無期限にした終身医療保険を発売したら、契約が殺到し すぎて、「将来の支払いリスクが大きい」と発売中止する騒ぎがありました。それほど差額ベッドは重い負担になっているのです。
病院名(所在地)
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最高料金(円)
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広さ(m2)
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1
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慈恵医大病院(東京都港区) |
210,000
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131
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2
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NTT東日本関東病院(東京都品川区) |
126,000
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63
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3
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北野病院(大阪市) |
105,000
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47
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4
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聖路加国際病院(東京都中央区) |
105,000
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36
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5
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慶応大病院(東京都新宿区) |
84,000
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76
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6
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大阪警察病院(大阪市) |
84,000
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41
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7
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住友病院(大阪市) |
73,500
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57
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8
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東京医大病院(東京都新宿区) |
68,250
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20
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9
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東京女子医大病院(東京都新宿区) |
68,250
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30
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10
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日赤医療センター(東京都港区) |
68,250
|
40
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地域の病院にも影響ひろげる
そんななか、「差額ベッド料とらない病院があったのね!」とあらためて注目されているのが、民医連の病院です。
「『差額料なし』やれます/『民医連』加盟病院の例」。こんな見出しの記事がのったのは、01年1月31 日の朝日新聞(左頁)。これは、差額問題をとりあげた別の記事を見た片桐民主病院(奈良)の看護師、平川加代子さんが「私たちの病院グループは全国どこも 差額ベッド料を徴収していません」と投書したのがきっかけ。記者が「そんな病院があるのを知らなかった。話をきかせてほしい」と民医連を取材。大きな反響 をよび、「妻がながく病んでいる。近くの民医連の病院にかかりたい」などの問い合わせが相次ぎました。
朝日新聞2001年1月31日付 |
地域に民医連の「差額ベッドのない病院」が一つあることが、まわりの病院に影響をひろげている例もあります。
愛知県一宮市にある医療法人尾張健友会千秋病院は、西尾張地域の病院や施設によびかけて、「尾張圏ブリッジ」という交流をひろげています。公立、厚生連、医療法人などさまざまな経営母体の二一病院が参加して、地域の医療・福祉ネットワークづくりをめざしてきました。
病院どうしが情報を交換し、「差額ベッドの負担が年金の額をこえてしまい、病院にいられない」という患者 を千秋病院が受け入れたり、逆に千秋病院から転院した患者が一日五千円の差額をとられ、「どうしてとるの」とびっくりしたり。こうした交流のなかで、備品 などのレンタル料徴収をやめる病院もでてきました。
差額徴収のほかにもブリッジでは、「追い出され、行き場のない長期入院患者をどこでどう守るか」といった議論を、病院経営者もふくめて積み重ねています。
千秋病院看護部長の寺田路子さんは、「困っている人の最後のよりどころになる。それが民医連の存在意義だ と思う」といいます。「民医連だから何でもできるわけではありませんが、その目標だけはもっているつもりです。患者、家族、地域の病院からの相談事には、 まずは応じよう、というのが基本姿勢です。むずかしい事例もいっしょになって相談しているので、よその病院から『どうしたらいいか教えてほしい』という相 談までいただくんですよ。そんなときは、民医連の看護師になってよかったと思いますね」
運動と自己努力で困難を突破
いま国の医療費削減政策による減収を差額でカバーする病院がふえ、収入にしめる差額の割合は自治体病院で1%、私的病院で2・2%になっています。
民医連が「差額徴収絶対反対」の方針を出したのは、安保闘争まっただ中の六〇年、第八回総会です。当時か ら差額をとっている病院はあり、差額徴収制度化の動きもあった。しかし制度になってしまったら「負担に堪える階層は非常に少ない」「『医労連携』を妨げ、 医師と患者、大衆を分裂させる」と反対しました。
全日本民医連事務局次長の岩本鉄矢さんはいいます。「診療報酬制度ができたとき、国は『これで今後は医療 に専念できます』といったんです。ところが物価が急騰してもそれに見合った診療報酬の改定は行なわれない。多くの病院は差額徴収に走った。民医連は、そう いう道をとらず、診療報酬の改善を求める運動で突破すべきだと考えたわけです。現に年二回の改定を実現したこともあります」
「安易に患者さんに負担を求めると、そういう努力がなくなるんですね。公私病院連盟の統計による室料差額 収益は平均して総収益の1・7%です。民医連の収入にあてはめると年間約八九億円。民医連の役職員一人あたり年間約一八万円になります。職員みんなががん ばってその金額にみあう高い生産性をうみだしているわけです。その努力を放棄して患者さんの負担にするわけにはいかない。それが民医連の『思想』なんで す」
文・中西英治記者
いつでも元気 2004.9 No.155
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