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いつでも元気

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特集1 在宅も施設もたいへんです介護報酬改定 現場の声は? とやま虹の会を訪ねて

 

 「天を仰いで絶句した」という人がいます。介護保険でサービスを提供する事業者に支払われ る介護の単価(介護報酬)が改定され、「これではヘルパーは援助ができない」という悲鳴さえ聞こえます。いま現場に何がおきているか。富山市で介護支援に たずさわる、とやま虹の会を訪ね、話をききました。

 大橋美喜枝さん(92歳)は朝からごきげんでした。「お孫さんが結婚するって?」。社会福祉法人とやま 虹の会事務局長の小西乃里子さんが声をかけると、「そうそう。うれしいねえ」。富山市二ツ屋にお孫さんと住む大橋さんの家には、毎日、一時間か一時間半、 ヘルパーさんがきます。

営利企業が参入しやすい改定?
 介護保険がスタートして三年。要介護認定を受けた人は三二九万人(昨年10月末現在)。この四月は、三年ごとにおこなわれる見直しの最初の年にあたり、 市町村の介護事業計画の見直し、四〇歳以上の人が毎月おさめる保険料の見直しもおこなわれました。保険料改定は全国平均で一一%の値上げになります。
 「介護報酬」も、四月から改定されますが、ヘルパーやサービス提供事業者からきびしい批判の声があがっています。なぜでしょうか。
 今回の改定は、報酬単価を全体で二・三%引き下げますが、「居宅(在宅)サービス」は〇・一%アップ、「施設サービス」は四・〇%マイナス。そこで「在 宅を重視した」と政府はいうのですが、小西さんは「私たちの試算では、事業者にとっては『すべてにマイナス』」といいます。

●在宅では
在宅サービスの訪問介護は、これまで(1)入浴や食事介助など身体介護(2)掃除・洗濯など家事援助(3)複合型の三種類でしたが、今回、「複合型」が廃 止され、(1)身体介護と(2)生活援助の二種類に変更。単価を表のようにしました。
 「三〇分未満の身体介護は二一〇円アップしますが、やれるのはおむつ交換くらい。要介護度四や五の方の清拭・着替えなどは時間がかかります。一時間半が 境目になっていて、それをこえるとすべてマイナスになってしまうのです」
 心配されるのは、手のかかる人を介護すれば赤字になるため、利潤追求型の業者は短時間サービスに傾き、重度の人が置き去りにされるのではないか…。
 現に、「改定後は増収が期待薄のため、対応策として訪問介護事業者の間では一回のサービス提供時間を短縮しようとする動きも出ている」そうで、ニチイ学 館の寺田明彦社長は「パートヘルパーの短時間の滞在を増やして、例えば、1日1回だったサービスを朝夕2回に分けて、必要に応じたケアを提供する方式を利 用者やケアマネジャーに提案していきたい」と語っています(『日経ヘルスケア』3月号)。
 今回の改定は、こうした業者からの要望にこたえたものともいわれ、営利事業化の波が高まっています。
 でも、小西さんはいいます。「私たちは営利が目的ではありません。介護の必要なお年寄りに、どう自分らしい生活を送っていただくかを大事にします。長時 間介護も、赤字を承知でこれまでどおりやっていこう、と話し合っています」

●施設では
施設サービスの介護報酬はひき下げられ、利用者にとっては負担が軽くなるはず。ところが、特別養護老人ホーム利用者に「ホテルコスト」の負担をもとめる方 向が示されました。これからの特養ホームは全室個室とし、光熱費や部屋代として一人月額五万円程度徴収するというのです。利用料と食事代をあわせると、月 一〇万円を超す負担に。
 「うちの施設利用者の八割は女性で、大半は老齢福祉年金一万二千円しか収入のない人です。これらの方に一〇万円の負担ができるはずもなく、特養にいられなくなってしまう」(小西さん)
 介護報酬の改定はなによりも利用者にとってゆゆしい緊急事態です。

訪問介護報酬の改定 (2時間30分以上は略)
  所要時間 現 行 改定後 増 減
身体介護 30分未満 2100円   2310円   +210円
30分~1時間未満 4020円   4020円   0円
1時間~1時間30分未満 5840円   5840円   0円
(以降、30分増すごとに) 2190円加算 830円加算 -1360円
1時間30分~2時間未満 8030円   6670円   -1360円
2時間~2時間30分未満 10220円   7500円   -2720円
生活援助 30分~1時間未満 1530円   2080円   +550円
1時間~1時間30分未満 2220円   2910円   +690円
(以降、30分増すごとに) 830円加算 830円加算 0円
1時間30分~2時間未満 3050円   3740円   +690円
2時間~2時間30分未満 3880円   4570円   +690円
(生活援助は家事援助との比較です)

 

