要介護者に朗報!障害者控除で税金が戻る 新潟県につづき、北海道・十勝管内全市町村で実施
帯広市第1号の認定書を手にする伊澤佐恵子さん(右)、伊澤経太さん(中央)と高野幸雄十勝社保協代表委員。経太さんが現在入所している老健施設ケアセンター白樺で |
介護保険の要介護者の所得税を軽減させるとりくみがひろがっています。
要介護の認定がされているだけでは障害者控除は受けられませんが、六五歳以上の要介護認定者に、市町村が「障害者控除対象者認定書」を発行すれば、障害 者手帳を持たない人も障害者と同じく税金が控除されるという制度があるのです。
十勝勤医協や友の会も参加する十勝社会保障推進協議会(十勝社保協)は二年前からとりくみを開始、認定書を発行するよう、市町村にはたらきかけました。
それから二年、十勝管内の二〇市町村全部で認定書の発行が実現しています。
新潟のニュースに「これだ!」と…
十勝社保協の事務局長、山本鉄雄さん(52)は、はじめて帯広市で認定書が発行されたときのことをふり返ります。
「この制度は、二〇〇二年に新潟県の長岡市や上越市からはじまったものです。介護保険がスタートしてからずっと、保険料や利用料の軽減をもとめる陳情を 何度も行なっていました。そんなところに、新潟県のニュースが伝わった。これだ!と思いました。これは大きな負担軽減になるのではと…」
社保協でさっそく検討し、各市町村の担当者と交渉を始めました。「最初、帯広市は認定書を発行しないとの立場でしたが、帯広税務署が『認定書があれば控 除できます』といってるよというと、その後の市議会で『対象者がいれば発行します』という回答に変わりました」
新潟での経験を知って二カ月というスピードで、帯広市に発行させたのです。
9万円が返ってきた
帯広市で、この認定の第一号となったのは伊澤経太さん(91)。娘の佐恵子さん(66)は「十勝社保協の 山本さんから知らせを受けて、父に代わってすぐに市役所に申請にいきました。九三万円の控除で、約九万円の税金を払わなくてすみました。一年間の介護保険 料と、老健施設の利用料一カ月分をたした額が戻ってきたことになります。家業の酪農業もたいへん苦しいときだったので、軽くなってほんとに助かりました」 と喜びます。
伊澤さんの場合は、要介護3(当時)で痴呆があり、「特別障害者控除」に認定され、その上に扶養控除があって、九三万円が控除されたのです。
重い負担に悩まされる住民にとってはまさに朗報。さっそく友の会ニュースで知らせました。十勝勤医協川西友の会の役員をしている佐恵子さんは「父の認定 書が出てから、同じように介護の必要な老親をもつ友の会会員さんにも、市役所に申請するようにおすすめしたんですよ。すると、そんないい制度があるのなら と喜ばれて…」。
帯広市では伊澤さんたちがはじめて申請した二〇〇二年には発行された認定書は七件でしたが、ことしは八八件と毎年増えています。伊澤さんたちは、友の会 のなかでも、もっともっと知らせていきたいとはりきっています。
山本さんは「障害者控除の確定申告で、税金が減るとさらにうれしいことがあります」といいます。
「障害者控除を受けると、課税所得が少なくなりますね。国保料は課税所得をベースに算定されますから、国保料も減額される人が出てきたのです」
全市町村に制度がひろがった理由
十勝管内の全市町村で認定書発行ができた理由を山本さんはこういいます。
「社保協結成のときから、自治体との信頼関係をつくってきたことが大きい」と。
「十勝の社保協は、十勝勤医協などが中心となって九八年に発足しましたが、初仕事は、介護保険のスタートにあたって、管内の全部の自治体をまわって、介 護保険担当者と話し合うことでした。介護保険の中身が住民のためのものになっているかを、行政と話したかったのです。自治体にとっても介護保険はわからな いことだらけで、市町村間の横のつながりも弱く、情報がなくて担当者は困っていたようです。そこで、十勝全域を網羅している社保協がほかの自治体のことを 教えたり、おたがい相談や意見交換をする関係ができてきたんです」
地元マスコミも注目
障害者控除の受け方(1)準備するもの (2)市役所福祉部へ (3)税務署に行き、「障害控除対象認定書」を提出してください。 「確定申告」が終わっていても、「還付の申告(更正の請求)」ができます。 どのくらい控除を受けられるか(1)納税者自身が障害者か、控除対象配偶者及び扶養親族が障害者の場合、障害者控除は27万円、特別障害者控除は40万円。 (2)同居特別障害者であれば「配偶者控除・扶養控除」が増えます。 |
