特集1 許しがたい 小泉首相の憲法感覚 〝自衛隊派兵は違憲〟毎日提訴運動・前田哲男さんの思い
東京国際大学教授・前田哲男さん
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イラクへの自衛隊の派遣は「違憲だ」と、元郵政相の箕輪登さんが北海道で提訴したのを皮切りに、「自衛隊派兵違憲訴訟」は名古屋・東京・大阪・静岡・山梨・熊本と全国的に広がっています。
「イラク派兵違憲訴訟の会・東京」では三月から「毎日、毎日提訴運動」をスタートさせました。これは土日をのぞく毎日、一人ずつが裁判所に「イラク派兵 は違憲」と提訴する運動です。トップバッターは軍縮・安全保障問題の専門家で、東京国際大学教授の前田哲男さん。五月に開かれた集会で、前田さんはなぜ訴 訟にいたったかについて語りました。
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小泉首相が「自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」という憲法前文を引用して自衛隊派兵を正当化した発言を聞いてびっくりしました。
憲法前文は「世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」、そして「いずれの国家も自国のことのみ に…」と続きます。憲法前文の一番の要は政府の行為による戦争の禁止で、それが九条に条文として定められているのです。
天皇が開戦や軍隊の運用権を握っていた明治憲法の下で、他国への干渉や侵略、そして全世界を敵にする戦争へと続いていった。こうした歴史に対する反省、 それを繰り返さない決意から今の日本国憲法ができた。だからこそ支持され、今日まで受け継がれてきたと思うのです。
それを小泉首相はひっくり返した。憲法の読み違いもここまでくると許しがたい。憤りを感じます。
派兵は雪祭り援助と同じ?
私はジャーナリストとして四〇年以上自衛隊と日米安保を見続けてきました。自衛隊について、憲法論はひとまずおくとして、自衛隊法第三条には「直接侵略および間接侵略に対し、我が国を防衛すること。外国が攻めてきたときに国土を守ること」と任務が明記されています。
この自衛隊法は、五〇年前参議院で、「自衛隊の海外出動をなさざる」との付帯決議を採択の上、制定されました。自衛官に渡される「自衛隊員の心構え」にも「海外任務」は入っていません。
自衛隊法が仮に「憲法のなかにある」と考えても、戦地への海外派兵はありえないのです。だから防衛庁は、自衛隊法にあからさまに海外派兵を書き込むこと もできないので、自衛隊法の一番うしろにある附則に、札幌雪祭り援助や南極観測支援など余暇におけるサービスの業務にならべて、今回のイラクにおける任務 を付け加えています。
法を逆転させて海外派兵を行なうなど、法治国家としてありえない。民主主義そのもののルールの破壊です。
安保条約の枠さえ破って
政府は日米同盟、日米安保条約をイラク派兵の根拠の一つにしています。日米安保条約第五条に「日米共同防 衛」という条項がありますが、それは日本の施政下にある領域への攻撃に対する共同防衛であって、海外に出向くことはひとことも書いてありません。第六条に アメリカは日本の基地を使って極東における国際の平和と安全維持に寄与するための行動をしてよいとあります。しかしイラクは極東ではないし、また第六条は 自衛隊との共同行動は含んでいません。
六〇年に安保条約が改定されたときに、当時の岸信介首相は「この新安保条約は、国連憲章の精神にのっとりその枠内においてむすばれているのが前提。ま た、日本国憲法の枠内ですべてのことが律せられる。極東の平和と安全が日本の平和と安全に緊密に関わるとしても、自衛隊が日本の領域外で行動することは許 されない」とのべています。
つまり日米安保条約の解釈、運用からみても、自衛隊が日本の領域外で行動することはできない。それが公然と行なわれているのです。これほどの法の無視が あるだろうか、法治国家としてあってはならない政治のありかただと思います。
国連憲章にも反している
イラク攻撃は国連憲章に反する行為です。国連憲章は、残念ながらきちんと守られてきたとは言い難いが、そ れでも国際社会によって支持されてきました。その国連憲章は二つの場合を除いてしか武力の行使を認めていません。ひとつは自国が攻められたとき。もうひと つは国連自らが平和の破壊者、侵略者にたいし、軍事的措置をとる場合です。
今回のイラク攻撃はこのどちらでもない。不正の戦争を支持することは、不義に手を貸す行為といわざるをえません。
イラク攻撃は犯罪的行為
イラクでは、もはや非戦闘地域はない。自衛隊が宿営しているサマワでも連日交戦が伝えられている。加えてアメリカの捕虜虐待という行為が問題になっています。この戦争そのものが犯罪的なのです。
捕虜虐待は第二次世界大戦で日本が連合国の将兵に対して行ない、戦後、B・C級戦犯の名において裁かれた。ジュネーブ条約違反、ハーグ陸戦協定違反とい うことで、アメリカ関係だけでも二三七件起訴され三四人が死刑になっています。このきびしい追及を行なったアメリカが、今、同じことをイラクでしている。
「人道援助」を口実になお自衛隊がとどまっていることは、どう考えても正当化できない行為です。自衛隊のすみやかな撤退と二度と海外派兵ができない世論 を作っていく必要があると思います。
私はこういった憲法の下における不正義のあり方をあらためさせる、そのひとつのきっかけとしたくて「イラク派兵違憲訴訟」の原告になりました。
聞き手・斉藤千穂記者
いつでも元気 2004.6 No.152