特集1 川口外相、あなたはウソつきです イラクで劣化ウラン弾使用、証拠をつかんだ
「核兵器廃絶をめざすヒロシマの会」共同代表
森瀧春子さんに聞く
戦後はじめて日本の兵が海外へ――行き先のイラクはどうなっているのか。劣化ウラン弾禁止のための国際的活動をしている森瀧春子さんに聞きました。
「劣化ウラン弾禁止ヒロシマ・プロジェクト」の調査団の一員として、昨年六月から七月にかけて二週間、イラクを訪ねました。私は戦争前の〇二年一二月につづいて二度目のイラクでした。
劣化ウラン弾は、九一年の湾岸戦争では主に砂漠で使われたのですが、今回は人口の密集した都市部で使われました。使った証拠をつかむことが今回の調査の 大きな目的で、専門的知識がありませんから、私も事前にかなり勉強しました。
戦争の跡が残っている間にということで急いでいきましたが、いまもあまり変わっていないようです。電気系統が破壊されたまま、温度計が振り切れるほどの 暑さのなかで、病院にはエアコンもない。とうぜん衛生状態も悪く、ハエがぶんぶん飛んでも追い払う力もない子の顔にとまったままになっている。
私は広島の被爆者にウジがわいた話を思い出しました。
チリや土、尿を採取して
街には破壊された戦車がたくさんあります。すごく厚い戦車の装甲にぽこっと穴があいている。それが劣化ウラン弾の跡です。そういう戦車のチリをろ紙に吸いつけたり、近くの土壌やバンカーバスター爆撃でできたクレーターにたまった水などを、サンプルとして採取しました。
放射能の怖さを知っていますから、全身をビニールでおおって「完全武装」です。暑くてふらふらするほどで、男の人はだんだんいいかげんになって装備を脱 ぐんですよ。私は責任者ですから「みんな着けてください!」といいつづけて。
クウェート国境地帯。放置された戦車群からは1300倍の放射線が |
人体への影響を証明するには尿が必要で、これが一番苦労しました。劣化ウラン弾が集中的に使われた地区にいってみると、市場のまんなかに戦車が残ってい ます。それに子どもが乗って遊ぶんですね。私たちがいくと、戦車で遊んでけがをした子を連れた親が、医者でもないのに「心配だから診てくれ」という。米軍 に戦車をどけてくれるよう住民が頼んでもらちがあかないそうです。
その場所で、尿を集める「しびん」やボトルを配ったのですが、ふと、「これは台所用品になるのでは」と思いました。なぜかというと、水道が破壊されてい るから給水車がくる。たくさん容器がいるわけです。「しびん」といっても新品ですからもしかして、と思ったら案の定、渡した一〇人のうち戻ったのは二人だ けで、あとは水容器にされてしまいました。
尿は凝縮する必要があり、「鉄板で蒸発させなさい」といわれていました。でも部屋には電気系統がない。ベランダで干したら、ほこりが入る。だから部屋の中で干すのですが、温度が高いのと異様な臭いで息ができない状態でした。
結果として蒸発できないで、一人二四時間分の尿を九例分、そのままの量で持ち帰りましたが、あちこちでひっかかりました。尿はあまり例がない(笑い)。 粘りに粘って必死で苦労話もしたら、役人が「そんな苦労して採ったものをむだにはできないね」と認めてくれました。
腹水にふくれあがったわが子のおなかをしめす母親 |
民族虐殺の様相に
持ち帰った土壌、チリ、尿など各種サンプルのうち、尿や土壌は金沢大学で分析中ですが、時間がかかるよう です。チリについては、広島大学の原医研(原爆放射線医科学研究所)で、一つのろ紙サンプル(バグダッド近郊都市で採集)の分析から、ウラン235の存在 比率(0・15%)が、劣化ウランの中での存在比率と一致する、という結果が出ました。
これだけでも、イラクの都市で劣化ウラン弾が使われたことが証明されたわけです。イラクは戦車だけはたくさん持っていて各都市に配置した。米軍はイラク 軍の戦闘力をそぐため、都市で大量に劣化ウラン弾を使い戦車を破壊したのです。