ケアマネにも「3割減算」導入
 介護サービスを受けるとき、ケアプランの作成などを担当する、ケアマネジャー(介護支援専門員)も大変です。
 ケアマネの報酬はこれまで、介護度におうじて、一件月額(1)八四〇〇円(2)七二〇〇円(3)六五〇〇円の三段階。今回それが八五〇〇円に一本化され ました。ひき上げには違いないのですが、「これでは人件費も出ません」と小竹由子さん。虹の会「しらいわ介護支援センター」所長、七人いるケアマネさんの リーダーです。
 ケアマネは五〇件を受け持つのが「標準」。利用者五〇人にケアマネ一人をおくことになっています。「でも五〇人なんて不可能。時間のかかる困難な事例を抱えていれば、二〇件が限度です」。二〇人×八五〇〇円=一七万円では、諸経費を考えると、人件費が出ないのも当然。
 そのうえ苦労してケアプランをたてても、利用されなければ報酬はゼロです。
 重大なのは、「三割減算」の導入です。ケアマネの報酬には三つの要件((1)ケアプランを作る(2)月一回利用者を訪問し、三カ月に一回サービス実施状 況を把握し記録する(3)認定・更新時、サービス担当者会議を開く)があり、一つでも欠けると、報酬が三割カットされて五九五〇円に減額されます。小竹さ んはいいます。
 「私たちは三割減算にならないようがんばります。でも、事業所によっては、こんな手間のかかることはやっていられないとはじめから三割減算を見込んで予 算をたて、ケアマネに『もっと件数を取れ』とあおるところも出るでしょう。ケアマネは一人ひとりにきちっと対応したいのです。件数をふやせば、質が低下 し、ケアマネの生きがいもなくなります」
 件数だけを増やそうとすれば、この面からも時間のかかる重い利用者は敬遠されることになります。

「燃えつきる」ケアマネジャー
 小竹さんは、介護保険ができる前、虹の会の介護支援センターで相談員をしていました。「ケアプランをたてるには、利用者の身体状況、地域や家庭環境など を調べアセスメント(評価)をします。私たちは前からすでに実践的にやっていたので、介護保険ができたときは『やっと制度的にやれる、アセスメントも時間 をかけて専門的にできる』と喜びました。でも、介護保険には矛盾がありすぎます」
 ケアマネージメントはきちんと人を配置して時間をかけなければいけないのに、「現実には多くは兼務で、五〇件が標準という。五〇人もの人生を大事にし、 親身に相談にのるのは、どんな能力がある人でも不可能です。一人ひとりに喜ばれ頼りにされてこそ、やりがいがある。そのなかで私たちは学び、成長してきま した。現状はあまりに件数が多く、ケアマネは真剣に向き合うほど燃えつきてしまう。チームでなんとか支えあっているのが現状です」
 小竹さんのところでは、ケアマネがかかえる件数は平均三七件。「初めての訪問で台所なんか入れてもらえません。何回か訪ねて生活が見えてくる。ほんとに ニーズを把握するには、必要があれば毎日でも足を運ぶ。家庭をもつケアマネは夕方には自分の家事のため帰宅しなければならず、その分土日出勤で穴埋めした り」
 介護保険ができたとき、医師、看護師、介護福祉士など多くの人がケアマネの資格をとりました。試験の合格者は二六万五二六九人。しかし実際に仕事をしている人はその約一割、三万人前後とか。
 「生きる意欲もなかったおじいちゃんが、デイサービスでニコニコ歌っているのをみると、『この人の人生にこんな瞬間ができてよかった』と思います。私た ちの喜びといえば、そんなささやかなこと。逆に泣くことですか? 泣くより怒るほうが多いですね。机のうえで考えた基準がいかに現実にあわないか。『どう して?どうして?』って、しょっちゅう怒ってます」。小竹さんは苦笑しました。
 
低所得者の保険料・利用料を減額
 苦しいことの多い春ですが、小西さんらが喜んでいることもあります。
 一つは、富山市で初めて低所得者に利用料の減免(一〇%の自己負担を五%に減額)が実現したこと。「富山市は保険料引き上げが全国平均一一%にたいし最 高の三六%。そのなかで、所得区分が二段階までの人の保険料が減額されたこと、はじめて利用料減免ができたことは、不十分とはいえ私たちの声が取り入れら れたものと評価しています」と小西さん。
 もう一つ、「地域分散型サテライトケア」の推進がきまり、予算がついたこと。高齢者が住み慣れた地域社会のなかで生活をつづけられるように、民家などを活用して、定員九人の小規模な多機能サービス拠点をつくる、というものです。
 富山市が家屋改修費五件分(一件五百万円)を負担するうち二件が虹の会の分。六月オープン予定の一つを訪ねてみると、大きな農家の前庭にたつ木造の農具小屋がその予定地でした。
 建築技師がすっかり気に入り、この雰囲気を生かして、あたたかい施設をつくる計画とか。小屋を提供した斎藤家の主婦、真子さん(70歳)は、「私も義父 を一三年介護し、ヘルパーもいない時代で大変でした。いまは使わない小屋を、ぜひそういう施設にしたいと、私自身が願っていました」と楽しみにしていま す。
 
「その人らしく」を大切に
 サテライト型施設ができる六月、虹の会は発足一〇周年を迎えます。準備している構成劇のテーマは《福祉のまちづくりの拠点になろう》だとか。
 小西さんは、「私たちは人権尊重、その人らしくと思ってきましたが、スウェーデンにいって、あちらの『その人らしく』はスケールが違うのにびっくりしま した。入居している芸術家がすばらしい木のスプーンをつくっていて、施設の職員が材料になる木を森へ切りにいくんです。日本の福祉がいまめざしているのは 株式会社、福祉でもうける社会。なんてあさましい、と思います。これからは、私たちだけで運動するのではなく、地域の民生委員、農家を提供してくださった 斎藤さんのようなひろい人びとと手をとりあっていきたい。たいへんな時代ですが、元気をだして」と話していました。

文・中西英治記者/写真・若橋一三

いつでも元気 2003.5 No.139