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いつでも元気

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特集1 子どもの病気には24時間対応が必要だが 小児医療SOS 病院から小児科が消えてゆく

群馬・福島では…
 一般病院から「小児科」が姿を消す傾向が、ここ数年強まっています。厚生労働省が一九九九年に調査した ところでは、小児科のある一般病院は一年間で二百近く減ったとか。そんな「小児医療SOS」状態がすすむなか、「子どもの病気には、二四時間いつでも対応 できなくては」とがんばる小児科医師たちの姿を、民医連の病院で追ってみました。

 無理のない輪番制で対応

 群馬県高崎市にある高崎中央病院では、小児科の常勤医は鈴木隆医師ひとり。以前は、入院(六床)だけでなく、小児の一般外来もひとりで診ていたといいます。
 「患者さんがふえてきたので、いまは外来に非常勤の医師も入ってもらっています。高崎はこの一〇年出生数はかわっていませんし、開業医とのネットワーク で紹介患者もふえてきていますからね」
 そう語る鈴木医師は、二年前から毎月二回、地域の救急小児患者すべてを受け入れる、輪番制の当直に携わるようになりました。これは群馬県が独自に始めた もので、「この地域のどこかの病院に深夜も必ず小児科医がいて、救急患者は受け入れる、というのが約束です」。
 西毛地域(高崎市、藤岡市、富岡市、安中市を中心とした群馬県西部)には、病院勤務の小児科医が一五人います。この医師たちが輪番で、日曜祝祭日の昼間と、すべての夜間の当直をします。
 当直にあたった夜は、冬季であれば一晩に患者が二〇人以上ということも。インフルエンザが話題になった今年は、かなりきつかったとか。それでも鈴木医師 は、この態勢ができたことで小児科医も楽になったといいます。
 「ひとり平均にならすと毎月二回当直がまわってくる。逆にいえば、それ以外の日の急患は診なくていいわけでしょ。いつ急患がくるかもしれない状態でいる より、月二回当直でがんばるほうが無理がないですからね」

 進まなかった厚労省の政策

 「全国を三六〇にわけた医療圏で、少なくとも一カ所は休日や夜間の診療にあたる小児科を確保する」。厚生労働省は一九九九年、そういう内容の小児医療支援事業を開始しました。少子化対策事業として策定した「新エンゼルプラン」の一環ですすめる計画でした。
 ところが、初年度実施はわずか二二医療圏。三年で全国に広げる予定が、四年たった現在でも半分以下の一一五医療圏程度にとどまっているといわれます。
 この事業では病院への国の補助金が、当直一回あたり、当初わずか二万円あまり。計画に現実性のないことが、すすまなかった大きな理由でした。
 そこで群馬県は、県内を五つの医療圏にわけ、輪番制による小児救急医療体制を二〇〇一年度から始めたのです。独自に補助金を上乗せし、合計五万数千円になりました。
 「厚労省の計画では、群馬県は一〇の医療圏にわかれます。それだと小児科医が数人しかいないところもあって無理。そこで、小児科医一四、五人を目安に医 療圏をまとめたのです。これで、少なくとも救急車のたらい回しはなくなりますから。緊急手術やICU(集中治療室)が必要な場合も、群馬大病院や県立小児 医療センターに頼みやすくなった、というメリットがあります」と鈴木医師。
 高崎市医師会の小児科医会にも常に出席し、約三〇人の開業医とも顔なじみになり、地域の小児医療を守っています。

 小児科入院の半数が時間外で

 福島市にある、わたり病院は、入院病棟一九六床のうち一一床が、小児病床の定数。この病院でも、常勤小児科医は北條徹医師ひとりです。外来には非常勤医師も入りますが、北條医師は月水金の午前・午後・夕方(午後六時半まで受けつけ)と、火木の半日を担当します。
 「以前は若かったんで当直もやりましたが、時間外の呼び出しもあるので、いまは当直ははずしてもらっています」と北條医師。
 人口三〇万人弱の福島市では、医師会の「夜間急病診療所」が小児科の診察もします。しかし小児科医がいるのは夜一一時までなので、一一時すぎると親はふ つうの病院に子どもを連れてきます。
 「うちの病院はいつでも受けつけています。小児科の患者がきて内科や外科の当直医では対応が困難だとか、入院が必要となれば私に連絡があります。私は二 四時間、三六五日拘束されているわけです。都会とちがって、夜なら車で一五分あれば自宅からかけつけられますから」
 わたり病院の小児科入院患者数は、年間約四六〇人。入院した時間帯を調べたところ、じつに四七%が時間外入院だったといいます。
 「小児科っていうのは、それだけ時間外診療の態勢を考えなければいけない診療科目なんですよ」(北條医師)

