介護保険料の減免794人に930万円 行政と共同で実現/埼玉「草加の介護保険を考える会」
埼玉県の東南部。東京の足立区に隣接する草加市は、人口二三万の中都市です。草加市議会で、介護保険料減免が可決されたのは二〇〇一年の一二月。申請者への減免は〇二年度から始まり、〇三年度は一一月上旬までで七九四人が認定され、約九三〇万円が軽減されています。
「減免を決めさせたこともすごいけど、それを実際に運用させている実績がすごいでしょ」と語るのは、五年まえに発足した「草加の介護保険を考える会」会 長の小松静子さん。「継続と共同」を大切にして行政を動かし、市民本位の介護保険運用の原動力になってきました。
行政との「対話」をつくり
「草加の介護保険を考える会」が発足したのは九八年。市職員労働組合が呼びかけ、教職員組合、土建、民商、医療生協の草加支部など約一〇団体が集まりました。小松さんはさいたま医療生協の代表として参加しました。
最初の大きな成果は、二〇〇〇年九月市議会で決議された介護保険利用料の減免です。対象者は所得に応じて、一〇%の利用料が三%に軽減されることに。
「継続して行政と話しあう場をもってきた結果です」と小松さん。「行政はけっして敵じゃないんです。話しあってみると、住民のために仕事をしたいと思っ ている職員はたくさんいます。でも市にもいろいろ課題があるから、自分たちの要求が後回しにされないよう、たえずアピールすることが大事なんです。そうし たら行政担当者も動きやすくなるでしょ」
介護保険担当課長との懇談、対市交渉、市長との話しあい、陳情、要請など、行政と実態を共有できるよう、つながりをつくる機会を積み重ねてきました。保 守系議員が圧倒的に多い市議会。請願で紹介議員を頼むときも、誠意をもって粘りづよく全会派に依頼してきたとか。
小松さんの語る「共同」は、運動仲間だけではなく、行政をも巻き込む意味をもっています。
住民運動は線香花火のように
「考える会」は、最低でも毎月一回は会議を継続。「今度はこの問題を重点にいってみようか」とわいわい会議を楽しみます。利用料の減免が実現すると、「次は保険料の減免ね」と。
「住民運動は打ち上げ花火をドンとやって終わりじゃだめ。線香花火でいいから、みんなで息長く、が基本ですよ」
〇一年一〇月には、新しく当選した市長とさっそく懇談。そして一二月市議会で、介護保険料減免決議へつながります。
「すばらしいのは、このチラシですよ」
そういって小松さんが手にするのは、介護保険料減免の内容と手続き方法を詳述した、4ページのリーフレット(右ページ参照)。まんが風の動物イラストがかわいい、読みやすい文書です。
「市役所がつくって、全高齢者世帯に郵送したものです。役所が読みやすさにも工夫をこらして、こういう文書を出すっていうことは、減免に本気でとりくんでいる証拠でしょ」
八百人近い保険料減免認定者は、「考える会」のつながりで申請した人たちではありません。広報で「介護保険料減免特集」を出すなど、行政の努力があってこその数字です。
「担当課長が、『裏をはがしてみる葉書じゃ、お年寄りは絶対に読まない。どうしたら読んでもらえるかな』なんて頭をひねって、広報してくれています。私 たちの成果は、市がそういうふうに動く土壌をつくったことかしらね」
けっして終わりをつくらずに
市職員労働組合の事務所で午後六時半から始まる、「考える会」の会議。
「紙の色は白よりピンクのが目だつよ」
「この文末の表現。『…すべきだ』じゃちょっとキツイから、『…が望ましい』ぐらいにしといたら?」
小松さんが考えてきたチラシ原案に、委員たちからいろいろな注文がつき、原案とすっかり違う姿に。
「こうやってみんなが意見を出しあうことが大事なの。そうして運動していけば、すべての人が『自分がつくった。自分も参加してる』って思えるでしょ。それが力になるのよ」
――いまとりくんでいるのは?
「新型老人ホームは個室でいいなんていうけど、利用料が高くて大変なんです。そういう現実を、お年寄りに知らせていくこと。それに、減免は実現したけ ど、予算は保険料から出されています。これを、市の予算から出させること」
住民運動の基本は、継続と共同。けっして終わりをつくらずに、息長く行政を動かす。発足六年目、「考える会」の活動スタイルが少しずつ定着し、草加市の 介護保険のありかたを、着実に住民本位に変えているようです。
日本福祉大学社会福祉学部・石川満助教授の話「保険料の減免制度をつくっても申請する人が少ない自治体が多いなかで、七九四人、九三〇万円というのは立 派な実績だと思います。預貯金三百万円以下というのもいい。この程度の手持ち金はどこでも認められるべきです」
文・矢吹紀人(ルポライター)
いつでも元気 2004.1 No.147