五〇〇?以上使ったという証言もありますが、アメリカは公式には「たしかに使ったが少量で、人体に影響はない」と説明しています。日本の川口順子外務大 臣はそれすら否定しているわけです。私は怒り心頭に発して「川口大臣、あなたはうそつきです」といっています。石破茂防衛庁長官も否定しています。そうい いながら自衛隊には線量計をもたせる。
自衛隊員たちには、「殺しにいくな、殺されにいくな」ということはもちろん、放射能の被害は未来にわたってながくつづくことを訴えたいと思います。
これは第3の核戦争だ
病院では患者の大半が白血病で、ほとんどは子どもです。放射線の影響は一番子どもに出るのです。事態はほんとうに深刻で、イラクは砂漠の国で砂嵐も強い、これからものすごく影響が広がるだろうと思います。
イラクの人口は二三〇〇万。そこで一カ月に、一五歳以下の子どもが六千人から七五〇〇人、白血病などで死んでいっています。この状況はジェノサイド、一 民族の虐殺ということが予想されます。早く使用禁止にもっていかないと大変なことになります。
アメリカが使ったと認めないのは、世論が高まって劣化ウラン弾が使えなくなるのを阻止したいからです。それだけでなく、処理に困る核のゴミであった劣化 ウランでもうけている。一五カ国に輸出していて、いま保有国は一六カ国です。私たちは「劣化ウラン弾禁止をもとめる国際連合」の結成をよびかけ、昨年一〇 月に八カ国の平和活動家や専門家が準備会議を開きました。五月にブリュッセルで発足の会議を開く準備をしています。
日本は被爆国で、放射線研究では最高レベルですから、世界に訴えなければいけない。とくに広島には義務があると思います。私は被爆者ではありませんが、 幼いころから父(被爆者運動に尽力した森瀧市郎さん)をはじめ被爆者の苦しみを見て育ち、核兵器には特別の思いがあります。私は劣化ウラン弾を放射能兵器 といっていますが、アメリカの著名な女性医学者ヘレン・カルディコット博士は湾岸戦争のとき「これは第三の核戦争だ」といっています。
治療体制自体が崩壊して
イラクでは「広島からきた」といってその思いや調査の目的を伝えました。でも、バスラで一人のお母さんが 「広島は一発だけじゃないか」といいました。原爆の能力を知らないからだと思いますが、バスラは湾岸戦争後も爆撃がつづき、こんどの戦争もそうだった、こ んなに子どもたちがやられているというんですね。
とにかく、イラクは治療体制自体が崩壊しています。薬も医療器具も何もかもない。日本では白血病は七割助かるといわれますが、イラクでは9%です。助か る命が失われている。民間で薬品などの支援をしても、「気持ちはありがたいが、一千万円でも、この病院一つで一週間もたないんだ」といわれました。
彼らが本当に望むのは国としての支援です。日本政府が総額五〇億ドル、年間一五億ドル支援するといいますが、「復興」はほとんどアメリカの大企業が独占 し、お金はそこにいってしまう。一億円だけでもいいからなぜすぐイラクに医療品を運び込まないか。いくらでもできるじゃないですか。私たちだって本当に危 険をおかしていっているわけです。
この子の命を返せ!
戦争前、イラクは貧しいけど物乞いする人はいなかった。飛行機が夜空港に近づくと街はキラキラ輝いていた。いま夜は暗くて不気味です。子どもたちはマネーマネーといって群がってきます。
子どももおとなも気が立っています。広島のお母さんたちから託された絵手紙をわたすと喜ばれたのですが、一人のおばあさんが「こんなものはいらない、こ の子の命を返せ!」と叫びました。子どもが死にかけてるんです。あと数時間か明日までかという孫を前にして、「ブッシュがこんな目にあわせた。フセインも われわれを放って逃げた。取り残されてこの子は死ぬしかない。どうしてくれるんだ」という。怒りをぶつけているのです。
そして最後には、私をぎゅっと抱きしめてくれました。私は涙がとまりませんでした。女ですから、そういう体験をするとたまらないです。日本だったら救える子が、救えないんですからね。
聞き手・中西英治記者
いつでも元気 2004.3 No.149