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自治体がすぐに動いたのには、もうひとつの大きな力がありました。それは、介護保険の改善や負担軽減、国保の減免などで、社保協のよびかけに地域の老人会や町内会が賛同し、これまでもいっしょに運動をしてきたことです。
「老人会や町内会が社保協といっしょになって陳情書を出したり、助役や市長との交渉にも老人会の会長さんが何人か出席して、実情を直接訴える。最近では
二一六老人会のうちほぼ四割の老人会が陳情書に賛同をよせてくれるようになり、署名が集まります。これまでにいっしょに陳情した老人会はトータルで七割に のぼり、社保協の運動が市民にひろく知られるようになってきました」(山本さん)
社保協や老人会などがいっしょになっての陳情には地元マスコミも注目。「十勝社保協、帯広市に要望書。助役は『前向きに検討』」など、そのとりくみが、たびたび報道されているのです。
老人会会長もいっしょに陳情
ことしの三月に社保協が行なった市長との交渉には、帯広市老人クラブ連合会会長の長谷部謙造さん(74)がはじめて出席しました。
長谷部さんに話を聞くと・。
「市の老人会全体としては、残念ながら社会保障の問題でまとまって運動するということにはなっていません。しかし、社保協のよびかけに応じる老人会が増 えてきましたね。そこで、私も一度は出なくてはと思っていました。私が社保協といっしょに出るということで、市との関係を心配してくれる声もありました が、高齢者の実情を伝えられるならどことでもいっしょにやるという思いです」ときっぱり。教育一筋、校長までつとめた人です。
「いま、『三位一体改革』で自治体への補助金が削られているでしょう。介護保険や社会保障の問題を地方におしつけて国は逃げている。市長さんもきびしい 立場だとは思いますが、高齢者のおかれている状況もきびしいことを伝えたい。とくに、独居でねたきりの人、年金もほとんどない人の生活は苦しい。介護保険 は、低所得で重度の人ほど使えないというおかしなことになってます」(長谷部さん)
自治体にばらつきも
十勝管内の全部の市町村で実現させた認定書の発行。しかし課題もあります。二月一七日付北海道新聞では、「控除申請数が自治体によって大きなばらつきをみせている…住民への周知に差がある」と報じています。
十勝勤医協友の会連絡協議会の会長で、社保協の代表委員をつとめる高野幸雄さん(68)も元校長。高野さんはこういいます。「対象者の九割以上に認定書 を発行している広尾町では、対象者全員に手紙を出す、防災無線で一カ月間よびかけるなど徹底して知らせています。その一方で、帯広市などは広報誌に小さく お知らせが載るだけで、対象者がどれだけいるかもつかんでいないようです。またある町では、認定申請に医者の診断書を出せというところもあります。これで は制度を知っていても出しにくくなります。対象者の不利益にならないよう、社保協として改善を求めていきます」
もっと多くの人に知らせたい
社保協は独自に、ひろく市民に制度を知らせていく活動をしています。五千枚のチラシを新聞に折り込んだほか、昨年から「集団申請会」を開いています。
「集団申請会には、ことしは二五人の参加でしたが、独居やねたきりで役所に行きにくい人も代理申請が認められています。手続きは簡単です。もっと多くの 人に制度を活用してもらって、税金が返ってくるように知らせていきたいです」と高野さんは語っています。
認定書の発行を認めた「厚生省社会局長通知」新潟県で住民から、「介護が必要な高齢者にも『障害者控除』をみと めてほしい」との声があがり、日本共産党が調査、「精神又は身体に障害のある年齢六五歳以上の者」は市町村長が認定すれば、障害者控除および特別障害者控 除の対象になるという所得税法施行令第一〇条に注目しました。 国税庁に問い合わせたところ「障害者控除の対象にほぼ一致する」との見解を得ました。 さらに、一九七〇年(昭和45)の旧厚生省社会局長通知には、障害者控除の範囲がひろがり、市町村が「障害者控除対象者認定書」を発行することで障害者 手帳をもっていなくても控除の対象となることが示されていることが判明。 控除の区分と介護度との関係は、自治体によってさまざまです。帯広市の場合、「要支援」と「介護度1~2」が一般、「要介護3~5」が特別障害者控除に 認定されます。「要支援」まで障害者控除になるのは帯広市だけです。 |
文・八重山薫記者/写真・千葉茂
いつでも元気 2004.7 No.153