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いつでも元気

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特集2 関節リウマチ医療 格段に速くきき、効果が確かな薬が登場

村山 隆司
石川・城北病院リウマチ科

高額な費用など問題もあるが…

 関節リウマチは、関節の腫れ、痛み(関節炎)とともに、進行するにつれて関節の骨が破壊されて変形し、日常の生活動作が不自由になってくる病気です。
 40、50代の働き盛りの女性に多く発症し、現在、全国で70~80万人の患者さんが苦しんでおられます。
 最近になって、画期的な治療薬が開発され、治療方法が見直されるなど新しい展開が見られます。

図1 ピラミッド治療方式(Smyth CJ, 1972)

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スミスのピラミッド治療方式
 発症の第一段階として、安静と適度な運動など患者教育による基礎療法と同時に、「非ステロイド系抗炎症剤(NSAIDs)」を使って痛みを抑えます。こ れで効果がない場合は第二段階で、「疾患修飾性抗リウマチ剤(DMARDs)」を使います。DMARDsは、作用が弱く安全性の高い薬から順次、強い薬に 変更します。それでも効果がみられない場合は第三段階として、「副腎皮質ステロイド剤(ステロイド)」を使います。理学療法、作業療法、外科療法はどの段 階でも適応を考慮して行なわれます。

これまでの治療戦略
–作用の弱い薬から徐々に強い薬へ

 関節リウマチは、「死なない病気」といわれ、関節破壊もゆっくりと進行し、重い関節機能障害は、発症10年を過ぎてから現れるとされていました。
 また、使用する治療薬は、副作用が強くて恐ろしい薬であると考えられており、作用の弱い薬から徐々に作用の強い薬に変更していく「ステップ・アップ方 式」がこれまでリウマチ治療の主流を占めていました。その代表的なものとしてスミスという人が開発したピラミッド治療方式があります(図1)

ステップ・アップ方式の限界

 ステップ・アップ方式は、最近その限界が明らかになってきました。

■寝たきりになり死亡も
 関節リウマチ患者の平均死亡年齢は、一般より約10年短いことがわかってきました。関節リウマチから、免疫異常にともなう血管炎によって内臓障害を患 い、ときに死に至ることもあります。また内臓障害や重い関節機能障害で、長期の寝たきり状態になることが寿命を縮めています。けっして「死なない病気」と はいえないのです。

■痛み止めの連用で胃腸障害
 痛みを抑える「非ステロイド系抗炎症剤(NSAIDs)」は、長期連用により胃腸障害、腎機能障害がおこります。米国でのNSAIDsによる死亡者数はエイズによる死亡者数を超えているといわれています。
 NSAIDsを続けて使うと、痛みは軽くなりますが、関節破壊が止まったわけではありません。痛みがないので、関節をよく動かすようになり、かえって関節破壊を進行させてしまうことにもなりかねません。
 最近では、痛みのため最低限の日常生活が送れない場合に限り、副作用の弱いNSAIDsを使用する傾向にあります。

図2 ステップ・ダウン療法(Wilske KR, 1989)

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■効き目の遅いDMARDs
 「疾患修飾性抗リウマチ剤(DMARDs)」は、効果がでてくるのが遅く、3~6カ月かかります。しかも薬の効き目も期待されたほど高くなく、効果が現れても一時的で、だんだん効き目が弱くなる現象がみられます。
 関節破壊は発症6カ月で現れ、もっとも進行速度が速い時期は発症2年以内です。そのため、ステップ・アップ方式では、関節破壊が現れる前に病気の進行を抑えることはむずかしいことが明らかになってきたのです。

早期から強い薬を使用
—ステップ・ダウン方式の出現

 関節炎が続くことにより関節破壊がおきるため、発症後できるだけ早く関節炎を抑えることが治療の重要なポ イントとなります。そのためには発症早期から強力な薬を使い、必要なら複数の薬を併用する治療法が考え出されました。そして効果が出てきたら量を減らし、 あるいは効果の弱い薬にかえていく治療法がステップ・ダウン方式(図2)といわれるものです。