 スキー場からかけつけたことも

 北條医師は、日曜日などにまだ小さかったわが子を連れてスキーにいっていたとき病院から連絡があり、一時間半かけて戻ったこともあったとか。いまでも平均して週に一回以上は夜呼び出されると語ります。
 「当直医の判断で子どもが入院したときは、基本的には病棟看護師に患者をみてもらって、電話で連絡をとって指示をする。でも、子どもの病気のすすむス ピードはおとなとぜんぜん違うし、自分で直接みてみなければ、どれぐらいの症状かわからないこともあるんですよね」
 たとえば、ぜん息でゼーゼー、ヒューヒュー(喘鳴)がひどい子の場合。点滴から酸素吸入、抗生物質の注射、酸素テント、ステロイドの注射、イソプロテレ ノール持続吸入と、症状の段階に応じた適切な治療が必要になります。
 「私が直接背中をたたき(タッピング)、タンを吸いだすだけでよくなることもある。逆に、いままさにこの治療が必要で、何時間か遅れていたら気管内挿管 (のどから管を入れる)だったということも。やはり、そこに小児科医がいるかいないかは大きな違いです」
 そうはいっても現行の医療制度のなかでは、福島市のような地方都市で、予防や健診をふくめて、二四時間、いつでも小児科医が必ず診るというのは、現実に は無理だろう、と北條医師は語ります。

 地域の信頼と現実の間で

 医学部を卒業後、研修を終えてわたり病院に入った北條医師。小児科創設と同時に担当となり、二〇年かかって築いたのが現在の「わたり病院小児科」です。
 「本当は、小児科医にだけはなりたくなかった。子どもと接する機会がなかったんで、どうやって相手をしていいかわからなかったんです。だから、はじめは 親とばかり話していた。それではだめだとわかり、なんとか子どもとコミュニケーションをとるようにしてきました。いまでは、ニコッと笑いかけて診察する術 も身につけましたけどね(笑)」
 ゼロの状態からスタートして、民医連、医療生協の小児科として地域から信頼されるまでになった事実。「わたり病院小児科は私の人生そのもの」と語る北條 医師だからこそ、全生活を投入するような診療態勢がつくれているのだともいえます。
 「けれど、僕がいなくなったとき、後継の医師に同じことを要求するのはとうてい無理。日本全体を考えても、内科や外科の医師にも小児科の研修を積んでも らい、時間外の一般診療は幅広いバックアップでやっていくような態勢をつくらなければ、これからの小児医療は維持できなくなるんじゃないでしょうか」

 根本的な解決策はどこに?

 いまの小児医療の危機の背景には、「出生数が減っている」「小児科に対する診療報酬が低く不採算」「勤務医の激務」…さまざまな問題があります。全日本 民医連の小児医療研究会世話人である大久保節士郎医師(東京・立川相互病院付属子ども診療所所長)は、小児医療をたてなおすには、国や自治体の責任が重要 になると語ります。
 「厚労省は輪番制をすすめていますが、当直した医師が当直明けに休んだり、他の医師が交代で入ったりできるような経済的保障はまったくないんです。当直 をした医師が次の日、ボーッとした頭で診療に入らざるをえない。これは危険なことです。また小児科医の過労死が出ましたが、こんな状態で医師のがんばりだ けに頼っていたら、おきて当然です」
 立川相互病院のある多摩地区では、石原慎太郎都知事が「東京ER構想(総合救急診療科)」を提唱。清瀬小児病院、都立梅ヶ丘病院、八王子小児病院をつぶ して、府中に統合するとしています。
 しかし、いま小児科の患者が清瀬小児病院で年間約二万人、八王子小児病院で一万八〇〇〇人、府中病院にも一万数千人やってきます。府中に統合するとした ら、五万人規模の患者を受け入れる病院、それをささえる医師の態勢が必要です。都はひとつの病院にそんな態勢をつくろうとしているのでしょうか。遠くの患 者さんは、通うことも困難になります。
 「本筋からいえば、現在ある病院にきちんとお金を注ぎ込んで、医師の数を確保していくべきなのですよ。そうすれば住民にとっても、いつでも診てもらえる 地域に密着した小児科が存在することになりますからね」
 公的な経済的支援と、責任をもった医師の確保。この二つが果たされない限り、ほんとうの意味での「小児医療SOS」の解決はないようです。

文・矢吹紀人

いつでも元気 2003.6 No.140