 使用するDMARDsも強力なメトトレキサートが主流で、それでも効果が十分でなければサラゾスルファピリジンなど他のDMARDsを併用します。関節炎が激しい場合はステロイドも併用します。
 最近になって、このステップ・ダウン方式で関節破壊が実際に防止できたという成績が数多く報告されています。

 2002年、米国リウマチ学会は、新しい治療ガイドラインを発表しました(図3)。このガイドラインでは、最近開発された治療薬を、早期の段階から積極的に使って、これまでのピラミッド方式の治療法の弱点をカバーしようというものです。

図3 米国関節リウマチ学会治療ガイドライン(2002)

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 早期診断し、発症3カ月以内にメトトレキセートを中心とした強力な DMARDsで治療を開始しようというものです。必要なら少量のステロイドやCox-2選択的阻害薬を併用します。3カ月後に再評価し、治療が成功すれば ステロイドやNSAIDsは徐々に減らして中止するし、無効であればDMARDsの併用療法が生物学的製剤に変更します。この治療ガイドラインは現在、世 界的に認知され関節リウマチ治療戦略の主流になろうとしています。

新しいリウマチ薬の登場

 21世紀に入り、新しい治療薬が続々と開発されています。
 人間の体内ではCox(シクロオキシゲナーゼ)-1という酵素が、胃粘膜を保護したり腎臓の血流量を維持にしたりする物質を生み出します。ところが Coxにはもう1種類あって(Cox-2)、炎症をおこしているところに働き、炎症を促進する物質もつくるのです。

 NSAIDsは、Coxの働きをじゃまして、炎症を抑えるのですが、これまでのNSAIDsは、Cox-1も抑えてしまい、胃潰瘍や腎機能障害の副作用をおこすことが問題となっています。
 最近開発された「Cox-2選択的阻害薬」はおもに炎症にかかわる酵素Cox-2のみを抑え、胃粘膜保護や腎血流量の維持にかかわるCox-1には作用 しない薬です。胃腸障害などの副作用が少ないので、欧米ではNSAIDsの主流になっています(日本では未承認)。
 免疫抑制剤では、新たにレフルノミド(商品名アラバ)が03年10月に日本でも使用が許可されました。
 また現在もっとも注目されている治療薬として、次にご紹介する生物学的製剤(抗サイトカイン療法)があります。

炎症の根本を抑える
—抗サイトカイン療法

 関節リウマチでは、血液や関節内で炎症を引きおこすサイトカインというタンパクが過剰につくられ、これが、炎症をさらにひどくし、関節を破壊しています。
 近年高度に発達した遺伝子工学技術を駆使して、炎症をおこすサイトカインそのものを抑える生物学的製剤が開発されました。これを用いて、炎症を抑え関節破壊を防ぐ治療法が抗サイトカイン療法です。
 この療法は従来の抗リウマチ薬に比べて格段に速く効き、効果が確実で、さらには従来の薬にはなかった関節破壊を抑える効果があるといわれています。

関節リウマチの治療薬

1.炎症を抑え、痛みを止める薬(抗炎症剤)
非ステロイド系抗炎症剤(NSAIDs)
・非選択的Cox抑制剤
ジクロフェナクナトリウム(ボルタレン)、インドメタシン、ロキソプロフェンナトリウム(ロキソニン)など
 ・Cox-2選択的阻害剤*
 副腎皮質ステロイド剤
プレドニゾロン、ベタメタゾン(リンデロン)、デキサメタゾン(デカドロン)など

2.リウマチの進行を遅らせる薬(疾患修飾性抗リウマチ剤 DMARDs)
・免疫調節剤
 金チオリンゴ酸ナトリウム(シオゾール)、オーラノフィン(リドーラ)、D-ペニシラミン(メタルカプターゼ)、ブシラミン(リマチル)、サラゾスルファピリジン(アルザルフィジン)など
・免疫抑制剤
 メトトレキセート(リウマトレックス)、ミゾリビン(ブレディニン)、レフルノミド(アラバ)、シクロスポリン(ネオーラル)*、タクロリムス(プログラフ)*など

3.生物学的製剤(抗サイトカイン療法:炎症をおこすサイトカインの働きを抑える)
インフリキシマブ(レミケード)、エターネルセプト(エンブレル)*、アダリブマブ(ヒューミラ)*、アナキンラ(キネレット)*など

*は日本では未承認。( )内はおもな商品名 

日本でも初めて認可

 日本では、抗サイトカイン療法の薬として、インフリキシマブ(商品名レミケード)が03年7月、初めて認可されました。
 この薬は炎症をおこすサイトカインのひとつ、TNFαに対する抗体です。最大の特徴は、その即効性(3日以内)と強力な抗炎症効果、さらに従来のDMARDsにはない関節破壊抑止効果があることです。
 注意すべき副作用としては感染症があります。特に結核の発病が外国では問題になっており、結核にかかったことのある人には抗結核剤との併用が義務づけられています。
 その他の副作用としては点滴時のアレルギー反応があります。外国でも使用されてから4、5年しか経っていませんので長期的な安全性については不明です。そのため慎重な適応判断と経過観察が望まれます。
 04年にはインフリキシマブと同じ抗TNF製剤であるエターネルセプト(週2回の筋肉注射)が、日本でも使用が認可される予定です。

限られた医療機関でしか使えない

 治療薬として画期的なインフリキシマブですが、一定期間は限られた医療機関だけで5000例の市販後調査(1例6カ月間)をするよう国が義務づけました。調査終了後でないと一般の医療機関では使用できないことになっています。
 薬の安全性のため市販後調査を行なうことは大切ですが、使える医療機関が限定されていることは問題です。
 その医療機関が各都道府県の都市部に集中しているため、治療が必要な患者さんは長年慣れ親しみ信頼してきた医師やスタッフと別れて、その医療機関に転医 しなければなりません。四肢の機能障害をもつ患者さんにとっては大変なことです。
 これはインフリキシマブだけの特殊事情ではなく、その後発売されたレフルノミドも同様です。地域によって最新の治療が受けられる患者さんと受けられない患者さんが生まれることになるわけです。

1本の値段が11万円以上も

 インフリキシマブは体重1kgあたり3mgを初回、2週、6週、以後8週ごとに点滴静注します。この薬は1本が100mgの製品ですので、たいていの患者さんは1回につき2本を使用します。
 薬価は1本11万3190円と、びっくりするほど高価です。1回の治療ではその倍の22万6380円が従来の医療費に追加されることになります。健康保険3割負担の方ですと6万7914円の負担となります。
 身体障害者制度や特定疾患医療費制度の受給者は免除されますが、負担のある方には非常に高額な医療費となります。
 ある調査では関節リウマチの患者さんの年収は健常人の2分の1から4分の1、発症10年で約半数が失職するといわれる現状があります。ますます、受けられる医療内容に貧富の差が生じてしまいます。
 私の外来に来られる患者さんにも高額な薬剤費がかかることを知り、泣く泣くこの治療法を断念された方も実際におられます。

 これから発売予定の生物学的製剤も高額なものとなることが予測され、このような有益な治療法を誰もが安心して平等に受けることができない現実があります。
 抗サイトカイン療法を必要とする難治性患者さんを、特定疾患医療費制度の対象にするなど、なんらかの救済制度ができるように、患者さんとともに厚生労働 省、日本リウマチ財団、日本リウマチ学会、日本リウマチ友の会、リウマチ医療機関に働きかけていかねばならないと思っています。

いつでも元気 2004.3 No.149